第II部 原子力研究開発利用の動向
第1章 原子力発電

4 軽水炉技術の定着化等

(1)軽水炉技術の現状
 軽水炉は,経済的にも技術的にも実証された発電用原子炉として世界で最も広く利用されている炉型であり,昭和56年6月末現在,世界で運転中の原子力発電所設備容量の80.7%を占めている。日本においても運転中の商業用原子力発電所のほとんどが軽水炉である。
 この軽水炉は,米国からの技術導入によって開始されたものであるが,我が国最初の発電炉である日本原子力研究所の動力試験炉(JPDR)が発電を開始して以来18年を経過し,この間における米国技術の消化,吸収及び国内における技術開発と経験の蓄積により,軽水炉技術は,相当程度に我が国自身の技術となりつつある。ハードウエアの面については,既に国産化率が90数%以上に達し,ほぼ国産の原子炉といってよい段階にある。

(2)軽水炉の改良標準化等
 軽水炉の改良標準化については,通商産業省において,昭和50年に軽水炉改良標準化委員会が設置され自主技術による軽水炉の信頼性,稼動率の向上,従業員の被ばく低減化等を目指した軽水炉改良標準化計画が開始された。
 第1次改良標準化は,昭和50年度から昭和52年度にかけて実施され,格納容器の大型化等の改良により従業員の作業放射線量の低減,作業能率の向上等が図られた。この成果は,第1次標準プラント仕様としてまとめられ,その後に設計されたプラントに採用されている。
 これを踏まえて,第2次改良標準化計画が昭和53年度から昭和55年度にかけて実施されたが,この成果をもとに昭和56年度以降設置許可がなされるプラントにおいては以下のことが期待されている。

i 信頼性及び稼動率向上
 蒸気発生器,応力腐食割れ(SCC)対策及び燃料等の大幅な改善が図られるとともに,定期検査の効率化などにより時間稼動率は約80%,設備利用率は約75%になることが期待される。

ii 定期検査の効率化
 定期検査は現在原子炉側作業がクリティカルとなっており,原子炉側作業を主に,定期検査期間短縮のための検討及び設備の開発が行われ,併せて実施された作業体制の見直しの寄与などを前提とすれば,定期検査期間は,第2次改良標準化プラントで約70日となることが期待される。

iii 従業員の作業放射線量の低減
 従業員の作業放射線量の低減について種々の検討及び設備の開発が行われ,第2次改良標準化プラントで従来の約1/2に減少するものと期待される。
 更に昭和56年度からは,これまで実施してきた第1次,第2次改良標準化プラントをベースとして,機器・システムはもちろん,炉心を含む原子炉本体に至るまで自主技術を基本として国際協調を図りつつ,下記の一層の向上をはかることにより日本型軽水炉を確立することを目標に,5カ年計画で第3次改良標準化計画が進められている。

① 信頼性の向上
② 稼動率の向上
③ 運転性の向上
④ 従業員の作業放射線量の低減
⑤ 立地効率の向上
⑥ リードタイムの短縮化
 なお,第3次改良標準化と関連して,従業員の作業放射線量の低減等に寄与するインターナルポンプ設備及び日負荷追従運転を可能とする高性能燃料の実用化を推進するため,昭和56年度から(財)原子力工学試験センターに委託して確証試験が実施されている。
 また,原子力発電所の品質保証向上のための活動については,官民一体で進められている。
 一方,原子力発電所の中長期的な立地選択の幅の拡大を図るため,通商産業省において,昭和52年度から新立地方式の調査・検討が進められており,これまでの検討で地下立地方式は技術的には十分可能であり,経済的にも建設費の著しい増加なく建設可能であるとされており,引き続き検討が進められることになっている。また,海上立地方式についても,長期的視点から積極的な調査検討が進められることになっている。

(3)運用期間を終了した原子力施設のデコミッショニング(運転廃止後の措置)
 運用期間を終了した原子力施設のデコミッショニング(以下,「運転廃止後の措置」という。)については,日本原子力研究所において従来から研究炉及び臨界実験装置等の解体を通じて,その合理的な実施方法の調査研究を進めてきており,昭和55年度は,原子炉プラント内の汚染の分布状況の調査及び内蔵放射能量の調査等を行った。
 原子力委員会は,昭和53年度及び54年度に日本原子力研究所に委託し,各界の専門家の参加を得て運転廃止後の措置のケーススタディ,欧米主要国の運転廃止後の措置の実施状況等の調査,主要な技術的諸問題の整理等を行ってきており,昭和55年11月には,廃炉対策専門部会を設置した。
 同専門部会では,今後の課題とその対応策を検討,整理し運転廃止後の措置の対策確立への長期展望を明らかにするとともに,我が国により適した運転廃止後の措置の技術を確立するための技術上の課題を検討し,総合的な技術開発計画を策定することとしている。
 また,科学技術庁においては,昭和56年度から日本原子力研究所に委託して,運転廃止後の措置を安全かつ効率的に実施するうえに必要な総合的な技術開発に着手した。
 更に,通商産業省においては,学識経験者等による廃炉調査委員会を設けて,サイトの有効利用を図りつつ,商業炉の運転廃止後の措置の円滑な実施を行なうとの観点から運転廃止後の措置の手順,技術方式,経済性,技術基準等の検討を進めるとともに,(財)エネルギー総合工学研究所に委託し,商業炉の運転廃止後の措置の対策に関する所要の調査及び運転廃止後の措置の技術の確証試験を実施している。


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