第7章 放射線利用
5 放射線利用に係る研究開発

 放射線利用に係る研究開発については,近年,放射線利用技術の高度化,多様化に伴い,関係機関にまたがる研究課題が増加しており,特に,放射線化学及び加速器利用の分野の研究開発については,関係機関における研究課題を調整し,総合的・計画的に進める必要性が高まってきた。
 放射線利用に係る研究開発は,農林水産業分野については農林水産省の試験場等で,工業分野については日本原子力研究所高崎研究所等で,また医療分野については放射線医学総合研究所を中心に行われている。
 まず,農林水産業分野においては,放射性同位元素はトレーサーとして生理生態研究,施肥法・農薬施用法の改善及び地下水流動機構の解明に利用され大きな成果をあげている。また,アクチバブルトレーサーにより,魚類の回遊状態の追跡も行われている。また,放射線による品種改良が農業技術研究所放射線育種場等で実施されている。
 工業分野においては,放射線照射利用については,日本原子力研究所高崎研究所を中心として,理化学研究所,国公立の試験研究機関等において,高分子材料の開発,環境保全に関する放射線処理技術等の研究開発が行われている。

 また,国立公害研究所において,放射性同位元素を利用して,汚染物質の生物への影響の解明,土壌中の元素の動態の解明等を進めている。この他,日本原子力研究所においては,放射性医薬品原料である99Mo等のRI製造技術,252Cfを用いたオンライン分析等,RI利用技術に係る研究開発が行われている。

 医療の分野においては,診断面及び治療面で研究開発が進められている。
 診断については,従来のX線CTによる診断では不可能な脳,心臓等における代謝及び機能診断を可能とするポジトロンCTの早期実用化が望まれている。現在,放射線医学総合研究所において,工業技術院等の協力のもとに開発が進められている。また,診断に用いる短寿命RIについては,放射線医学総合研究所をはじめ,東北大学においても医用サイクロトロンによる短寿命核種の生産,短寿命RI標識有機化合物の製造技術等に関する研究開発が進められるとともに,国立療養所中野病院等においても,理化学研究所で開発し,既に民間企業で実用化された超小型サイクロトロンを用いて同様の研究が進められている。
 放射線治療については,がんの有力な治療方法として,昭和58年6月,がん対策関係閣僚会議において決定された「対がん10ヵ年総合戦略」及び同年7月に科学技術会議から提出された「がん研究推進基本方策に関する意見」において,その重要性が指摘されているところである。低LET放射線である電子線,エックス線及びガンマ線による治療は既に実用化されているが,低LET放射線では治療効果に限界があるので,現在,生物効果の高い放射線である速中性子線,集中照射が可能である陽子線等の高LET放射線による治療について,研究開発が進められているところであり,速中性子線による治療症例数は約1,400に達している。

 今後の悪性腫瘍の治療には,手術,化学治療法等と放射線治療との有効な併用が必要であり,さらに免疫療法と放射線治療との併用による治療成績の向上に関する研究も進められ,これらの研究の今後の発展が期待されている。


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