第II部 原子力研究開発利用の動向
第7章 基礎研究等

1 基礎研究の動向

 原子力関係の基礎研究は,炉物理,核物理等の物理分野,放射化分析,放射線化学等の化学分野,放射性物質を利用した生物研究,放射線医学等の生物分野,燃料,材料の照射試験,物性研究等の燃・材料分野の4つに大きく分類できる。
 物理分野については日本原子力研究所,理化学研究所及び通商産業省電子技術総合研究所が,化学分野については日本原子力研究所が,生物分野については放射線医学総合研究所が,燃・材料分野については日本原子力研究所がそれぞれ中心となり,活発に研究を進めている。
 原子力研究開発投資(注1)(昭和31年度から昭和55年度までの累計約1兆2,000億円)に占める基礎的部門の研究投資(注2)(昭和31年度から昭和55年度までの累計約2,000億円)の割合は約17%であるが,原子力開発の進展に伴い,基礎的部門の研究投資の占める割合は下がっている。しかし,基礎的部門の研究投資額は増加しており,過去25年間の年平均伸び率が7%であるのに対し,最近10年間の年平均伸び率は10%であり,投資の伸びは加速される傾向にある。


(注1)原子力研究開発投資
原子力関係予算項目中,日本原子力研究所,原子燃料公社,日本原子力船開発事業団,動力炉・核燃料開発事業団,放射線医学総合研究所,国立試験研究機関の試験研究,原子力平和利用研究の委託,放射能測定調査研究,理化学研究所を合計したものである。
(注2)基礎的部門の研究投資
日本原子力研究所,放射線医学総合研究所,理化学研究所及び国立試験研究機関における核物理・炉物理,放射線化学,放射線生物学,燃材料等の特定のプロジエクトに属さない研究への投資(人件費を除く。施設費,設備費を含む。)を合計したものである。

 各研究分野ごとにみると,物理分野については,昭和30年代には,日本原子力研究所においてJRR-1からJRR-4までの研究炉が次々と建設されるとともに理化学研究所においてサイクロトロンの建設が進められるなど多大な投資が行われた。昭和40年代には,主にそれらの設備を用いた研究開発が進められ,投資は一旦減少したが,昭和50年代に入り,理化学研究所における重イオン加速器,日本原子力研究所におけるタンデム加速器,通商産業省電子技術総合研究所における電子直線加速器等の建設が進められ,再び多大な投資が行われた。

 化学分野については,昭和30年代には,国立試験研究機関を中心に活発に研究が行われた。昭和40年代には,日本原子力研究所も研究を開始したが,反面,国立試験研究機関の投資が減ったため,投資は横ばいの状態であった。昭和50年代に入ってからは,漸減する傾向にある。
 生物分野については,特に昭和40年代後半以降,放射線医学総合研究所において医学用サイクロトロン,晩発障害実験設備,内部被ばく実験設備等の整備が進められたため,大幅な投資増が見られる。

 燃・材料分野については,昭和30年代前半には,金属材料技術研究所を中心とした材料試験,後半には日本原子力研究所の研究炉を用いた燃・材料の照射試験が進められた。昭和40年代に入り日本原子力研究所のJMTRが建設されたことに伴い,同炉を用いた照射試験等を中心に研究が強力に進められてきている。
 なお,各研究機関における分野別の投資額の推移は,図のようになっている。
 以下,各研究機関における基礎研究の現状を述べる。


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