第1章 原子力開発利用の動向と新長期計画
1 着実に進展する原子力発電

(8)原子力発電の経済性

 我が国の社会・経済の健全な発展を図っていくためには,今後の電力需要の増加に対応して,低廉な電力を安定的に供給していくことが重要である。
 しかしながら,昨今の石油,石炭価格の上昇により,我が国の電力料金は相当上昇してきており,基礎素材産業をはじめとする電力多消費型産業に大きな影響を及ぼしつつある。また,我が国の電気料金は,世界的にみても高いと言われている。これは,我が国の電力供給構造が,石油等の高価格の輸入燃料に依存しているのに対し,米国,英国等は石炭,またカナダ等は水力といった低廉な国内資源に依存しているためと考えられる。このため,国内資源に恵まれない我が国が今後低廉な電力を安定的に確保していくためには,相当の努力が必要である。
 現在,我が国において石油代替電源として主に開発導入が進められているのは,石炭火力発電,LNG火力発電及び原子力発電であるが,石炭およびLNGは依然として海外の化石燃料資源であり,それらの価格が石油価格に左右されやすく,また,燃料費の発電単価に占める割合は高い。このような観点から,将来の電気料金の安定化に対する原子力発電の役割は大きいと言える。
 原子力発電の経済性については,現在電気料金算定基礎に入っていない再処理費用等のいわゆるバックエンドコストについて世代間の負担の公平化等の観点から昭和56年度に電気事業審議会により電気料金制度における取り扱いの検討が行われたところである。
 試算によれば,昭和57年度運転開始のプラントの初年度の発電原価(送電端)は,1キロワット時当たり石炭火力が約15円,LNG火力,石油火力が約19円〜約20円であるのに対し,原子力発電は約12円となっている。この原子力発電の原価には,原子炉の廃止措置に係る費用及び廃棄物の最終処分費等の費用が含まれていないが,これらを考慮しても原子力発電は他の電源に比較して経済性において優れていると考えられる。
 このように原子力発電は,現在の発電原価が火力発電に比し低廉であるばかりでなく,発電原価に占める燃料費の割合が低いことから燃料価格の変動の影響が火力発電に比べ小さく,中長期的な石油,石炭の価格上昇傾向の中で,原子力発電の経済上の有利性はますます大きくなっていくものと考えられる。さらに,原子力発電の場合,燃料費の比重が低いことから,資源を輸入に依存している我が国にとって貿易収支の改善に寄与するところも大きく,また,設備投資額が大きいことから,国内の経済活動の活発化にも寄与するなど間接的な経済効果も期待される。
 以上のように原子力発電は,火力発電に比べ総合的に経済性が優れていると考えられるが,今後電力供給に占める原子力発電の役割が増大するにつれて電気料金への影響等国民経済に与える影響も大きいものになることに鑑み,今後は単に火力発電に対する有利性を確保するのみならず原子力発電自身のコスト低減に一層努力することが求められている。
 前述のように,現在,原子力発電は火力発電に比し経済性に優れているが,原子力発電と火力発電の経済性が逆転したのは,昭和48年の第1次石油危機の後であり,これは石油価格が高騰したためと考えられ,原子力発電についてみると,その建設費の上昇は, 一般の物価上昇率を上回る傾向にある。原子力発電のコストは資本費の割合が高いのでコストを低下させるためには,建設費の低減が重要であり,そのためになお一層努力する必要がある。また,この建設費の低減は,我が国における発電原価の低減につながるばかりでなく,将来の原子力発電プラントの輸出の際の国際競争力を養う意味でも重要である。


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