第1章 原子力開発利用の動向
2 核燃料サイクル確立に向けての進展

(2)核燃料サイクルの状況

イ)ウラン濃縮
 濃縮役務の安定供給の確保は,我が国の原子力発電の円滑な進展のためには不可欠である。現在,我が国は濃縮役務のほぼ全量を米国及びフランスに依存している。このような状況下では,役務供給国の原子力政策あるいは濃縮ウラン需給動向によっては,我が国の原子力発電が制約を受けることも考えられる。したがって,濃縮ウランの国産化は,濃縮ウランの安定供給を確保するとともに,プルトニウム利用を含めた濃縮以降の核燃料サイクルにおける諸活動に対する我が国の自主性を確保するためにも是非とも推進すべきである。
 これまで,我が国は,動力炉・核燃料開発事業団を中心として,遠心分離法によるウラン濃縮技術の開発を推進してきている。同事業団は,昭和57年3月以来,岡山県人形峠においてパイロットプラントの運転を行っている。また,パイロットプラントに続く原型プラントは,民間の協力を得て同事業団が建設及び運転を行うこととされており,昭和58年11月には同プラントの立地地点が岡山県人形峠と決定された。昭和59年8月には同プラントに係る環境審査が終了しており,また,同年7月には同プラントに係る加工事業の許可申請がなされ,現在,安全審査が行われている。

 一方,民間においても,ウラン濃縮の事業化に向けて,現在,電気事業者を中心に準備作業が進められており,昭和59年7月には電気事業連合会により,ウラン濃縮施設に関し,他の核燃料サイクル施設とともに青森県及び同県六ヶ所村に対して立地の申入れがなされている。同施設は,電気事業者が主体となって設立される新会社によって建設・運転されることとなっており,今後,昭和66年頃運転開始を目途に建設準備を進めることとしている。また,メーカーにおいても,このような動きに対応して遠心分離機製造会社を設立すべく準備を進めている。
 我が国のウラン濃縮技術は,遠心分離法を中心として研究開発が推進されてきており,動力炉・核燃料開発事業団による技術開発と運転経験の蓄積により,国際的な水準に達しているものと考えられる。先進諸国は濃縮役務の低コスト化を目指して技術開発を行っており,我が国としても国際競争力を有するウラン濃縮事業を確立すべく,信頼性及び経済性の向上を目指した技術開発を今後とも進める必要がある。かかる観点から,同事業団を中心として民間企業の協力のもとに,高性能遠心分離機の開発が進められるとともに,遠心分離機の経済性向上及び高性能化に必要な研究開発,六フッ化ウランガス処理系の合理化試験等が行われている。
 一方,米国,フランス等において次世代技術として有望視されているレーザー法の技術開発が進展しているが,我が国においても日本原子力研究所及び理化学研究所において研究開発が推進されている。

ロ)使用済燃料の再処理
 再処理技術を確立し,自主的に再処理を行い得る体制を確立することは,国内エネルギー資源に殆ど恵まれない我が国が,技術の力をもって新たな国内エネルギー資源を創出することを意味するものであり,この確立によって初めて,自主的な核燃料サイクルを完結させることができ,また同時に,プルトニウム利用システムへの道を拓くことができる。再処理が核燃料サイクルの要といわれる所以もここにある。また,再処理は,使用済燃料に含まれる放射性廃棄物を適切に管理・処分するという観点からも重要である。
 現在,我が国では,使用済燃料の再処理は大部分を英国及びフランスに委託しているが,自主的な核燃料サイクル確立を図るため,再処理は国内で行うとの原則の下に,将来は国内の再処理工場により再処理需要を満たしていくこととしている。なお,回収されたプルトニウムの海外から我が国への移転には不確実な要因を多分にはらんでおり,この観点からも国内で再処理を行うことの意味は大きい。
 これまで,我が国は,動力炉・核燃料開発事業団を中心に再処理の技術開発を推進してきている。同事業団の東海再処理工場は,昭和56年1月,操業を開始し,昭和58年度末までに合計約174トンの使用済燃料を処理し,約1トンのプルトニウム及び約164トンのウランを回収している。同工場では運転開始以来,種々のトラブルが発生したが,逐次それらを克服しつつ運転が続けられてきた。現在,溶解槽及び酸回収蒸発缶の故障により,昭和58年2月から同工場は操業を停止したが,遠隔操作により補修を行った。現在,新型溶解槽の据付け等を行っており,昭和60年初めにも操業を再開する予定である。以上のように同工場の運転はこれまで必ずしも順調なものではなかったが,建設・運転を通じて得た同事業団の経験は,我が国に再処理技術の定着化を図る上で貴重なものであり,今後の我が国の再処理開発計画に十分反映していかなければならない。
 一方,民間においては,日本原燃サービス(株)により,当初昭和65年度運開を目途に再処理施設の建設準備が進められてきたが,このほど計画を変更し,再処理施設については昭和70年頃の運転開始を目途とし,このうち,使用済燃料受入れ貯蔵施設については昭和66年頃の操業開始を目途に建設準備を進めていくこととしている。昭和59年7月には電気事業連合会により,同施設に関し,他の核燃料サイクル施設とともに青森県及び同県六ヶ所村に対して立地の申入れがなされている。

