第II部 原子力研究開発利用の動向
第10章 国際協力活動

1.研究開発等に関する国際協力

 我が国の原子力平和利用を推進するための国際的な研究開発協力は,近年とみに活発になってきており,この背景としては,我が国の原子力分野の科学技術水準の向上,個々のプロジェクトの巨大化に伴う研究開発リスクの分散等が考えられる。
 現在,二国間での協力については,米国との間で安全研究,高速増殖炉,規制情報,及び核融合について,西独との間で安全研究,高温ガス炉及び高レベル廃棄物管理分野技術について,フランスとの間で規制情報及び安全研究について,イギリスとの間で高速増殖炉について,ソ連との間で高速増殖炉,核融合等について,カナダとの間で重水炉について,協力が行われている。
 また,安全研究及び高速増殖炉については多国間協力を行うとともに,放射線,アイソトープの利用分野を中心として,開発途上国に対する協力も行っている。
 さらに,国際原子力機関(IAEA),経済協力開発機構原子力機関(OECD-NEA),及び経済協力開発機構国際エネルギー機関(OECD-IEA)における国際協力活動にも積極的に参加している。
 我が国としては,自主的研究開発の推進の基盤の上に,効率的な研究開発を進めるため,今後とも積極的に国際協力を行うこととしている。

(1)二国間協力

i 日米原子力安全研究協力
 昭和48年,科学技術庁原子力局と当時の米国原子力委員会(現在は原子力規制委員会(NRC))の間で始められた本協力については,対象分野を当初の軽水炉から,高温ガス炉,高速増殖炉へと拡大するとともに,情報交換にとどまらず,日米双方が互いの研究開発計画を調整し合うなど,積極的,効率的に推進している。
 現在,本協力の一環として,日本原子力研究所が米国の「LOFT計画」(冷却材喪失事故条件下での核熱水学的及び構造的現象に関する総合試験)に参加するとともに,日本原子力研究所における「NSRR計画」(反応度事故時の燃料の安全性に関する研究)とNRCにおける「PBF計画」(出力異常時の炉心安全性)研究との間で共同研究を,研究者,技術者の相互派遣等を通じ活発に行っている。
 さらに,昭和54年5月,大平総理大臣とカーター大統領の間で意見の一致をみた「原子炉の安全性及び信頼性を高めるための共同研究」の拡大については,小破断時の冷却材喪失事故及びこれに関連する原子炉過渡状態の研究,原子炉の耐震信頼性に関する研究等の4つの協力分野が選定され,現在,協力の枠組みを示す政府間の取りきめ及び具体的な協力内容について協議が行われている。

ii 日米高速増殖炉協力
 昭和44年3月,動力炉・核燃料開発事業団と米国原子力委員会との間で締結された「日米高速増殖炉協力協定」は,高速増殖炉開発の進展に伴い,昭和54年1月,更新改訂され,動力炉・核燃料開発事業団と米国エネルギー省(DOE)の間で新協定が締結された。現在,この新協定に基づき炉物理,安全性,燃料サイクル等の5つの分野において,情報交換,専門家会合及び専門家の派遣交流が活発に行われている。

iii 日米規制情報交換協力
 昭和49年に科学技術庁原子力局(現在は原子力安全局),資源エネルギー庁とAEC(現在は原子力規制委員会(NRC))との間で始められた本協力の下で,両国における規制の体系,その考え方及び経験について詳細かつ迅速な情報交換を行っており,特に,昭和53年3月に発生したスリー・マイル・アイランド原子力発電所事故に関しては,重要な情報が米側より迅速に送付された。

