第1章 原子力開発利用の動向
2 原子力利用の状況

(2)放射線利用

 放射線利用は,工業,農業,医療等の分野への幅広い利用を通じて国民生活の向上に大きく貢献するものであり,原子力発電とともに原子力平和利用の重要な柱となるものである。
 工業分野においては,非破壊検査等放射線の透過性を利用した測定・分析方法として,あるいは,放射線照射工業における線源として広く利用されている。
 農業分野においては,食品照射,品種改良,害虫防除等に利用されている。食品照射については,じゃがいもについて既に実用化がなされ,玉ねぎについては,現在,実用化の検討が行われており,また,米,小麦等その他の品目についても研究成果がとりまとめられているところである。品種改良については,これまでガンマ線照射等により多くの優良品種の育成がなされている。また,害虫防除については,ガンマ線照射による不妊虫を大量に放飼することにより繁殖を抑制する方法であって人体及び環境への影響のない不妊虫放飼法により,沖縄諸島,奄美諸島等においてウリミバエ等の害虫の根絶を図っているところである。
 医療分野においては,特に加速器の利用により,診断及び治療面で目覚しい進展がみられる。診断の面ではエックス線診断が臨床医学の全ての領域で広く利用されている。最近では,エックス線装置とコンピュータを結びつけて臓器の断層像を撮影するエックス線コンピュータ断層撮影装置(X線CT)が既に広く利用されているほか,陽電子(ポジトロン)放出核種を用いることにより体内の代謝及び機能診断も可能とするポジトロンCTも実用化に向けて開発が進められている。

 また,治療面でも放射線は相当大きな効果をあげている。がんの放射線治療は電子線,エックス線及びガンマ線による治療が広く利用されているが,最近では放射線医学総合研究所等においてサイクロトロンを用いた速中性子線あるいは陽子線による治療法の開発が行われており,これまで速中性子線による治療症例数は約1,400に達している。
 がん制圧の実現には国民の大きな期待が寄せられている。昭和58年3月には,がん対策関係閣僚会議が設置され,同年6月には同会議において「対がん10ヵ年総合戦略」が決定され,この戦略の中で,放射線治療に関する研究についても重点研究課題として選定されている。一方,科学技術会議においても,昭和58年7月に「がん研究推進の基本方策に関する意見」がとりまとめられ,その中で,特に重点を置いて推進すべき研究の一つとして放射線治療を位置付けている。
 一方,放射線の利用範囲の拡大に伴い,放射性同位元素や放射線機器に対する需要も増加している。放射線機器のうち直線加速装置,サイクロトロン等の放射線障害防止法に定める放射線発生装置は昭和58年3月末において国内に519台あり,その半数は医療用である。数は少ないが輸出実績もある。また,このほかの放射線機器についても,X線診断装置,X線CT装置等の医用放射線機器の保有台数は急速に伸びてきており,特にCT装置については我が国の保有台数は米国に次いで第2位となっている。これら医用放射線機器については我が国の技術水準は国際的にみても高く,輸出も順調に伸びてきており,我が国の医用機器の輸出の約半数を占めている。


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