 以上のような状況の中にあって,原子力委員会は,昭和59年5月,再処理推進懇談会を設置し,今後の再処理の推進のあり方について調査審議を開始した。同懇談会では,再処理技術の現状の評価及び今後の動向,長期的な再処理需給バランス等を踏まえつつ,国内再処理の長期的目標及びそれを達成するための方策等について検討を進めている。
 また,再処理施設に係る技術については,再処理施設の大型化,運転の安定化等を図る観点から,主要機器及びプラントシステムの性能,安全性及び信頼性の向上,環境への放射能放出低減化,保障措置の信頼性向上等に関する技術開発が行われている。また,再処理施設の設計・建設に当たっては,東海再処理工場の建設・運転を通じて得られた経験や技術開発の成果を十分に活かすことが重要であり,動力炉・核燃料開発事業団と日本原燃サービス(株)との間で締結されている「再処理施設の建設・運転等に関する技術協力基本協定」に基づき技術移転の円滑化が図られているところである。

ハ)放射性廃棄物の処理処分
 放射性廃棄物の処理処分対策については国民から重大な関心が寄せられている。昭和59年3月に行われた「原子力に関する世論調査」においても,原子力発電所に対し不安に思うとする者の約30%が,その理由として「廃棄物の保管や処理・処分などから」を挙げており,放射性廃棄物の処理処分方策の確立は喫緊の課題となっている。
 原子力委員会は,放射性廃棄物対策専門部会において,放射性廃棄物対策に関する今後の推進方策について調査審議を進めてきているが,同部会は,昭和59年8月,低レベル放射性廃棄物及び極低レベル放射性廃棄物の陸地処分方策並びに高レベル放射性廃棄物及びTRU(Trans Uranium超ウラン)廃棄物の処理処分方策について,それまでの調査審議の結果をとりまとめ,中間報告書を原子力委員会に提出した。
 放射性廃棄物は,原子力発電所等において発生する低レベル放射性廃棄物,再処理施設において発生する高レベル放射性廃棄物及び再処理工場プルトニウムーウラン混合酸化物(MOX)燃料加工工場等において発生するTRU廃棄物に区分され,処理処分について,それぞれ,その特性に応じて以下のような方策が採られている。

