第1章 原子力開発利用の動向と新長期計画
4 新しい原子力開発利用長期計画

(3)我が国におけるプルトニウム利用の考え方

 上記長期計画のうち,核燃料サイクルの確立と炉型戦略の背景となるプルトニウム利用に関する考え方は,我が国の原子力政策の根幹の一つとして重要な問題であるので,これに関する考え方を述べることとする。
i 我が国の原子力発電は,現在軽水炉が中心となっているが,軽水炉のみに依存する限り,長期的にはウラン資源の制約から,原子力発電規模に限界が生ずることは避けられない。このため,使用済燃料に含まれるプルトニウム等を利用し,ウラン資源の有効利用を図ることが必要である。また,天然ウラン資源に乏しい我が国は,今後ともウラン資源を海外に依存し続けなければならないが,使用済燃料中に生成されているプルトニウム等は,再処理を行うことによって国内資源として取り扱うことができるものであり,これらを利用し,原子力発電に関する対外依存度を低くすることが重要である。
 このため,我が国は,基本方針として使用済燃料は再処理することとし,回収されるプルトニウム等を積極的に利用することとしている。
ii プルトニウム利用の方法について,前回の長期計画においては,「将来実用化される高速増殖炉への利用が最も有効であるが,その実用化までの間,プルトニウムを熱中性子炉にリサイクルすることにより,天然ウラン及び濃縮ウランの所要量の軽減を図ることが重要な課題である。」とし,また昭和54年8月に原子力委員会が決定した「原子炉開発の基本路線における中間炉について」においては,新型転換炉について「この炉型はプルトニウムを燃料として使い得るという特長をもっているので,高速増殖炉が実用化を見るまでの中間段階において,核燃料サイクル上の有効な役割を果すものと期待される。」としている。
 このように,再処理によって得られるプルトニウムは,消費した以上のプルトニウムを生成することができ将来の原子力発電の主流と考えられる高速増殖炉で利用することを基本方針とし,また,高速増殖炉の実用化までの間,プルトニウムを熱中性子炉で利用することとしていた。
iii 一方,新長期計画の審議の過程において,高速増殖炉の本格的実用化までには,実証炉を含む数基の100万キロワット級の炉を建設する段階が必要であり,実用化の時期は概ね2010年頃と想定され,従来に比べ約10年程度実用化が遅れる見通しとなった。
 これに伴い,熱中性子炉によるプルトニウム利用を考慮しない場合,我が国が必要とする天然ウランと濃縮ウランの量が大幅に増大する見込であり,一方,高速増殖炉開発に必要なプルトニウムの利用が遅れることから,プルトニウム蓄積量は高速増殖炉実用化までの間にかなりの量に達することになる。このため,熱中性子炉によるプルトニウム利用は,従来の「天然ウラン及び濃縮ウラン所要量の削減を図る」という観点が一層重要な意義を有するようになり,これに加えてプルトニウムの貯蔵に係る経済的負担を軽減し,また,核変化により減少する分裂性プルトニウムを無駄にならないよう早期に利用し,さらには,核不拡散上の配慮からの核物質管理の負担を軽減する等の観点からも重要になってきた。
 さらに,昨今,各国における原子力発電開発が計画通り進展していないのに対し,ウラン資源量は,これまでの探鉱活動の結果,かなり増大してきている(OECD/NEA-IAEA報告では,1970年313万ショートトンに対し,1981年は652万ショートトンとなっている)ため,天然ウランの需給は緩んでおり,価格も安定している。しかしながら,採掘までに要する期間等を考慮すると長期的には天然ウランの価格が上昇することも予想されるなど不安定な面がある。
 高速増殖炉のこの経済性は天然ウランの価格をはじめとして,炉の建設コスト,プルトニウム燃料コスト等と密接な関係があるうえ,電力需要の鈍化の傾向が続けば,高速増殖炉が実用化されたとしても直ちには,大量に導入されない場合もあり得ると考えられ,その場合に生じるプルトニウムの余剰を用いて高速増殖炉の実用化以降も熱中性子炉によるプルトニウム利用を行うことが考えられるようになった。
iv 以上のように,プルトニウムは高速増殖炉で利用することを基本とするという点に変化はないものの,熱中性子炉によるプルトニウム利用が従来にも増して重要となってきた。このため,新型転換炉の実証炉を建設し,新型転換炉の開発を進めるとともに,軽水炉でのプルトニウム利用の実証を進め,これら熱中性子炉によるプルトニウム利用の実用化のために努力を傾注することとしたものである。
v なお,プルトニウム利用の実用化には,原子炉の開発と並行して,プルトニウム燃料の加工体制の整備を進める必要がある。プルトニウムの加工については,動力炉・核燃料開発事業団において,高速実験炉「常陽」及び新型転換炉「ふげん」の燃料加工を通じて蓄積した経験の上に,加工機器の自動化や遠隔繰作を大幅に取り入れ,従来に比べ加工能力を一層増大させたプルトニウム燃料加工施設の建設計画を進めている。これは,高速増殖原型炉「もんじゅ」や新型転換炉実証炉の燃料を供給する目的をもつものであるが,将来の実用燃料加工施設への橋渡しとして技術開発上も重要なものである。
 今後,動力炉・核燃料開発事業団は,実用化に向けて,経済性等の向上を図るため,機器の大容量化・合理化の開発を進めることとし,民間は,実用化に備え,技術の移転が円滑に進められるよう動力炉・核燃料開発事業団の施設の運転等に積極的に参加することが必要である。


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