第1章 原子力開発利用の動向
3 主要研究開発の進展状況

(5)原子力船

 原子力船は,その舶用炉技術の向上によって,化石燃料による在来船では困難と見込まれる商船の高速化,長期運航等の実現の可能性があり,また,海運分野のエネルギー供給の多様化にも貢献することが期待される。従って,長い目で我が国の将来を考える時,原子力船研究開発を段階的,着実に進め,原子力船の技術,知見,経験等の蓄積を図っておく必要がある。
 原子力船の研究開発を進めていく上では,実船による海上での種々の運航データの取得が不可欠であるため,日本原子力船研究開発事業団において原子力船「むつ」の開発を中心とした研究開発が進められてきた。
 原子力船「むつ」については,地元との協定に基づき,関根浜新定係港を建設し同港に回航されることとされており,それまでの間,大湊港に係留されている。なお,関根浜新定係港の建設は昭和59年2月から開始された。
 「むつ」による原子力船研究開発については,原子力船実用化の見通し,費用対効果,技術導入や陸上での模擬実験による研究開発の可能性等をめぐって,様々な議論があるところであるが,原子力委員会においては,昭和58年10月,原子力船懇談会を設け,原子力船開発の全体のあり方について調査審議を進めたところ,同年11月,同懇談会から原子力委員会に対し報告書が提出された。原子力委員会は,これを受け,審議を進め,昭和59年1月,原子力船研究開発の必要性及び進め方について決定を行った。即ち,既に修理の完了した「むつ」については,今後,諸試験,実験運航を行い,諸試験から最終的な廃船に至るまでの一貫したデータを取得することが,将来の原子力船研究開発にとって最も有効であり,また今後の「むつ」開発については,現下の厳しい財政事情に鑑み,極力経費の節減に努める等効率的な推進に留意すべきである旨,決定を行った。
 その後,国会をはじめ関係各方面において,「むつ」の取り扱いについて様々な議論が展開されたが,原子力委員会としては,上述の決定を踏まえ,昭和60年度予算概算要求に際し,「むつ」による研究開発については,安全性の確保を大前提として,経費縮減を十分考慮しつつ,今後の舶用炉の研究開発に必要不可欠な知見・データを得るため,速やかに実験航海を行うこととし,そのために必要な新定係港の建設のための経費等について見積りを行った。今後の「むつ」による研究開発については,速やかに実りある成果が得られるよう期待される。
 他方,日本原子力船研究開発事業団は,「むつ」の開発と連携して,経済性・信頼性に優れた小型高性能の舶用炉等の研究開発を行うこととしており,現在,概念確立のための設計評価研究を行っている。
 なお,日本原子力船研究開発事業団は,行政改革の一環として,昭和60年3月31日までに日本原子力研究所に統合ざれることとなっており,このための「日本原子力研究所法の一部を改正する法律案」が,昭和59年3月,第101回国会に提出され,同年7月成立し,公布された。


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