iv 日米核融合協力
 「エネルギー及びこれに関連する分野における研究開発のための日本国政府とアメリカ合衆国との間の協定」(昭和54年5月締結)に基づき,昭和54年8月,日本原子力研究所とDOEの間で,核融合に関する協力が開始された。本協力においては,ダブレット―IIIを用いた共同研究,交流計画,プラズマ物理学に関する共同研究,共同計画の4つの分野で協力が行われている。特に,ダブレット―IIIを用いた共同研究については,米国カリフォルニア州にあるトカマク型装置であるダブレット―III試験装置を用いて,ダブレット型及びプラズマ型の断面プラズマの試験研究の協力が行われている。
 なお,毎年度の具体的な協力計画を定める日米核融合調整委員会については,昭和56年4月末から5月初めにかけて,第3回委員会がボストンで開催されたところであり,共同計画の一つとしてリバモア研究所の材料照射用加速器RTNS-IIを用いた協力も新たに発足することが合意された。

v 日独原子力安全研究協力
 昭和49年10月に締結された日独科学技術協力協定に基づき,昭和51年7月から,科学技術庁原子力局と西独研究技術省の間で,軽水炉施設の安全性に関する分野において研究協力が行われている。
 また,日本原子力研究所における「NSRR計画」(反応度事故時の燃料の安全性に関する研究計画)と西独カールスルーエ研究所における「PN S計画」(冷却材喪失事故時及び出力・冷却不整合時の燃料安全性に関する研究計画)との間の研究協力が昭和55年1月開始され,現在,各種情報交換,専門家の相互派遣が行われている。
 さらに,昭和55年10月に西独のボンで開催された第6回日独科学技術合同委員会において,原子炉信頼性実証試験に関し蒸気発生器細管の破損挙動について情報交換を行うことが合意され,協力内容の充実が図られている。

vi 日独高温ガス炉協力
 昭和54年2月,日本原子力研究所と西独ユーリッヒ研究所の間で本協力が開始され,各種の情報交換を行っている。
 なお,昭和55年3月,第3回パネル会合が西独のボンで開催され,利用系分野の研究協力を一層促進することとなった。

vii 日独高レベル廃棄物管理分野技術協力
 昭和56年2月,動力炉・核燃料開発事業団と西独カールスルーエ研究所の間で協力協定が締結され,高レベル液体廃棄物の固化,高レベル固化廃棄物の特性及び高レベル廃棄物管理システムにおける遠隔操作等の分野において,各種情報交換,専門家会議の開催,専門家の相互派遣等を行うこととなった。本協定に基づき昭和56年6月に第1回の高レベル廃棄物管理会議がカールスルーエで開催される等協力活動が進められている。

viii 日仏安全研究協力
 昭和54年3月,科学技術庁原子力局とフランス原子力庁との間で,日仏軽水炉安全研究協力協定が締結され,これに基づき,昭和56年2月,日本原子力研究所とフランス原子力庁との間で,NSRR/PHEBUS共同研究協定が締結され(NSRR-日本原子力研究所における反応度事故時の燃料の安全性に関する研究計画,PHEBUS-フランスにおける冷却材喪失事故時の燃料の安全性に関する研究計画)研究成果の交換等が行われている。

ix 日仏規制情報交換協力
 昭和54年3月,科学技術庁原子力安全局,資源エギルネー庁とフランス産業省原子力施設安全本部との間で,日仏間の規制情報交換に関する取極めが締結され,各種の情報交換が行われている。

x 日英高速炉協力
 昭和46年以来,日本原子力研究所,動力炉・核燃料開発事業団と英国原子力公社との間で,本協力は順調に続けられており,昭和50年12月及び昭和56年12月にそれぞれ5年間の期間延長を,また,昭和51年6月には,協力範囲に原子炉プラントを入れる等の拡大を行った。

