第1章 原子力開発利用の動向と新長期計画
3 核不拡散と国際協力

(2)国際協力の必要性の高まりと我が国の対応

① 先進国との協力
 原子力分野における先進国間の国際的な研究協力は,安全研究協力,規制情報交換,高速増殖炉,核融合等多岐の分野で,二国間,多国間の協力により,あるいは,IAEA,経済協力開発機構原子力機関(OECD/NEA)及び経済協力開発機構国際エネルギー機関(OECD/IEA)等の場を通じた協力により,活発に行われている。

 とりわけ,高速増殖炉の開発,核融合炉の開発等は,莫大な開発資金と人材を要するものであり一国で行うにはリスクが大きすぎ,研究開発の効率性の観点からもこのような巨大な開発プロジェクトについては,国際協力のメリットを十分考慮して開発を進めることが得策である。しかし,このような大規模な国際協力が成果を挙げるためには,プロジェクト管理体制等を十分に詰め,協力相手国との真の意味での国際協力を作り上げるべく努力する必要がある。
 このような状況の下で,昭和57年6月に開催された先進国首脳会議(ヴェルサイユ・サミット)において,サミットとして初めて科学技術の問題が取り上げられ,世界経済の再活性化及び成長のために科学技術を活用することの重要性が指摘されるとともに,科学技術分野の国際協力等について検討するための作業部会の設置が合意された。
 今後,具体的な協力のための検討がなされることとなるが,科学技術の中でも特に原子力技術は,すそ野の広い総合科学技術であり社会へ与える波及効果は極めて大きいものであるので,原子力分野における新たな技術協力はサミットのフォローアップの中でも,大きな期待が寄せられている。

② 開発途上国との協力
 近年,開発途上国から,我が国を含め先進国への協力要請が高まってきており,放射線・アイソトープの利用分野を中心として,開発途上国に対する協力活動も活発化してきている。
 開発途上国との具体的協力活動としては,IAEAの「原子力科学技術に関する研究・開発及び訓練のための地域協力協定(RCA)」の下で,アジア・太平洋地域の開発途上国を対象とする農業及び工業分野への放射線・アイソトープの利用を中心とした協力活動が行われている。この協力活動の一環として我が国は,放射線・アイソトープの食品照射計画及び工業利用計画についての資金の拠出,研修員の受け入れ,専門家の派遣,各種ワークショップの開催等を行っている。本RCA計画は今年で発足10年目を迎え,昭和57年6月,マレーシアのクアラルンプールで計画発足10周年記念式典が開催された。

 一方,石油価格の高騰に伴い開発途上国におけるエネルギー問題は,先進国以上に深刻な問題となっており,原子力のエネルギー分野での我が国の協力に対する期待がますます高まってくると思われる。既に,エネルギー開発の一環として原子力発電を推進しようとしている開発途上国から研究炉の運転,原子力に関する安全性,放射性廃棄物処理処分等の分野での協力が要請されている。
 このような期待に積極的にこたえていくことは,原子力先進国としての国際的責務を果たすという観点からのみならず,原子力利用を円滑に進める上で,近隣諸国の原子炉事故等があった場合の社会的影響,国際場裡での開発途上国の発言等の面において,我が国との相互依存関係が拡大することが予想されることから,これらの開発途上国との関係を深めておくという観点からも重要である。従って,我が国としては,核不拡散の担保を前提としつつも,可能な限り協力を行うこととしている。


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