第II部 原子力研究開発利用の動向
第1章 原子力発電

2 原子力発電所の運転状況

(1)設備利用率
 商業用原子力発電所の設備利用率は,昭和48年度以降60%を下まわっていたが,昭和55年度には8年ぶりに60%を越え,60.8%と順調であった。また昭和56年度に入ってからも,4月から9月までの6カ月間の平均で65.9%(前年度同期間平均61.6%)と順調に推移している。設備利用率が向上した要因としては,初期故障に伴う点検,改修作業がほぼ終了したこと,作業工程の綿密なチェック等により定期検査の効率的実施及び期間の短縮が図られたこと等が挙げられる。

(2)事故・故障
 原子力発電所で発生した事故・故障は,原子炉等規制法及び電気事業法に基づき,原子炉設置者が国に対して報告するよう義務づけられている。昭和55年度中に両法に基づき報告のあった原子力発電所の事故・故障は25件であり,昭和56年度に入って4月から5月末までに報告された事故・故障は4件であった。いずれの場合も,放射線及び放射性物質による従業員及び周辺公衆への影響はなかった。
 なお,昭和56年4月に明らかとなった敦賀発電所の事故の概要等は,以下のとおりである。

i敦賀発電所の事故の概要

(i)第4給水加熱器からの漏洩について
 昭和56年4月1日敦賀発電所第4給水加熱器に故障の疑いがもたれたため,通商産業省が立入検査を行ったところ,昭和56年1月に2回にわたり第4給水加熱器B系統の抽気側胴でドレン水漏れが発生し,それぞれの漏洩に対して保修工事が実施されたことが判明した。しかしながら,これら一連の漏洩発見の事実及び講じた措置については監督官庁に対し報告されなかった。

(ii)一般排水路への放射性物質の漏洩について
 昭和56年4月18日,日本原子力発電(株)は,通商産業省に対して敦賀発電所放水口対岸付近のホンダワラから平常時より高い放射能が検出されたため調査した結果,一般排水路出口棚の土砂からコバルト60,マンガン54が検出された旨,報告を行ない,これを受け,通商産業省は立入検査を実施した。この結果,昭和56年3月8日放射性廃棄物処理建屋内のフイルタースラッジ貯蔵タンクから放射性廃液が溢れ出,この一部が一般排水路に混入し,浦底湾に流入したこと等が明らかになった。
 周辺環境への影響については,福井県及び科学技術庁が調査を実施した結果,魚介類の海産食品については放射性物質は検出されず,また,放射性物質の検出されたホンダワラやムラサキイガイ(通常非食性)を一年間毎日食べ続けたとしても,それらの摂取による全身被ばく線量は年間0.04ミリレムであり,一般公衆の年間許容線量500ミリレムの約1万分の1以下であり,周辺の人々への放射性物質による影響はないと判断された。
 また,漏出廃液の処理及び除染の作業の際の従事者の個人被ばく線量は法令に定める許容被ばく線量に比べて十分低い値となっている。

ii敦賀発電所事故に対する措置と今後の対策

(i)日本原子力発電(株)に対する措置
 通商産業省は,今回の一連の事故について強く反省を求めるため,原子炉等規制法に基づき6カ月間敦賀発電所原子炉の運転停止を命じた。また今回の事故の原因を踏まえ,今後再びこのような事態を発生させないため,同社に対し関連施設の改造改善,保安管理体制の立て直し等必要な指示,指導を行った。
 また,労働省においては,敦賀発電所の労働者の安全衛生に係る管理体制の見直し,労働者の教育訓練の徹底等必要な指示,指導を行った。

(ii)国の安全規制行政の強化
 国としても,今回の事故の教訓を踏まえ安全規制行政に関し,技術基準の整備充実,安全審査の改善,運転管理専門官制度の改善,事故・故障の報告対象範囲の明確化等を講じ,原子力発電の安全確保に万全を期していくこととした。


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