第1章 原子力開発利用の動向
2 核燃料サイクル確立に向けての進展

(1)自主的核燃料サイクルの確立

 原子力発電は,経済性に優れ,大量かつ安定的な電力供給源として最も有望なものであるが,使用済燃料の再処理によって回収されるプルトニウム及びウランが国産エネルギー資源として扱うことができ,その利用によりウラン資源の有効利用を図ることができるとともに,資源面での対外依存度を低減できる点に,化石燃料資源とは異なる特長を有している。
 原子力発電は,現在,軽水炉が中心であり,この軽水炉主流の時代が今後相当の期間にわたって続くとの見方が強まりつつあるが,軽水炉によるウラン燃料の利用という形態は,燃料の海外依存という点において基本的には化石燃料と変わるものでなく,プルトニウムの利用等の技術面での努力により資源面での対外依存度を低減し得るという,この原子力の特長を十分に生かすものでない。すなわち,自主的な核燃料サイクルを確立し,プルトニウムの利用等を図ることにより,原子力発電は,高い供給安定性を有する準国産エネルギーとして位置付けられ得る。
 したがって,エネルギー資源に乏しい我が国にとって,自主的な核燃料サイクルを早期に確立し,プルトニウムの利用システムの実用化を図ることは極めて重要である。
 現在の我が国の原子力開発利用についてみると,原子力発電については順調な進展がみられる一方,また,核燃料サイクルについては,現在,ウラン濃縮役務及び使用済燃料の再処理の殆どを海外に依存している状態であり,このような状況下では,濃縮役務供給国の原子力政策,核燃料輸送をめぐる国際環境の動向等によっては,我が国の原子力発電及び研究開発の進展に支障を及ぼす事態も十分考えられる。また,放射性廃棄物に関しても,原子力発電所等で発生する低レベルの固体放射性廃棄物は現在敷地内に安全に貯蔵されているものの,その最終的な処分体制を確立するまでに至っていない。
 これまで核燃料サイクル分野においては,動力炉・核燃料開発事業団を中心に研究開発が積極的に推進されてきており,ウラン濃縮及び再処理は,ウラン濃縮パイロットプラント及び原型プラント並びに東海再処理工場の設計・建設・運転等の経験を踏まえ,実用化移行段階に達している。このような段階を迎え,民間においては,これまでも再処理事業を行うことを目的として日本原燃サービス(株)が設立される等所要の準備が進められてきているが,昭和59年4月には電気事業連合会により,ウラン濃縮施設,再処理施設及び低レベル放射性廃棄物貯蔵施設の包括的な立地協力要請が青森県に対してなされ,さらに,同年7月には具体的な事業計画,立地地点が示される等,核燃料サイクル確立に向けての具体的な動きが活発化している。
 以上述べたように,関係者の努力により自主的核燃料サイクルの確立に向けて具体的な進展がみられつつあることは,我が国の原子力開発利用を推進していく上で極めて,意義深いものがある。今後も自主的核燃料サイクルの早期確立を図るべく,官民一体となって,その推進に努めることが重要である。
 このような状況の中にあって,原子力委員会は,我が国における核燃料サイクル全般にわたる関係施策の効果的な推進を図るため,核燃料サイクル推進会議を随時開催するとともに,再処理推進懇談会を設置し,我が国の原子力開発の長期的展望等を踏まえ,今後の使用済燃料の再処理の推進のあり方について調査審議を開始した。また,放射性廃棄物の処理処分に関しては,放射性廃棄物対策専門部会において,今後の推進方策について調査審議を進めているところであり,昭和59年8月には中間報告が原子力委員会に提出されている。
 また,総合エネルギー調査会原子力部会においては,原子力発電開発規模の将来見通しの下方修正,核燃料サイクル分野における進展等の最近の情勢変化を踏まえて,昭和59年7月,核燃料サイクルの確立に向けての方策等を内容とする報告書をとりまとめた。


目次へ          第1章 第2節(2)へ