第II部 原子力研究開発利用の動向
第4章 核燃料サイクル

6 放射性廃棄物の処理処分対策

 原子力委員会は,昭和51年10月放射性廃棄物対策に関する基本的方針を決定した。その概要は次のとおりである。
(i)原子力施設において発生する放射能レベルの低い放射性廃棄物の処分については,事前に安全性を評価し,試験的処分の結果を踏まえて慎重に進めるものとし,処分方法としては,処理の形態に応じて海洋処分と陸地処分をあわせて行う方針とする。
 また,低レベル放射性廃棄物の処理については,民間の責任で行うものとし,処分については,試験的処分等により見通しの得られた段階から原則として民間の責任において行うものとする。
(ii)再処理施設から発生する高レベル放射性廃棄物については,安定な形態に固化処理し,一時貯蔵した後,処分をするものとする。
 また,高レベル放射性廃棄物の処理については,再処理事業者が行い,処分については国が責任を負うこととし,必要な経費については,発生者負担の原則によることとする。
 原子力委員会の放射性廃棄物対策専門部会は,上記決定に沿った施策の促進を図るため検討を行い,昭和55年12月,「高レベル放射性廃棄物の研究開発の推進について」をとりまとめ,具体的な研究開発計画を提示した。現在は,低レベル放射性廃棄物の処理の今後の進め方,陸地処分の進め方,本格的海洋処分の進め方,極低レベル放射性廃棄物の合理的な取扱い,海外再処理委託に伴う返還廃棄物対策等について今後の具体的方策を検討している。
 一方,原子力安全委員会放射性廃棄物安全技術専門部会においては,放射性廃棄物処理処分に関し安全確保に必要な環境安全計画,諸基準の策定等を行うこととされ,同専門部会の下に,安全評価分科会及び基準分科会が設けられ,検討が進められている。

(1)放射性廃棄物処理処分

i 低レベル放射性廃棄物処理処分
 原子力発電所等の原子力施設で発生する放射性廃棄物は,各事業者等が自ら処理しており,その大部分を占める濃縮廃液,雑固体等の低レベル放射性廃棄物については,ドラム缶にセメント固化するなどの処理を施し,安全管理上良好な状態にして施設内の貯蔵庫に保管している。
 また,使用済イオン交換樹脂等一部の廃棄物については,貯蔵タンクに貯蔵している。
 このほか,極低レベルの液体状及び気体状の放射性廃棄物については,法令に定められた基準値を十分下回るよう適切な処理を施したのち,環境に放出されている。
 低レベル放射性廃棄物の発生量をみると,昭和55年度には原子力発電所から,ドラム缶にして約4.5万本の廃棄物が発生し,累積すると約23.5万本になっているなど全原子力施設では約33万本に達している。

 これら低レベル放射性廃棄物の処分については,前述の基本的方針に沿って陸地処分と海洋処分を併せて実施することとしているが,昭和51年10月,主として低レベル放射性廃棄物の処理,処分に関する調査研究及び処分の受託を行う機関として(財)原子力環境整備センターが設立され,試験的海洋処分に関する準備及び陸地処分に関する調査研究が進められている。
 ii 高レベル放射性廃棄物処理処分再処理施設で発生する高レベル放射性廃棄物については,その量は昭和55年度末現在,液体約93m3,固体約117m3であり,動力炉・核燃料開発事業団東海再処理施設において厳重な安全管理の下に保管されている。

