第1章 原子力開発利用の動向
2 原子力利用の状況

(3)原子力産業

 原子力開発利用の着実な進展を図るためには,信頼性の高い機器,核燃料等が効率的かつ経済的に生産されることが不可欠である。
 原子力産業は,原子力関連機器の製造,核燃料サイクル関連事業,原子力関連の建設,輸送,各種サービス等の業を行うものの総称であり,多種多様な業種により構成されている。
(社)日本原子力産業会議の調査によれば,昭和56年度において原子力関係の売上実績を有する企業は約300社であり,10年前の約3倍となっている。また,売上高及び従事者数も昭和40年代後半以降急速に増大しており,昭和56年度には,売上高は最終需要相当分で約8,750億円,従事者数は約58,000人に達している。他の産業と比較した場合,売上高については,エアコンあるいはテレビの売上高にほぼ匹敵している。
 研究投資額については,これまで着実な伸びを示しており,昭和56年度には約600億円となっている。その売上高に対する比率は昭和56年度において6%弱である。これは,一般産業の2%弱に比べて高い水準にあり,原子力産業において研究開発が活発に行われていることが示されている。
 輸出入についてみると,昭和56年度において輸出は約180億円,輸入は商社取扱高で約4,700億円である。輸出入バランスは圧倒的に輸入が多いが,輸入の大部分は核燃料関係である。また,技術関係についてみると,昭和56年度においては約75億円となっているが,このうち,我が国の軽水炉の建設が技術導入により進められたため技術導入に伴う定常的な支出が大きな割合を占めている。
 原子力産業は高度な技術複合産業であり,産業規模でみた場合,我が国産業全体の中で占めるウェイトは小さいが,その発展は我が国の産業構造の高度化に大きく寄与するものと考えられる。
 原子力関連機器の製造業は,原子力開発当初は他の先進諸国が大きく先行していたため,軽水炉をはじめ多くを導入技術に依存してきたが,その後の着実な研究開発の進展を経て,その技術力は着実に向上してきている。
 軽水炉については,国産軽水炉が,設備利用率に関し西独を除く他の先進国を凌ぐ稼動をしていることに示されるように,機器製造面では相当高い技術を有しているが,プラント設計面では基本的には,なお海外依存であり,また,プラント建設経験も海外大手企業に比べれば少ない。現在,海外原子炉メーカーと協力して改良型軽水炉(APWR,ABWR)を開発する計画も推進されており,これらの経験を十分に活用して,我が国の原子炉メーカーが,その技術基盤を強化することが期待される。

 一方,核燃料サイクル関連事業については,核燃料加工は事業として確立されているが,ウラン濃縮,再処理等は今後の早期の事業化に向けて努力がなされている。
 新型動力炉,核燃料サイクル関連の技術については,我が国の原子力産業は,国の研究開発プロジェクトへの参加を通じて相当の技術を蓄積していると考えられるが,実用化に向けて,その技術基盤を一層強化することが望まれる。
 我が国の原子力産業は,現在,原子力発電プラントの部品の輸出は行っているが,今後の原子力産業の成長及び海外,特に開発途上国における原子力発電プラントに対する潜在的需要を考えると,プラントの輸出について検討すべき時期に達しつつあると思われる。このため,原子力産業は,技術基盤を強化するとともに,核燃料サイクル関連のサービス事業の整備,金融面の対応策の検討等により原子力発電プラント輸出の条件整備を図っていく必要がある。また,輸出に当たっては,核不拡散の担保が大前提であるので,核不拡散上の配慮を十分検討していくこととする。


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