第1章 原子力開発利用の動向と新長期計画
4 新しい原子力開発利用長期計画

(2)新長期計画の概要

〔原子力開発利用の基本的な考え方〕
i 平和利用の堅持
 原子力基本法及び「核兵器の不拡散に関する条約(NPT)」の精神にのつとり,世界の核不拡散体制の確立に貢献していくとともに,我が国の原子力開発利用を厳に平和目的に限って推進する。
ii 安全の確保
 原子力安全委員会の設置,安全規制行政の一貫化等,安全の確保のための新しい体制が発足し,従来に増して安全確保対策の充実が図られてきているが,今後ともこの新しい体制の下で原子力利用の進展に応じたよりきめの細かい安全確保対策を講じる。
iii 自主性の確保と国際協力
 国際的協調を図りつつ,核燃料サイクルについての外的な制約を極力少なくするとともに,自主的な原子力技術体系及び原子力産業の確立をめざす。同時に,「進んで国際協力に資するものとする。」との原子力基本法の基本方針にのつとり,開発途上国に対する協力等を含めて国際協力を積極的に進める。
iv 計画的推進と社会・経済上の配慮総合的かつ長期的な視野の下に,国民経済的視野に立ち,資金及び人材の確保とその有効利用に配慮しつつ,原子力開発利用を計画的に進める。
 その際,原子力施設の立地と地域社会の発展との調和を図ることを含め,原子力が社会に広く受容されるよう努める。
〔原子力開発利用を推進する上での重要事項の考え方〕
i 原子力発電の開発規模
 1990年度末に約4,600万キロワット(総発電設備の約22%)を目標とし開発を進め,さらに2000年は約9,000万キロワット(総発電設備の約30%)と想定し,原子力政策を推進する。
ii 核燃料サイクルの確立と炉型戦略
 (i) 軽水炉の信頼性・経済性を一層向上させる努力を重ねるとともに,以下の方針に沿って核燃料の安定確保を図っていく。
 ・天然ウランについては,供給源の多様化に配慮しつつ多様な方策により,その安定確保を図る。
 ・濃縮ウランの安定確保及び濃縮以降の核燃料サイクルに対する自主性の確保という観点から,ウラン濃縮の国内事業化を進め,国内供給の割合を高めていく。
 ・適切な形態及び量の核燃料の備蓄を推進していく。

 (ii) 使用済燃料から回収されるプルトニウム及びウランは,以下の方針に沿って積極的に利用していく。
 ・使用済燃料は再処理することとし,プルトニウム利用の主体性を確実なものとする等の観点から,原則として再処理は国内で行う。
 ・再処理によって得られるプルトニウムについては,高速増殖炉で利用することを基本的な方針とし,2010年頃の実用化を目標に高速増殖炉の開発を進める。
 ・高速増殖炉の実用化までの間及びそれ以降においてもその導入量によっては,相当量のプルトニウムの蓄積が予想されるため,プルトニウムを熱中性子炉の燃料として利用する。このため,新型転換炉を発電体系に組み入れることができるよう開発を進め,さらに,軽水炉によるプルトニウム利用を図る。この両者については,1990年代中頃までには,その実証を終了し実用化を目指す。
 また,資源の有効利用の観点から回収ウランについては,その積極的利用を図ることとし,具体的には再濃縮し軽水炉燃料とするほか,プルトニウムと混合し,混合酸化物(MOX)燃料として用いることも考えられる。