(2)放射性廃棄物処理処分の研究開発

i低レベル放射性廃棄物処理処分
 低レベル放射性廃棄物の処分については,試験的海洋処分を昭和57年度以降できるだけ早い時期に実施することを目標に,(財)原子力環境整備センターが所要の準備を進めており,その一環として,試験的海洋処分の実施に関して,廃棄物投棄船の基本設計,詳細設計等の調査研究が進められた。一方,陸地処分については,海洋処分に適さないもの,あるいは回収可能な状態にしておく必要のあるもの等を対象とし,施設での貯蔵,地中への処分が検討されている。この一環として,(財)原子力環境整備センターにより,秋田県尾去沢における浅層処分を模擬した状態での安定同位元素による各種試験,日本原子力研究所により放射性同位元素を用いた放射性核種の地中挙動に関する試験等が行われている。
 なお,海洋処分等に必要な制度面の整備については,昭和53年度に,国による確認の制度が設けられるとともに投棄物の固型化等の方法,放射能濃度限度等海洋処分の基準が定められた。また,国際協調の下に海洋処分を実施するとの方針から廃棄物その他の物の投棄による海洋汚染の防止に関する条約(ロンドン条約)を批准するため,昭和55年4月,原子炉等規制法及び放射線障害防止法の一部を改正するとともに,同年10月,ロンドン条約批准書の寄託を行い,同年11月,ロンドン条約に加盟した。さらに,昭和56年7月,経済協力開発機構原子力機関(OECD-NEA)の多数国間協議監視制度に参加した。
 また,試験的海洋処分の実施について,国内関係者に対する説明を実施するとともに,昭和55年8月以降,5回,関係太平洋諸国に専門家を派遣し,説明を行っており,各国の理解を得るための努力が重ねられている。昭和56年9月にグアム島で開催された第三回太平洋地域首脳会議へ説明団を派遣し,我が国としては安全性は十分確認の上OECD-NEA等の基準に基づき行う等基本的な考え方を説明するとともに,我が国の海洋処分評価について,太平洋諸国から提示されていた批判に対し技術的観点から安全性の説明を行ったところである。

ii 高レベル放射性廃棄物処理処分
 従来,高レベル放射性廃棄物の処理処分の研究開発については,「放射性廃棄物対策に関する研究開発計画」(昭和51年6月放射性廃棄物対策技術専門部会中間報告)に沿って,進められてきたが,昭和55年12月,原子力委員会の放射性廃棄物対策専門部会は,上記の研究開発計画を見直して新しい研究開発計画をとりまとめ,原子力委員会に報告した。

(i)固化処理技術開発
 新しい研究開発計画においては,固化処理については,近い将来実用化が見込まれるものとし,世界的に主流となっているホウケイ酸ガラスによる固化処理技術に重点を置いて研究開発を進めることとし,昭和62年度運転開始を目標に,固化貯蔵パイロットプラントの建設を進め,固化処理技術を実証することとしている。このため,動力炉・核燃料開発事業団においては,昭和53年度より模擬廃液を用いた工学規模での試験を進めており,高レベル放射性物質研究施設で昭和57年度から,東海再処理施設で発生した実廃液を用いた実験室規模での試験を開始することとしている。
 更に,通商産業省大阪工業試験所と動力炉・核燃料開発事業団は,共同研究によりガラス固化処理に関する基礎的研究を進めている。

(ii)地層処分研究開発
 地層処分については,地層という天然バリア(障壁)に工学的バリアを組みあわせることによって,高レベル放射性廃棄物を人間環境から隔離することを基本的考え方とし,今後40年程度にわたる長期的な計画のもとに,次の5段階を経て研究開発を進めることとしている。

ア 可能性のある地層の調査(第一段階)
 全国的な地層賦存状態の調査を行い,まず,「可能性ある地層」を抽出する。これと並行して,地層の特性の評価手法の確立を図る。これらの成果を踏まえ,総合評価を行って,「可能性ある地層」から「有効な地層」を選定する。(昭和59年目途)

イ 有効な地層の調査(第2段階)
 第1段階で選定された「有効な地層」についてボーリングを含む詳細な調査を行い(昭和60年代),総合的な評価を経て,昭和70年代初頭を目途に試験地を選定する。

ウ 模擬固化体現地試験(第3段階)
 「試験地」において,放射性物質を含まない模擬固化体による現地試験を行う。(昭和70年代)

エ 実物固化体現地試験(第4段階)
 第3段階の結果をみて,実物固化体による現地試験を行う。(昭和80年代)

オ 試験的処分(第5段階)
 以上の結果をみて,試験的処分を開始する。(昭和90年代初頭目途)現在は,第1段階の「可能性ある地層」の調査が進められており,動力炉・核燃料開発事業団において「可能性ある地層」を抽出するための地層賦存状態の調査が文献調査及び地質概査により行われるとともに,「可能性ある地層」から「有効な地層」を選定する際に必要となる地層の特性の評価手法を確立するための調査研究が,北海道の下川鉱山における試験やスウェーデンのストリパ鉱山におけるOECD-NEAの国際共同研究等により進められている。
 一方,日本原子力研究所においては,処理処分の各段階の安全評価手法の確立をめざして研究を行うとともに,ガラス固化以外の新技術についての基礎的研究を進めている。


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