第1章 原子力開発利用の動向
3 主要研究開発の進展状況

(4)放射線利用

 放射線利用は,工業,農林水産業,医療等の分野への幅広い利用を通じて国民生活の向上に大きく貢献するものであり,原子力発電とともに原子力平和利用の重要な柱となるものである。
 放射線利用に係る研究開発は,工業分野については日本原子力研究所高崎研究所等で,農林水産業の分野については農林水産省の試験研究機関等で,また,医療分野については放射線医学総合研究所を中心に進められており,種々の成果が挙がっている。
 食品照射については,原子力委員会が策定した「食品照射研究開発基本計画」に基づいてこれまで研究開発が進められてきたが,バレイショについては既に実用化がなされ,玉ねぎについても,現在,実用化の検討がなされている。昭和59年1月には,科学技術庁において,関係国立試験研究機関の協力を得て,米と小麦について,これまでの研究成果を踏まえた報告書がとりまとめられており,米と小麦の食品照射は安全上問題がない旨の結論が得られている。また,その他の品目(ウィンナーソーセージ,水産ねり製品,みかん)についても研究成果をとりまとめているところである。今後は,国民の理解を得るとともに,関係者の協力の下に,これらの食品照射が実用化に移されることが期待される。
 なお,国際的にみても,食糧農業機関(FAO),世界保健機関(WHO),国際原子力機関(IAEA)の合同専門家会議において,食品照射について,1,000キロラド以下の線量で照射する場合には安全上問題ない旨の結論が得られている。
 医療分野においては,診断の面では,エックス線コンピュータ断層撮影装置(X線CT)が既に広く利用されているが,陽電子(ポジトロン)放出核種を用いることにより従来のX線CTによる診断では不可能な脳,心臓等における代謝及び機能診断を可能とするポジトロンCTも,現在,放射線医学総合研究所において工業技術院等の協力のもとに実用化に向けて開発が進められている。
 また,治療面でも,がんの治療においては電子線,エックス線及びガンマ線による治療が広く利用されているが,さらに,速中性子線,陽子線,重粒子線等による治療法の開発が進められている。こうした中で,昭和59年度には放射線医学総合研究所において,治療効果が高く集中照射が可能な重粒子線による治療の早期実現を目指して,医用重粒子加速器の概念調査が開始された。
 一方,昭和58年6月には,がん対策関係閣僚会議において「対がん10ヵ年総合戦略」が決定され,その中で放射線治療に関する研究は重点研究課題として選定されている。また,科学技術会議においても,同年7月に「がん研究推進の基本方策に関する意見」がとりまとめられ,がんの放射線治療を,特に重点を置いて推進すべき研究の一つと位置付けている。


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