第II部 原子力研究開発利用の動向
第6章 放射線利用

4 医学への利用

(1)トレーサーとしての利用
 医学におけるトレーサー利用としては,診断があげられ,この診断法は,短寿命核種の開発利用,放射線計測技術等の進展により,近年,急激に発展している。
 この診断法で用いられる放射性同位元素は99-Tc,131I等であり,原子炉で生産される他,加速器で生産されている。
 現在,放射線医学総合研究所において,医用サイクロトロンによる短寿命核種の生産,短寿命RI標識有機化合物の製造技術等に関する研究開発が進められるとともに,国立療養所中野病院においても,理化学研究所で開発し既に民間企業で実用化された超小型サイクロトロンを用いて同様の研究が進められている。
 さらに,今日,ポジトロンCT装置による診断が注目されている。そこで使用される11C,13N,150,18F等のポジトロン核種が,99mTc等,従来,利用されてきた核種と異なり,生体構成元素であるため,従来のX線CT装置による診断では不可能な脳,心臓等における代謝及び機能診断が可能であるので,早期実用化が望まれており,現在,放射線医学総合研究所において,通商産業工業技術院等の協力のもとに,ポジトロンCT装置の開発が進められている。

(2)線源としての利用
 医学における線源利用には,エックス線診断及び放射線治療がある。エックス線診断は,臨床医学のすべての領域にわたって広く利用されており,最も重要な検査法の一つになっている。特にコンピュータ断層撮影装置(CT)が実用化され,医療に大きく役立っている。

 一方,診断件数の増加とともに,医療放射線被ばく線量の軽減も重要な課題となっている。対策の第一は患者及び医療従事者の放射線被ばくを軽減し,かつ診断効果を挙げるような診断機器及び診断法の開発であり,最近数年間に著しい進歩を見せている。特に,間欠ばく射法,高感度イメージインテンシファイアを用いる撮影法等が導入され,胃の集団検診等に応用されて大きな成果を挙げている。対策の第二は,放射線ことにエックス線を用いる診断により得られた医学情報を管理し,余分な検査を繰り返すことのないような診療システムを整備することであり,新設の病院では中央放射線部門及び医療情報処理部門の充実が進められている。
 放射線治療については,悪性腫瘍が主な治療対象であり,現在,放射線治療に用いられている線源及び発生装置は,226Ra等の密封小線源,60Co及び137Csを用いた遠隔照射治療装置,直線加速器,ベータトロン,サイクロトロン等の加速器である。

 加速器による治療については,低LET放射線である電子線,エックス線及びγ線による治療は,既に実用化されているが,低LET放射線より生物効果の強い放射線である速中性子線,陽子線等の高LET放射線による治療については,現在,研究開発が進められているところである。
 今後の悪性腫瘍の治療には,手術,化学療法等と放射線治療との有効な併用が必要と考えられるが,特に免疫療法と放射線治療との併用による成績の向上が認められており,これらの今後の発展の可能性は大きい。
 現在の放射線治療,ことに外部照射では,病巣以外の正常組織の被照射線量が多く,これが放射線後遺症発生の原因となっており,その防止のため,コンピュータを利用する高精度治療システムが開発され普及しつつある。


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