第II部 原子力研究開発利用の動向
第6章 放射線利用

2 農林水産業への利用

(1)トレーサーとしての利用
 トレーサー利用は,農林水産研究における放射線利用の草分けの分野であり,生理生態研究,施肥,農薬施用法の改善,地下水流動機構の解明に大きな成果をあげている。
 また,放射化分析の分野では,アクチバブルトレーサーを用い,作物の根活力検診や魚類の回遊追跡に役立っている。

(2)線源としての利用
 農林水産業における線源利用としては,品種改良,食品照射,害虫の不妊化等があげられる。
 放射線による品種改良は,農業技術研究所放射線育種場で実施しており,これまでに多くの有用作物を育成している。
 食品に放射線を照射して殺虫,殺菌,発芽防止等を行い,保存期間を延長することは,食品流通の安全化及び食生活の改善に,大きく寄与するものと期待され,昭和42年9月に原子力委員会が策定した「食品照射研究開発基本計画」に基づき,現在,関係国立試験研究機関,日本原子力研究所,理化学研究所等において研究開発が進められている。馬鈴薯については,昭和47年8月,放射線利用が許可され,既に,北海道士幌町農業協同組合において実用化されている。玉ねぎについては,昭和55年7月に研究成果がとりまとめられ,現在,実用化について農林水産省において検討中である。その他の品目(米,小麦,ウインナーソーセージ,水産ねり製品,みかん)については,昭和55年度も,基本計画に従って各実施機関がそれぞれの研究テーマについて研究開発を行った。

 また,不妊虫放飼法は,60Coのガンマ線照射による不妊雄を大量に野外に放飼することにより,野外の雌が正常な雄と交尾する機会を低下させ,正常な産卵を抑制し,次世代の個体数を減少させることを数世代にわたって繰り返し根絶に至らしめるものであり,農薬による防除と異なり,人体及び環境への影響のない画期的な方法である。沖縄県久米島のウリミバエについては,不妊虫放飼を開始して4年後の昭和53年に根絶に成功した。なお,現在は,沖縄本島周辺の慶良間諸島でウリミバエの不妊虫放飼を行っているほか,小笠原諸島においてもミカンコミバエの不妊虫放飼を行っている。
 また,残廃材に放射線を照射して飼料の製造及びコロイダル燃料の製造に関する研究開発も行っている。


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