xi 日ソ原子力協力
 政府間における協力については,昭和48年に締結された日ソ科学技術協力協定に基づき行われており,昭和55年9〜10月には核融合に関する共同理論研究のため,我が国の学者が訪ソしており,翌昭和55年1月〜2月には同様の目的のためソ連の学者が来日した。また,昭和55年12月,高速増殖炉に関するセミナーが東京で開催された。また,現在,核融合及び高速増殖炉に関する昭和56〜57年度の協力計画について両国政府間で協議が行われている。
 一方 民間における協力については,昭和52年11月,日本原子力産業会議とソ連原子力利用国家委員会の間で協定が締結され,政府間の協力分野以外の分野(核燃料技術,安全性,多目的利用炉,放射線利用等)において,昭和54年度,昭和55年度,各々2回ずつ計4回のセミナーが開催された。昭和56年度においてもセミナー開催等が予定されている。

xii 日加重水炉協力
 重水炉に関する協力については,動力炉・核燃料開発事業団とカナダ原子力公社との間において情報交換を主体とした協力が,昭和46年9月から進められ,昭和56年9月,改訂更新された。

(2)多国間協力

i 安全研究に関する協力
 日本原子力研究所は,西独研究技術省及びNRC(米国)との間に,昭和55年4月,大型再冠水協力協定を締結し,LOCA時の再冠水中の緊急炉心冷却の挙動に関する研究の協力のため,研究者,技術者の交流及び情報交換を行っている。
 また,日本原子力研究所は,スウェーデンのストドビックエネルギー技術研究所の材料試験炉「R2」を使用して実施されている「デモランプ計画」に参加し,BWR燃料の過出力ランプ状照射を行うことにより,燃料破損に対する改良の効果の究明を行っている。

ii 高速増殖炉に関する研究協力
 動力炉・核燃料開発事業団は,カールスルーエ研究所・インターアトム(西ドイツ)及びフランス原子力庁との間で,昭和53年6月,高速増殖炉に関する基礎的研究開発分野における協力を行うため,日独仏高速増殖炉技術協力協定を締結し,情報交換を行っている。
 また,動力炉・核燃料開発事業団は,フランス原子力庁カダラッシュ研究所のCABRI炉を使用して行われている「日独仏共同カブリ計画」に参加し,異常反応度挿入時の燃料ピン挙動の実験研究を行っている。本計画は,昭和55年3月に終了する予定であったが,計画が遅れたため,2年間延長されることとなった。

iii 開発途上国に対する協力
 我が国は昭和53年8月,「原子力科学技術に関する研究・開発及び訓練のための地域協力協定(RCA)」に加盟した。同協定は,アジア・太平洋地域の国際原子力機関(IAEA)加盟国間の原子力科学技術,特に,放射線,アイソトープの利用に関する研究開発及び訓練の推進,協力を目的とするものであり,現在13ヵ国が加盟している。
 昭和56年5月,インドネシアのジャカルタにおいて,第3回RCA政府専門家会合が開催され,今後のRCA計画の推進について積極的な意見交換が行われた。
 我が国は,現在,放射線,アイソトープの農業面への利用計画(食品照射計画)及び工業面への利用計画に関する各種のワークショップ,セミナーの開催等について協力を行っているが,放射線・アイソトープ分野の協力の医療面への拡大及び協力分野の放射線・アイソトープ利用以外の分野への拡大の可能性について検討中であり,そのための調査及び広く今後のRCA活動に対する我が国の協力のあり方を検討するため,昭和55年9月以降,3回,政府,産業界,研究機関,大学等広範囲の専門家からなる調査団をフィリピン,インドネシア,バングラデシュ,スリランカ等アジア諸国に派遣した。(昭和55年9月アジア原子力協力調査団,昭和56年2月アイソトープ・放射線の工業利用計画調査団,昭和56年6月RCA放射線・アイソトープの医学・生物学利用調査団)また,我が国は,昭和56年8月,東京においてRCA協力の一環として,RCA加盟国10ヵ国から13名の専門家を招きRCAワークショップ「放射線とアイソトープの医学・生物学利用」を国際協力事業団の協力を得て放射線医学総合研究所を実施機関として主催し,更に本件ワークショップに引き続き,IAEA医学セミナー「開発途上国において有望と考えられる放射線治療法」を国立京都病院及び京都大学の協力を得て京都にて開催した。