iii 研究開発の重点
 原子力研究開発全体としての整合性を確保しつつ,今まで以上に重点的に研究開発を進める。なお,その場合において,基礎的研究に必要な資金及び人材の確保については,十分配慮する。
 (i) 軽水炉技術の改善については,民間の自主的な努力を主体とする。国は,これに適切な支援を行うとともに,安全性に関する研究及び廃棄物処理処分等の核燃料サイクルの確立に必要な研究開発を積極的に進める。
 (ii) 新型転換炉及び高速増殖炉並びにその核燃料サイクルに関する研究開発については,できる限り早期に実用化できるよう積極的に進める。
 (iii) 高温ガス炉及び原子力船に関する研究開発については,当面,実験的段階まで研究開発を進め,その後は,具体的ニーズに応じ段階的に進めていく。
 (iv) 核融合については,諸外国における研究開発の動向及び他の重要プロジェクトとのバランスに配慮しつつ研究開発を精力的に進める。
 (v) 放射線利用分野の研究開発については,民間に期待する点が多いが,医療分野等国民福祉の向上に資する分野及び放射線利用の幅を広げるための基礎的分野については,国が中心となって研究開発を進める。
iv 自主開発プロジェクトの実用化
 実用化移行段階(実用規模での技術の確認・実証と経済性の見通しの確立を図りつつ実用化を達成していく段階)に達しているプロジェクトについては,総合的な評価を行った上で,国の適切な支援の下に民間が中心となって実用化を目指す。
 実用化移行段階においては,関係者間の緊密な連携が不可欠であり,事業主体等に対し,国及び民間が適切に支援・協力することが重要である。
 このため,国は,技術の移転が円滑に進められるよう十分に配慮するとともに,必要に応じ事業主体等に対し,財政面等の支援を行う。特に,動力炉・核燃料開発事業団は,実用化移行段階においても,必要な技術開発を実施するなど重要な役割を果たす必要があり,民間に技術を移転する場合の対価に対する考え方,さらに,技術開発の受託,技術・施設を含めた出資等の必要性に関し,関係者による検討が早急に行われ,その結果を踏まえて実用化への移行が円滑に進められるよう措置されるべきである。
v 核不拡散問題への対応
 国際的な保障措置体制の整備に関し我が国の先導的役割が期待されるようになっていること,また,原子力資材・技術の海外への移転を検討すべき時期になってきたことを踏まえ,国際的視野に立った核不拡散政策を主体的に推進していくことが一層必要となってきた。したがって,我が国としては,核燃料供給国との二国間協議について我が国の原子力開発に支障をきたさないよう適切に対応し,また保障措置及び核物質防護に関する国内体制を国際的要請に十分応え得るものとし核不拡散に対する日本の国際的信頼を高めていくと同時に,さらにこれに加え,
 (i) IAEAを中心に進められている保障措置の改善に協力していくとともに,国際的なプルトニウム管理等に関する新しい国際的枠組み作りに貢献していく。
 (ii) 諸外国への原子力資材・技術の移転あるいは開発途上国に対する技術協力がより活発化し,さらに将来的には,核燃料サービスに関する開発途上国の我が国への期待も高まるものと考えられるため,このような国際協力を核不拡散を担保としつつ円滑に進めるために我が国として採るベき措置につき,今後検討を進めていく。
〔開発利用の進め方〕
 原子力開発利用の各分野につき,次のような施策の重点とスケジュールを掲げている。
i 原子力発電については,その拡大に対応して国及び電気事業者が安全確保対策を一層充実し,安全運転の実績を積み上げていく必要がある。また,改良標準化計画を推進する等,軽水炉技術の向上を図る他,原子炉の廃止措置については,敷地を原子力発電所用地として引き続き有効に利用するという考え方の下に進め,必要な技術の改良,開発を進める。
ii ウラン濃縮については,動力炉・核燃料開発事業団が,原型プラントを早急に建設する。さらに,民間において1980年代末までに商業プラントの運転を開始し,順次プラントの能力の増大を図り,1995年に1,000トンSWU/年,2000年に3,000トンSWU/年程度の規模とする。
iii 再処理については,1990年頃の運転開始を目途に民間再処理工場の建設計画を進め,これに対し国は技術面,資金面で適切な支援を行う。
iv 低レベル放射性廃棄物の処分については,海洋処分と陸地処分を併せて行うこととし,極低レベルのものについては,放射能レベルに合った合理的な処分方策の確立を図る。原子力発電所等の敷地外において長期的な管理が可能な施設に貯蔵することについても,早急に開始するよう諸準備を進める。
 高レベル放射性廃棄物については,固化処理及び貯蔵の技術開発を進め,これらの技術の実証のため1980年代後半の運転開始を目途にパイロットプラントを建設する。
v 高速増殖炉については,「もんじゅ」の建設に引き続き,1990年代初め頃着工することを目標に実証炉計画を推進する。
vi 新型転換炉については,1990年代初め頃の運転開始を目標に実証炉を建設する。また,軽水炉によるプルトニウム利用については,1990年代中頃までに実用規模での実証を終了する。
vii 高温ガス炉については,1990年頃の運転開始を目途に実験炉を建設する。
viii 原子力船については,「むつ」の実験航海を実施し,また小型高性能の舶用炉の研究開発計画を進める。
ix 核融合については,1990年代後半の自己点火条件の達成を目指し,技術開発を進めるとともに実験炉建設計画を検討する。
〔開発利用推進上の課題〕
 上記の計画を推進していく上での課題である所要資金の見通しと原子力施設の立地については次のとおりである。
i 研究開発関連資金
 今後10年間に必要になると予想される研究開発関連資金は約5兆4千億円である。このうち,約1兆6千億円は,実用化移行段階において建設されるプラントの建設資金であり,事業主体が中心となって調達することが期待されるが,国が適切な助成に努めることが必要である。一方,残り3兆8千億円は,実用化移行段階の研究開発費並びにそれ以前の研究開発段階のプラント建設資金及び研究開発費であり,国が中心となって多様な資金調達手段を用いて確保するが,民間においても相応の資金を拠出し,積極的に協力することが望まれる。
ii 原子力施設の立地原子力発電所及び核燃料サイクル施設の立地を促進する。このため,広報活動の充実,地域振興策等の充実等に努め,また,関係行政機関は,緊密な連絡,調整を行い,手続きの円滑化等立地促進のための施策を協力して進める。
 また,研究開発施設の用地を先行的に確保する。


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