第II部 原子力研究開発利用の動向
第1章 原子力発電

3 原子力発電所の立地関連状況

(1)原子力発電に関する国民の意識
 総理府が昭和55年11月に行った「省エネルギーに関する世論調査」では表に示すように次のような結果がでている。
 今後のエネルギーのあり方については,節約に努めるとともに,足りないエネルギーは新たに開発すべきであるという意見が55%を占めている。また将来の電力における主力となる発電については,原子力であるとする人が47%を占めるとともに,総電力量に占める原子力発電の比率を現在より多くしたほうがよいとする意見が38%となっている。この結果からみると,エネルギー源としての原子力発電所に対する国民の期待は大きいと考えられる。

 しかしながら,原子力発電所については不安感ありとする人が未だ半数以上を占めており,今後とも原子力発電所の安全運転の実績を積みあげていくとともに原子力発電の安全性について国民の理解を得る努力を続けることが重要である。

(2)原子力発電立地をとりまく状況
 近年の原子力発電所立地の進展状況をみると必ずしも順調に進んでいるとは言い難い。
 まず電源開発調整審議会(以下「電調審」という。)で決定された原子力発電所の基数をみると,昭和44年度から昭和48年度までの5年間には,17基が決定されたが,昭和49年度から昭和53年度までの5年間は,12基であった。その後,米国スリー・マイル・アイランド原子力発電所の事故もあり約2年余の間は一基も決定されなかった。昭和56年3月になって3基の原子力発電所が決定され,再び前進しつつある。

 次に建設に要する期間のうち,いわゆる立地地域の合意形成期間とみられる電調審決定までの期間をみると地点によって相違はあるものの,長期化する傾向にある。昭和44年度から昭和45年度に電調審で決定された6基(各発電所の1号機を対象)の場合,その期間は平均で約23カ月であったが,それ以降決定された4基(各発電所の1号機を対象)の場合,平均約56カ月と2倍以上となっている。
 また,昭和48年度以降,原子力発電所の設置許可処分等に対して行政訴訟や異議申し立てが行われており,現在以下のものが係争中である。

(i)行政訴訟
① 伊方発電所原子炉設置許可処分取消請求控訴
② 伊方発電所原子炉設置変更(二号炉増設)許可処分取消請求
③ 東海第二発電所原子炉設置許可処分取消請求
④ 福島第二原子力発電所原子炉設置許可処分取消請求
⑤ 柏崎・刈羽原子力発電所原子炉設置許可処分取消請求

(ii)異議申立て
① 柏崎・刈羽原子力発電所原子炉設置許可処分に対する異議申立て
② 福島第二原子力発電所設置変更(3,4号炉増設)許可処分に対する異議申立て
③ 川内原子力発電所設置変更(2号炉増設)許可処分に対する異議申立て

(3)原子力発電所の立地推進
 昭和55年11月28日,「石油代替エネルギーの供給目標」が閣議決定されたが,これに示された原子力発電の供給目標を達成するためには,当面する立地難の打開が重要であり,原子力委員会も同日「原子力発電の開発促進について」とする委員長談話を発表した。この中で「我が国にとって原子力発電は,石油代替エネルギーの中で最も有望で,かつ,現実的な供給力となり得るものであるにも拘わらず,その実現の障害となっているのは立地問題であり,政府及び関係機関の格段の努力により,立地難を克服し,今回の目標を達成することが是非とも必要なことであると考える。」旨指摘している。
 政府においては,昭和56年度施策として,以下の立地促進策を進めている。

i広報活動等の強化
 原子力に対する国民の理解を求め,その研究開発利用を一層円滑に推進するため,テレビ,出版物等の活用,講演会,各種セミナーの開催等により広報活動を積極的に推進している。
 また,原子力発電所等の立地を円滑に進めるために立地予定地域の有識者を対象とした原子力講座等を開催するとともに,原子力発電所立地の初期段階における地元住民の理解と協力を得るため,国自らが広報活動を展開することとしている。更に地方自治体の行う広報活動等への助成を行っている。
 また,電源立地調整官等の機能的活動により,原子力発電所の立地に係る地元調整を推進するとともに,運転に入った原子力発電所の立地県については原子力連絡調整官による地元と国との連絡調整を進めている。
 なお,政府は昭和56年9月の第16回総合エネルギー対策閣僚会議において,要対策重要電源に原子力発電所1地点(下北原子力1号)を追加すること,原子力発電所を中心とした電源立地に係る諸手続の円滑化の具体的検討を進めること等が了解された。

ii電源三法の活用
 発電用施設周辺地域整備法等の電源三法を活用し,引き続き,原子力発電施設等の周辺住民の福祉の向上等に必要な公共用施設の整備を進めるとともに,施設周辺の環境放射能の監視,温排水の影響調査,防災対策,原子力発電施設等の安全性実証試験等を推進し,原子力発電施設等の立地の円滑化を図っている。
 さらに,昭和56年度から,新たに次のような施策を推進している。
(i)原子力発電施設等の周辺地域の住民,企業に対する給付金の交付及び周辺地域住民の雇用確保事業のための「原子力発電施設等周辺地域交付金」及び発電用施設の周辺地域住民の雇用確保事業のための「電力移出県等交付金」からなる「電源立地特別交付金」を創設し,原子力発電施設等の立地対策の抜本的強化を図っている。
(ii)既存の制度についても,電源立地促進対策交付金について,同交付金により整備された公共用施設の維持等のためにも供するよう,その使途を拡大するとともに,放射線監視交付金及び温排水影響調査交付金についても,設備の更新にも使用できるよう,その使途を拡大し,また原子力発電施設等緊急時安全対策交付金について,緊急時の周辺環境への影響調査を交付対象に追加する等,内容の充実を図っている。

(4)公開ヒアリング
 通商産業省は,電源開発基本計画案が電源開発調整審議会に付議される前に,原子力発電所の設置等に係る諸問題に関し,第一次公開ヒアリングを開催することとしているが,昭和55年12月以降,東京電力(株)柏崎・刈羽原子力発電所2,5号炉,中国電力(株)島根原子力発電所2号炉及び東北電力(株)巻原子力発電所1号炉について実施した。
 また原子力安全委員会は,発電用原子炉施設の新増設案件に関し,通商産業省の行った安全審査について調査審議を行うに当たり,当該原子炉施設の固有の安全性について地元住民の意見等を聴取し,これを参釣することを目的として第2次公開ヒアリングを開催してきており,昭和55年1月以降,関西電力(株)高浜発電所3,4号炉,東京電力(株)福島第二原子力発電所3,4号炉,九州電力(株)川内原子力発電所2号炉,日本原子力発電(株)敦賀発電所2号炉及び中部電力(株)浜岡原子力発電所3号炉について実施した。


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