第II部 原子力研究開発利用の動向
第9章 核拡散防止

5.核物質防護

 核物質防護は,核拡散防止のための手段のひとつとして,核物質が盗取されることを防止すること及び原子力施設又は輸送中の核物質に対する妨害,破壊行為を防止することをその目的としている。
 核物質防護をめぐる動きは,近年の原子力の開発利用の進展に伴う核物質取扱い量の急速な増大,組織的な暴力集団による不法行為に対する不安の増大,核爆発装置の製造に関する初歩的な知識の入手が一般の人々にとっても不可能ではないと言われていること等を背景に,活発の度を増してきている。

(1)核物質防護をめぐる国際的動向
 近年,核物質の不法な移転の防止が核拡散防止上重要な課題のひとつであることが国際的に認識されてきており,そのあり方が真剣に検討されてきている。
 昭和50年9月,国際原子力機関は,昭和47年に出した勧告を基にして核物質防護のためのガイドラインを取りまとめ(昭和52年一部改訂),各加盟国に対し勧告を行った。
 また,昭和53年1月に我が国を含む原子力資材供給国15ヵ国により合意されたロンドンガイドラインにおいて,核拡散防止のため,輸入した核燃料に対して一定の核物質防護措置をとることを輸出のための主要な要件としている。近年,このロンドンガイドラインによる要請内容が,二国間原子力協力協定へ取りこまれつつあり,昭和55年9月に発効した新日加協定において,同協定に基づいて入手した核物質に対してロンドンガイドラインで求められる基準に沿った防護措置をとる旨の規定がある。
 さらに,昭和52年以来国際原子力機関において検討されてきた核物質防護条約は,昭和54年10月採択され,昭和55年3月署名のために開放され,昭和56年10月現在,31ヵ国及びECが署名を行っており,このうちスウェーデン及びドイツ民主共和国は批准まで終了している。
 同条約は,核物質の国際輸送中に一定の核物質防護措置がとられることを確保するため,このような措置がとられない核物質の輸出あるいは輸入を許可しないこと及び核物質の使用に係る一定の犯罪を行った者を処罰すること等を内容としている。
 なお,昭和53年に成立した米国の核不拡散法において,米国が核燃料を輸出する際には,輸入国において一定の核物質防護措置が講じられることがその条件とされており,我が国は,米国との間で,我が国においては,関係法令の運用によって適切な核物質防護措置がとられている旨の口上書を交換している。

(2)我が国における核物質防護
 我が国においても,昭和51年4月,原子力委員会の下に核物質防護専門部会を設置し,我が国の国情に即した核物質防護のあり方について調査検討を行い,昭和55年6月,我が国の主要な原子力施設の核物質防護状況は,国際的水準を満たしていると考えられるが,国際的動向等をも踏まえ,核物質防護の規制のあり方について,防護基準の適用等につき,法制面の検討を加え,所要の体制整備を図るべきであるとする報告書をまとめた。
 原子力委員会においては,同報告書の内容を妥当なものと認め,昭和56年3月,
① 関係行政機関においては,同報告書に示された内容を指針として,今後の核物質防護施策を進めること,
② 関係行政機関において,必要に応じ核物質防護に係る法令整備等の体制整備を図ること,
③ 核物質防護条約については,批准に備え国際動向に留意しつつ,諸般の整備を進めること,
 とする原子力委員会決定を行った。
 これを受けて,現在,関係行政庁において,所要の施策が推進されているところである。
 なお,我が国においては,上記の報告書に沿った核物質防護措置を担保するため,核燃料物質の輸送については輸送のたびごとに,原子力施設については施設の新設又は重大な変更のたびごとに,科学技術庁が届出を受け,適宜指導を行っている。昭和55年の届出件数は,核物質の輸送に伴う届出230件,原子力施設の新設及び重大な変更に伴う届出3件であった。

(3)核物質防護に関する研究開発
 核物質防護の目的を実現するためには,国が行う規制に必要な基準,指針,評価手法等についての研究開発,施設等の核物質防護システム及びその構成機器等の研究開発の推進が必要であり,現在,科学技術庁,日本原子力研究所及び動力炉・核燃料開発事業団において,関連研究開発が実施されている。
 昭和56年度の我が国における核物質防護研究開発項目は次表のとおりである。


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