(3)国際機関との研究開発協力
 我が国は,国際原子力機関(IAEA),経済協力開発機構原子力機関(OECD-NEA)及び経済協力開発機構国際エネルギー機関(OECD-IEA)の主要メンバーとして,国際協力を活発に進めている。

i 国際原子力機関(IAEA)
 我が国は,IAEAの主催する原子力利用に関する各種シンポジウム,専門家会合等に多数の専門家を派遣し,情報の収集と交換を行っており,特に,「原子力発電の安全性に関する国際的基準作成の為の諮問委員会(SA G)」には,その下部機関である技術検討委員会(TRC)も含め,専門家を派遣し,同機関の行う基準策定作業に積極的に貢献している。
 また,IAEAは,原子力発電所の安全問題に関する国際会議を,昭和55年10月にストックホルム(スウェーデン)で開催したが本会議には,我が国からも,原子力安全委員を始め,関係省庁職員,専門家,電気事業者,メーカーの多数の関係者が出席した。
 さらに,我が国は,INTOR計画(次期大型トカマク炉開発の共同検討)に,昭和53年7月から参加するとともに,放射性物質輸送規則改訂作業にも積極的に参加しており,この改訂作業の一環として,昭和56年9月に我が国においてIAEA輸送容器試験基準に関する技術委員会が開催された。

ii 経済協力開発機構原子機関(OECD-NEA)
 OECD-NEAにおいては,「原子力施設の安全性」,「放射性廃棄物管理」,「原子力の開発と核燃料サイクルの経済的,技術的検討」,「放射線防護及び公共保健」の四分野を中心に活動が進められている。
 我が国は,「ハルデン計画(プラント制御法及び計算機の応用に関する研究並びに燃料の性能及び信頼性に関する研究)」,「国際食品照射計画(照射食品の健全性試験,毒性についての理論研究等)」,「国際ストリパ計画(放射性廃棄物の地層処分に関する試験研究)」,「NEAデータバンク」及び「国際ウラン資源評価計画」等のプロジェクトに参加し,資金の分担及び専門家の派遣等を行っている。
 なお,昭和56年4月,同機関の最高決議機関である運営委員会(第62回)がパリ以外で初めて東京で開催され,核燃料サイクル問題,放射性廃棄物問題,原子力安全性問題等について審議が行われた。
 また,これを機会に,政府主催による「原子力開発における国際協力の役割」と題する特別シンポジウムが開催され,米国,フランス等の講演者から,各国の原子力基本政策及び当面する問題についての紹介があり,これを踏まえて,各国が原子力政策を遂行する上の種々の問題を克服していくための国際協力のあり方などが討論された。

iii 経済協力開発機構国際エネルギー機構(OECD-IEA)
 OECD-IEAにおいては,代替エネルギー全般を扱うため,原子力の比重はまだ低いが,昭和56年6月に開催されたIEA閣僚理事会においては,石油代替エネルギーの開発は原子力を抜きにしては,達成できないという共通認識のもとに原子力開発利用の積極的な推進の必要性が合意された。
 現在,我が国は,「大型実験装置計画(日本のJT-60,米国のTFTR及びECのJETの3大トカマク開発に関する協力)」,「TEXTOR計画(ユーリッヒ原子力研究所に建設されるトカマク装置TEXTORを利用するプラズマと壁面の相互作用の研究)」,「核融合超電導磁石研究開発計画(大型コイルの実験データの取得,コイルの信頼性試験等)」及び「核融合材料照射損傷計画(米国の核融合材料照射試験装置の設計,建設に関する協力及び核融合材料に関する情報交換に関する協力)」に参加し,専門家の派遣,情報交換等を積極的に行っている。


目次へ          第10章 第2節へ