第II部 原子力研究開発利用の動向
第6章 放射線利用

3 工業への利用

(1)トレーサーとしての利用
 工業において,放射性同位元素は,エンジン部や機械部品の摩耗測定に利用されており,放射線の測定の感度が高いため,迅速でしかも高信頼度の測定が可能となっている。
 また,石油工業においてトレーサー利用が最も多く,油田の開発から石油精製,パイプラインの輸送からタンク貯蔵にまで及んでいる。例えば,古い油田に水を大量に注ぎ込み,取り出せないところにある油を追い出す際に,放射性同位元素を利用して,地殻の中の水や石油の動きを追跡したり,重質油を軽質油に変えるクラッキングの際に用いる触媒の挙動,状況の把握及びコントロールに放射性同位元素を使ったり,一つのパイプラインを数社が使う場合に,各社の送り出しの先に放射性同位元素を混ぜ,石油の集積地において放射線の測定により弁を自動的に切り換え,各社のタンクヘスムーズに入れるということが行われている。
 さらに,環境保全について,国立公害研究所において,放射性同位元素を利用して,汚染物質の生物への影響の解明,土壌中の元素の動態の解明等を進めている。

(2)線源としての利用
 工業分野における線源利用には,ゲージング,非破壊検査,放射線化学,環境保全等があげられる。
 ゲージング利用は,物体の厚み,密度,液面の高さ等を測る手段として放射性同位元素を用いる方法である。工程管理のための厚み計,密度計,液面計等,並びに環境汚染物質分析のためのイオン分析計,ラジオクロマトグラフィー装置等として利用されている。
 非破壊検査法については,鉄鋼,機械,造船業,航空業を中心に,60Co,192Ir等が放射線源として利用されており,非破壊検査専業会社の数においては,我が国は世界一を誇っている。
 放射線化学については,日本原子力研究所高崎研究所を中心として,理化学研究所,国公立の試験研究機関等において,機能性高分子材料の開発,低温放射線重合による高分子材料の開発,プラスチックの放射線改質,高分子材料の耐放射線性の研究等を実施している。
 環境保全については,日本原子力研究所高崎研究所において,排煙中のNOx,SOxの除去,廃水処理,汚泥処理等への放射線利用についての研究を進めている。
 その他,煙探知器,自発光塗料の時計用文字板等に放射線が有効に利用されている。


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