第3章 核不拡散への対応と国際協力
1 核不拡散をめぐる国際動向

 核不拡散問題は,安全保障,軍縮,エネルギー開発利用,資源等の問題が複雑にからみあっているため,各国にとっては核兵器の不拡散に関する条約(NPT)やそれに基づく保障措置等の制度的・技術的な面のみにとどまらず政治性の強い問題となっている。
 昭和49年5月のインドの核実験は,世界に衝撃を与え,これを契機とする資源国を中心とした核不拡散強化の動きは,ここ数年我が国の原子力開発利用に大きな影響を及ぼしてきた。昭和52年米国のカーター大統領の核不拡散政策は,世界の核兵器国と非核兵器国,ウラン資源供給国と消費国,先進国と開発途上国等といった関係での対立や原子力平和利用の面での混乱を引き起こしたが,これらの対立や混乱を解決する道を見い出すため,昭和52年10月から2年余にわたって,国際核燃料サイクル評価(INFCE)が開催された。この結果,原子力の平和利用と核不拡散は適切な保障措置等のもとに両立するとの結論が出され,核不拡散問題について関係諸国間の相互理解が深まることとなった。即ち,INFCEを1つの契機として,世界の核不拡散についての考え方が「対立」の時代から「協調」の時代へと踏み出され,核不拡散の新しいレジームの確立を目指して,二国間や多国間で種々の協議が行われるようになった。
 このような中で,昭和56年6月イスラエルによるイラクの原子炉爆撃事件が発生したが,この事件は,改めて世界に核不拡散問題の持つ政治性の大きさを認識させるとともに,NPT体制下での原子力平和利用に複雑な波紋を投げかけた。このため,国際原子力機関(IAEA)の保障措置の有効性に関し,論議を呼ぶこととなったが,本事件を受け国際原子力機関の理事会では直ちにイスラエルの暴挙を批判するとともに,国際原子力機関の保障措置が信頼できるものであり,かつイラクにおいてNPT保障措置に反するいかなる事実も見い出されていないことを確認した。
 その後,昭和56年7月,我が国の原子力開発利用に最も大きな影響を持つ米国において,核不拡散に関する対外政策として,「核不拡散及び原子力平和利用協力に関する米国レーガン大統領の声明」が発表されたが,INFCE後の世界の核不拡散の協調のあり方を示唆干るものとして十分注目に値するものと考えられる。今回のレーガン大統領の声明の内容は,(i)核不拡散は,安全保障と世界の平和維持にとって重要であり,米国は,今後も核不拡散努力を続け,その強化を図る必要がある。(ii)原子力平和利用の協力において,友好国や同盟国の米国に対する信頼を回復する必要があり,また,核拡散の危険のない進んだ原子力計画を持つ国での再処理及び高速増殖炉の開発を妨げない,の二点に集約される。
 米国のこのような新しい核不拡散に対する対応は,先のINFCEの結論とも十分整合性のとれるものであり,INFCE後の新しい核不拡散体制の確立に向けて大きな意味を持つものと思われる。カーター前政権の硬直的な姿勢に比べ,今回の政策は核不拡散の多面的な側面を考慮して友好国や同盟国との連帯の強化,米国の信頼の回復,保障措置技術の改良等により総合的,現実的な形で核不拡散問題を扱っていこうとするものであり,原子力委員会としては,昭和56年7月原子力委員会委員長談話として発表したように本声明は十分評価しうるものと考えている。
 しかしながらこのようなレーガン大統領の声明を受け,日米間の再処理に関する長期的取決め等をひかえている我が国としては,米国が今後どのような具体的核不拡散政策をとっていくか十分注目していく必要がある。


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