第II部 原子力研究開発利用の動向
第9章 核拡散防止

3.核拡散防止に関する国際秩序形成のための国際的協議と我が国の立場

(1)国際核燃料サイクル評価(INFCE)
 昭和52年10月,カーター前大統領の呼びかけに端を発して,原子力平和利用と核不拡散の両立の方途をめざし,核燃料サイクルの全分野における技術的分析的作業を実施するため,国際核燃料サイクル評価(INFCE)が開始された。
 INFCEには46ヵ国,5国際機関が参加し,2年4ヵ月にわたる作業を終え,昭和55年2月に報告書が取りまとめられた。
 INFCEにおいては,保障措置は核不拡散と原子力の平和利用の両立のための重要な手段であり,この保障措置をさらに効果的なものとするため,保障措置の方法及び技術の改良を進めるとともに,新たな原子力平和利用と核不拡散の調和を図るための,国際制度の構築や核不拡散に有効な技術的代替手段の確立を図ることによって,核不拡散と原子力の平和利用は両立し得るし,またこれらの措置がとられるべきであるとの結論が得られ,総じて我が国の考え方が受け入れられ,我が国の原子力の推進に支障のない形で最終的な取りまとめが行われた。

(2)INFCE後の諸問題
 INFCEの開始に当たって,INFCEは技術的分析的研究であって交渉でないこと,及び参加国はINFCEの結果に拘束されないことが確認されていたため,核不拡散に関する具体的な政策及び措置については,INFCE後の多国間及び二国間の協議を経て実施されていくこととなっていた。これらINFCE後の諸問題のうち,国際プルトニウム貯蔵(IPS),国際使用済燃料管理(ISFM),核燃料等の供給保証等の国際的制度に関する多国間での検討事項については,現在,国際原子力機関を中心に検討が進められている。
 なお,原子力委員会は,昭和55年4月,このINFCE後の諸問題のうち,国際制度に関する多国間協議についての重要事項を審議し,我が国の適切な対応策の確立に資することを目的として,「ポストINFCE問題協議会」を設置した。

i 国際プルトニウム貯蔵(IPS)
 IPSはIAEA憲章の規定に基づき再処理により分離されたプトルニウムのうち余剰なプルトニウムを国際原子力機関に預託し,国際的な管理の下で貯蔵することにより,プルトニウムが軍事目的に転用されることを防ごうとする構想である。
 IPSについては,国際原子力機関の専門家会合で検討されており,現在までに5回(昭和53年12月,昭和54年5月,昭和54年11月,昭和55年5月,昭和56年5月)開催され,30ヵ国,2国際機関が参加している。
 昭和56年5月に開催された第5回会合においては,IPS協定の形式,委員会等の設置の必要性及び構成,並びにプルトニウム返還手続きの3点を中心に討議が行われたが,事務局長に対する助言委員会の設置が必要であるとの一応の結論を得たのみで,他の重要事項については,結論は出なかった。
 再処理により抽出したプルトニウムの有効利用を図ることとしている我が国としては,プルトニウム管理に関する何らかの国際的コンセンサスができることは有意義であると考えており,本構想の検討審議に際しては,IPS制度と現行の保障措置制度との整合性を図りつつ,その実施に当たっては,現行の保障措置制度が最大限に活用され,過度な追加的負担が課せられないこと及び核拡散を十分防止しつつも我が国のプルトニウム利用が阻害されることのないよう配慮し,積極的に対応していくこととしている。

ii 国際使用済燃料管理(ISFM)
 ISFMは,原子炉から排出される使用済燃料が世界的にみて,再処理される量をはるかに上まわって発生することが予想されるので,これを国際的に貯蔵し,管理しようとする構想である。
 ISFMについても,国際原子力機関において検討されており,現在までに4回(昭和54年6月,11月,昭和55年7月及び昭和56年6月)の専門家会合が開催され,22ヵ国,2国際機関が参加している。
 本構想については,主に,使用済燃料の貯蔵及び輸送に係る技術的,経済的な検討及びこれに係る制度面からの検討が行われている。
 使用済燃料は,再処理するとの基本方針をとる我が国としては,一時貯蔵を除き,使用済燃料の長期貯蔵の必要性は無いが世界的にみた場合,再処理能力を上まわって使用済燃料が発生することも事実であり,核不拡散等の観点から,ISFMの検討は有意義であると考えている。

iii 核燃料等供給保証
 核燃料等の供給保証についてはそれが十分に行われるならば,不必要な濃縮や再処理の施設を建設するインセンテイブが減少し,結果として核不拡散に寄与することになる。一方,開発途上国の中には,原子力供給国が必要以上に原子力資材,技術の移転を制限しているとの不満がある。このため,昭和55年6月,IAEA理事会により,核不拡散を確保しつつ原子力資材,技術及び核燃料サービスの供給をいかに保証するかを検討し,理事会に助言する「供給保証委員会(CAS)」が設置された。同委員会には51ヵ国,4国際機関が参加しており,現在までに3回(昭和55年9月,昭和56年3月及び6月)開催されている。
 昭和56年3月に開催された第2回委員会においては,各国からの一般演説が行われた。また,昭和56年6月に開催された第3回委員会においては,審議計画(ワーク・プログラム)について議論が行われた。
 我が国としては,NPT体制の維持強化を図りつつ供給保証と核不拡散の両立をめざすとの基本的立場に立って,この検討に参加しているところである。

iv 原子力平和利用国連会議
 昭和54年12月,国連総会でユーゴスラビアを中心とする国々の提案による原子力平和利用の国際協力を推進するための国際会議(原子力平和利用国連会議)を原則として昭和58年に開催することが決議された。なお,本会議の準備委員会第1回会合が昭和56年8月,ウイーンで開催され,今後の会合の予定について審議が行われた。

(3)原子力資材の輸出に関するガイドライン
 昭和53年1月,我が国を含む原子力供給先進国15ヵ国よりなる原子力平和利用先進国間会議(通称ロンドン協議)は,原子力資材及び技術の輸出の共通条件とすべきガイドライン(通称ロンドンガイドライン)を公表した。

 なお,我が国から外国への核原料物質,核燃料物質,原子炉等原子力関係資材の輸出については,原子力産業の育成発展の見地から,活発になることは好ましいことと考えられるが,我が国の原子力の研究,開発及び利用は,原子力基本法第2条により,平和の目的に限られており,原子力委員会決定(昭和37年4月)により,我が国は,外国の原子力利用に関係する場合にも,この原子力基本法の精神を貫くべきであるとされている。このため,現在は,上記委員会決定の趣旨を踏まえ,輸出貿易管理令に基づく輸出承認を与える際に当該国がロンドンガイドライン等の核不拡散に係る国際的指針を満たしているかどうか確認することにより,我が国が輸出する原子力関係資材が平和目的に限って使用されるよう担保している。


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