(i)低レベル放射性廃棄物
 原子力発電所等において発生する低レベル放射性廃棄物のうち気体と液体の一部については,処理を行い,安全であることを確認した上で,それぞれ大気中または海洋中に放出されている。残りの液体廃棄物については濃縮してセメントもしくはアスファルトにより固化され,また,固体廃棄物については圧縮,焼却等の処理を行った後,敷地内に安全な状態で貯蔵されている。その累積量は昭和59年3月末現在,全国で200lドラム缶換算で約52万本に達している。これらの廃棄物の一層の減容化,安定化のための処理技術については,政府の支援のもとに民間が中心になって研究開発が行われ,着々と成果をあげているところであり,プラスチック固化,ペレット固化等のより減容性が高く,取り扱いやすい固化法が実用化段階に至っている。
 低レベル放射性廃棄物の処分については海洋処分と陸地処分を併せて行い,極低レベルのものについては放射能レベルに合った合理的な処分方策の確立を図ることを基本方針としている。
 海洋処分については,調査研究の実施,環境安全評価,国内法令の整備,国際条約への加盟等,所要の実施準備は終了しており,今後とも内外関係者の理解を得る努力を続けていくこととしている。なお,昭和58年2月に開催された「廃棄物その他の物の投棄による海洋汚染の防止に関する条約」(ロンドン条約)締約国会議において,海洋処分について科学的な検討を行い,その結論が出るまで海洋処分の一時停止を呼びかけることを内容とする決議が採択された。現在,各国の専門家の参加の下に,この科学的検討が進められつつあるが,我が国としては,海洋処分の安全性に対する一層の信頼性を確立するとの観点から,この検討に積極的に参加しているところである。
 陸地処分については,現在,いわゆる低レベル放射性廃棄物として扱われているものの放射能レベルは多岐にわたっており,これを放射能レベルに応じて適切に取り扱う観点から,前述した放射性廃棄物対策専門部会の中間報告では,従来のいわゆる低レベル放射性廃棄物を,低レベル放射性廃棄物と極低レベル放射性廃棄物及び放射性廃棄物として扱う必要のないものに3区分し,低レベル放射性廃棄物と極低レベル放射性廃棄物についてそれぞれ放射能レベルに応じて合理的に処理処分する方策を示している。
 また,陸地処分の推進にあたっては,低レベル放射性廃棄物を原子力発電所等の敷地外において長期的管理が可能な施設に貯蔵することが現実的な対応策と考えられており,その具体化のための努力がなされてきたが,昭和59年7月には電気事業連合会により低レベル放射性廃棄物貯蔵施設に関し,他の核燃料サイクル施設とともに青森県及び同県六ヶ所村に対し立地の申入れがなされており,今後は,昭和66年頃の操業開始を目途に建設準備が進められることとなっている。また,国においてもその推進を図るため,広く関係方面に対して貯蔵の意義,安全性等について理解を得るべく努めているところである。
 なお,陸地処分に係る試験研究については,現在,日本原子力研究所,(財)原子力環境整備センターを中心に試験研究が実施されており,その結果を踏まえて安全評価手法の整備等を図ることとしている。

(ii)高レベル放射性廃棄物及びTRU廃棄物
 再処理施設において発生する高レベル放射性廃棄物は,現在,東海再処理工場において安全な状態で貯蔵されている。
 高レベル放射性廃棄物については,安定な形態に固化し,処分に適する状態になるまで冷却のための貯蔵を行い,その後地層に処分することを基本方針としている。

 高レベル放射性廃棄物の固化処理及び固化体貯蔵技術については,動力炉・核燃料開発事業団を中心としてホウケイ酸ガラスによる固化処理に重点を置いて研究が進められており,今後はプラントの建設・運転を通じ昭和60年代後半を目途に技術の実証を図るとともに,処分に移行するまでの間の貯蔵プラントを建設することとされている。また,将来の新固化技術であるシンロック固化法については,昭和59年5月,岩動科学技術庁長官が訪豪した際,同国の資源エネルギー大臣との間で研究協力に関する口上書を交換しており,日本原子力研究所を中心に豪州との間で研究協力が昭和59年度から進められることとなった。
 高レベル放射性廃棄物の処分技術については,動力炉・核燃料開発事業団が中心となり,地層処分に重点を置いて研究開発を進めており,地層の特性の調査研究,処分において必要とされる要因を具備した地層の選定作業,放射性物質の漏出を防止する固化体,キャニスター等の人工バリアの開発等を実施している。また,安全性評価及びその手法に係る研究開発は日本原子力研究所において行われている。今後,・これらの研究開発の一層の進展を図り,2000年頃を目途に処分技術の早期実証を目指すものとされている。
 このほか,日本原子力研究所において,長半減期の核種を分離する群分離技術等について研究開発が行われている。
 一方,再処理工場,MOX燃料加工工場等において発生する超ウラン元素を含むTRU廃棄物については,当面は安全に貯蔵できるものの,今後発生量の増加が見込まれ,その特性に応じた処理処分方策の推進が必要であり,高レベル放射性廃棄物の研究開発等の成果を参考としつつ,その処理処分に関する研究開発が進められている。


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