第II部 原子力研究開発利用の動向
第6章 放射線利用

1 放射線利用の動向

 放射性物質から放出される放射線,または,放射線発生装置で人工的に発生させる放射線を利用する方法としては大別して,物質の挙動を追跡するトレーサー利用と放射線の物理的,化学的作用を利用する線源利用の2種があり,農業,工業,医学等の多くの分野で利用されている。
 近年,利用範囲の拡大に伴い,放線性同位元素や各種放射線発生装置を利用する事業所が増加するとともに,放射性同位元素の需要も増加してきている。

 放射性同位元素は,外国から輸入されているほか,日本原子力研究所,放射線医学総合研究所及び民間企業において製造されている。日本原子力研究所は,需要の多い核種及び輸入に依存することの困難な短寿命アイソトープに重点をおいて量産している。また,放射線医学総合研究所は,医用サイクロトロンを用い,短寿命RI医薬品の製造技術の研究開発を進めている。さらに,民間企業においても,サイクロトロンを建設して短寿命アイソトープが製造されている。

 放射線利用に係る研究開発については,近年,放射線利用技術の高度化,多様化に伴い,関係機関にまたがる研究課題が増加しており,特に,放射線化学及び加速器医学利用の分野の研究開発については,関係機関における研究課題を調整し,総合的計画的に進める必要性が高まってきた。このため,原子力委員会は,昭和55年11月25日放射線利用専門部会を設置し,さらに,昭和56年3月には,同専門部会の下に,放射線化学分科会及び加速器医学利用分科会を設け,放射線利用に関し,放射線化学及び加速器の医学利用の研究開発の推進等について,調査審議を進めた。同専門部会は,本年10月に報告書をとりまとめ,その中で次のように述べている。放射線化学については,近年,生物学,医学,工学等他分野の専門家と共同して研究開発を行う境界領域での課題が注目されているため,これらの領域における基礎的研究について重点を絞って推進する必要がある。また,関係各機関が協力して総合的体系的に研究開発を進めるために体制の整備が必要である。加速器医学利用については,治療面,診断面でさらに放射線利用の効果を挙げるため,より生物効果の高い速中性子線,陽子線,重粒子線及びπ-中間子線等の高LET放射線によるがん治療技術並びにポジトロン核種による診断技術の研究開発を積極的に推進する必要がある。


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