第1章 原子力開発利用の動向と新長期計画
1 着実に進展する原子力発電

(6)放射性廃棄物の処理処分に関する施策

 放射性廃棄物の処理処分を適切に行うことは,原子力開発利用を進めていく上で重要な課題であり,国民の関心事でもある。このための施策については,従来から長期的観点に立ち計画的かつ積極的に進めてきている。昭和54年1月に設置された原子力委員会放射性廃棄物対策専門部会は,原子力委員会が昭和51年10月に決定した放射性廃棄物処理処分対策の基本的考え方を基に,その後の調査,研究等の成果も踏まえ具体的な施策の促進を図るための検討を進め,昭和55年12月には「高レベル放射性廃棄物処理処分に関する研究開発の推進について」,昭和57年6月には「低レベル放射性廃棄物対策について」をとりまとめ,原子力委員会に報告した。これらの検討結果は,新しい長期計画にも取り入れられた。
 〔低レべル放射性廃棄物〕
 原子力発電所等から発生する低レベル放射性廃棄物は,昭和57年3月末現在で約41万本(200lドラム缶換算)が原子力施設に安全に保管されているが,原子力開発利用の進展により,その累積量は昭和65年には約110万本,昭和75年には約180万本に達すると推定されている。これらの低レベル放射性廃棄物については,まず発生量の低減を図り,発生した放射性廃棄物はできるだけ減容し,固化するなどの処理を行うことが重要であり,現在焼却設備の導入などが進められているほか,民間を中心として技術開発が進められている。
 これら低レベル放射性廃棄物の処分は,海洋処分と陸地処分を併せて行う方針であり,海洋における処分については,国際的な基準を踏まえ深海底に処分することとし,これまで環境安全評価,国内法令の整備,国際条約への加盟等,所要の準備が進められてきた。また,内外関係者に対しては,海洋処分の安全性等の説明等理解を得るための努力を払ってきたが,未だ十分な理解を得るに至っておらず,今後ともあらゆる機会をとらえ,内外関係者の理解を得るよう努めていく必要がある。
 陸地処分については,できるだけ早期に処分を開始することを目標に,安全評価手法の整備を図り,一連の処分技術を実証するため試験的な処分を実施した後,本格的な処分に移行する方針であり,現在,(財)原子力環境整備センター 日本原子力研究所を中心に,陸地処分時における安全評価手法の整備のための試験研究が行われている。
 さらに,低レベル放射性廃棄物を原子力発電所等の敷地外において長期的な管理が可能な施設に貯蔵することについても,これまでの経験を踏まえ,早期に開始するよう諸準備が進められている。
 〔高レベル放射性廃棄物〕
 再処理施設から発生する高レベル放射性廃液は,ガラス固化して安定な形態にし,放射能による発熱が減少する間貯蔵した後,最終的には地層処分する方針であり,現在この方針に沿って動力炉・核燃料開発事業団,日本原子力研究所を中心として研究開発が進められている。
 ガラス固化に関する技術開発については,動力炉・核燃料開発事業団において放射性物質を扱わないコールド実規模試験が順調に進められているほか,昭和56年10月に完成した高レベル放射性物質研究施設において東海再処理工場からの実廃液を用い,実験室規模試験を行うこととしている。
 処分技術については,2000年以降できるだけ早い時期に確立することを目標として調査研究を進めており,動力炉・核燃料開発事業団においては,実験室における岩石の諸特性の調査,フィールドにおける処分に適する地層を選定するための手法の開発を行っているほか,経済協力開発機構原子力機関(OECD/NEA)の下で進められている国際的な共同研究計画に参加し岩石の基礎的な特性や試験方法について調査研究を行っている。これとともに処理・処分時の安全評価手法の整備を図るため,日本原子力研究所が中心となってガラス固化体の特性,処分条件下での放射性物質の挙動等の試験研究を行っている。


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