第II部 原子力研究開発利用の動向
第9章 核拡散防止

4.保障措置

(1)我が国における保障措置体制
 我が国における原子力の研究開発利用は,原子力基本法に基づき,平和目的にのみ限定して進めてきており,この基本法の精神にのっとり,原子炉等規制法の下で核燃料物質等の管理のための規制を行っている。
 また,我が国は,米国,英国,カナダ,オーストラリア及びフランスの5ヵ国との間に締結した二国間原子力協定に基づき,移転された核燃料物質,施設,設備及びこれらを使用して生産された特殊核分裂性物質等は,軍事目的に転用しないことを約束しており,このため,従来より,国際原子力機関の保障措置を受け入れてきたが,昭和51年6月に核兵器の不拡散に関する条約(NPT)を批准したことにより,昭和52年3月,国際原子力機関との間に保障措置協定を締結した。これに伴い,前記の二国間協定に基づく保障措置の適用は停止され,NPTに基づく保障措置を受け入れることとなった。
 このNPTに基づく保障措置協定を実施するため,昭和52年12月,原子炉等規制法の一部を改正するとともに,(財)核物質管理センターを原子炉等規制法に基づく指定情報処理機関に指定し,核燃料物質に関する計量管理情報の集中管理,国際原子力機関への計量管理情報の作成等の保障措置に係る情報処理を行わせることとなった。さらに,昭和53年7月には,保障措置分析所を建設し,各原子力施設から収去した試料に関し保障措置実施に必要な情報を得るため核物質の分析等の業務を行っている。
 このように,我が国においては,国際原子力機関による国際保障措置と政府による国内保障措置が適用されている。

 我が国における保障措置体制を図示すると次のようになる。
 原子力委員会は,INFCE後の保障措置をめぐる国際動向の把握及び我が国のとるべき対応策の検討を行うことを目的として,昭和55年10月,ポストINFCE問題協議会に保障措置研究会を設置した。同研究会においては,IAEA保障措置の充実,二国間原子力協定上の要求等の国際的核不拡散強化の動向及び国内における原子力開発利用の進展に伴う核燃料サイクル主要部門の拡大,核物質取扱い量の増大に適切に対処するために,国際保障措置の前提となる国内保障措置の整備,充実に関する検討を進めてきた。同研究会は昭和56年10月,国内保障措置体制の整備計画をとりまとめ,我が国が国際的に信頼され,かつ,NPTに基づく国際原子力機関の保障措置適用の前提としての国内保障措置を実施していくために推進すべき所要の方策を提言した。

(2)保障措置実施の状況

i 計量管理報告
 原子力施設保有者は,原子炉等規制法に基づき,国に在庫変動報告,物質収支報告及び実在庫量明細表を提出することが義務づけられている。昭和55年の報告件数及びそれらに含まれるデータの処理件数は,次表のとおりである。

 なお,計量管理報告に基づきとりまとめた我が国の昭和56年6月末の核燃料物質保有量は次表のとおりである。

ii 査察
 我が国の原子力施設に対しては,政府による国内査察と国際原子力機関による国際査察が実施されている。昭和55年の国内査察実績は次表の通りである。なお,昭和55年に我が国及び国際原子力機関が我が国の原子力施設に対して実施した保障措置の結果,核物質の転用の可能性は皆無であったとの結論が得られた。

 また,国際原子力機関は,その人員,費用の効果的な運用のために,長期滞在査察員の指名を我が国に提案し,昭和56年8月,合意に達した。現在3名が指名されている。
 なお,昭和56年5月,保障措置の実施に伴う問題点の検討を行うため,日本・IAEA保障措置合同委員会の第2回会合が,ウイーンにおいて開催された。この会合において,我が国の国内保障措置制度の確立への進展及び国際原子力機関に対する計量管理報告の状況等が高く評価された。さらに,各原子力施設に対する保障措置の実施について,原子力発電所における査察用カメラの照明の問題,燃料加工施設における非破壊検査機器使用等の問題,濃縮施設における暫定査察の改善の問題,再処理施設における計量管理の問題,硝酸プルトニウム及び硝酸ウラン転換施設における設計情報,施設附属書作成の問題等が議論され,所要の改善が我が国とIAEAとの間で図られることとなった。

(3)保障措置技術に関する研究開発
 我が国は,従来より,保障措置技術開発を進めてきたところであるが,INFCEの結論等の国際的要請に応えて,保障措置技術の改良に一層積極的に取り組むことが必要である。また,我が国への保障措置の適用をできる限り効率的なものとするため,我が国独自の保障措置技術開発を進めることが重要である。

 このため,日本原子力研究所,動力炉・核燃料開発事業団及び(財)核物質管理センター等において,保障措置の改良に関する研究開発を進めるとともに,国際的にも先に述べた東海再処理施設保障措置技術共同研究(TASTEX)のほか,遠心分離法濃縮施設保障措置技術開発国際協力プロジェクト(He-xapartite保障措置プロジェクト)及びIAEA主催の保障措置関係会合等に積極的に参加した。さらに,対IAEA対保障措置技術開発支援協力計画(JASPAS)にも積極的に取り組むこととしている。
 昭和56年度の我が国における保障措置技術研究開発項目は前表のとおりである。
 昭和53年3月,日,米,仏及び国際原子力機関の4者により発足したTASTEXは,約3年半にわたり,13の研究項目について,開発研究,東海再処理施設での実施試験等が行われた結果,昭和56年5月に東京で開催された第5回運営委員会において,所要の成果が達成されたとの結論が得られ,終了した。
 また,昭和55年9月,日,米,豪,トロイカ三国(英,西独,オランダ),国際原子力機関,ユーラトムの6者により発足した「遠心分離法濃縮施設保障措置技術開発国際協力プロジェクト(Hexapartite Safeguards Project)」については,4つの作業チームにより検討が行われてきたが,すでに,3回の全体会合が開催されている。(昭和55年11月,昭和56年3月,昭和56年7月)さらに,国際原子力機関の保障措置技術研究開発を我が国として支援する「対IAEA保障措置技術支援協力計画(JASPAS)」が,米国,イギリス,西ドイツ,オーストラリア,カナダ等に次ぎ,昭和56年11月に発足した。JASPASのプロジェクト及びその実施機関は次表のとおりである。
 再処理施設,濃縮施設及び加工施設は保障措置上重要な施設であるため,国際原子力機関において,再処理施設保障措置国際作業グループ,濃縮施設保障措置コンサルタント会合,MOX燃料加工施設保障措置諮問グループ等が設置され,その保障措置技術の適用・改良について検討が行われており,我が国も積極的に参加している。

 さらに,保障措置技術全般にわたる開発として,評価手法の確立,非破壊測定機器の活用,分析手法の確立等に関し,それぞれ専門家会合が設けられ,我が国も積極的に参加している。


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