第2章 原子力開発利用の進展状況
7 放射線利用

 放射線及び放射性同位元素(RI)の利用は,原子力発電とともに原子力平和利用の重要な一環として,早くから基礎科学分野から医学,工業,農業等の応用分野に至るまで幅広く行われており,今や国民生活に不可欠なものとなっている。その利用は年々増加しており,昭和56年3月末現在で放射性同位元素や各種放射線発生装置を使用して放射線障害防止法の規制をうける事業所数は4,084ヵ所にのぼり,この1年間でも約100ヵ所余も増えている。
 放射線の利用面を分野別に見ると,社会のニーズに即応し,医学の分野における利用開発がめざましく,また,その他の分野における利用技術も年々多様化,高度化しつつある。
 まず,医学の分野では,放射性医薬品の利用が進み,臨床上欠くことのできない診断法となっている。更に医療用加速器の利用開発にめざましいものがあり,治療面では放射線医学総合研究所において速中性子線治療が有望な成績をあげており,診断面では,理化学研究所において開発された超小型サイクロトロンが既に実用化されるとともに,放射線医学総合研究所において,通商産業省工業技術院及び厚生省の協力のもとに,短寿命RI標識有機化合物製造技術及びポジトロンCTの開発が進められている。工業分野では,放射線を利用した測定器による製造工程の自動制御等が普及しており,また,日本原子力研究所においては放射線を利用した耐熱性及び耐薬品性の優れた高分子材料の開発等が進められている。農業分野では,沖縄本島周辺の島で放射線により不妊化した虫の放飼による害虫根絶技術が実用化しており,また農業技術研究所等において放射線育種研究等が,国立衛生試験所等において照射みかんの健全性の研究等が進められている。環境保全の分野においては,国立公害研究所において,汚染物質の生物への影響の解明,土壌中の元素の動態の解明等に放射性物質が利用されており,また,日本原子力研究所においては,排煙中のNOx,SOxの除去排水処理,汚泥処理等への放射線の利用技術について研究が進められている。

 これらの放射線利用の分野のうち,特に放射線化学及び加速器の医学利用の研究開発についてその推進方策等について調査審議するため,昭和55年11月原子力委員会は放射線利用専門部会を設置した。
 同専門部会は,昭和56年10月に報告書をとりまとめ,次のように述べている。
 放射線化学については,近年,生物学,医学,工学等他の分野の専門家との共同研究により研究開発を行う必要性が高まっており,これら境界領域における重点研究開発課題を整理するとともに,それらを円滑に推進していく体制の整備が必要である。また加速器の医学利用については,最近その進歩にめざましいものがあるが,今後ポジトロンCT技術による診断技術及びより生物効果の高い速中性子線,陽子線等の高LET放射線によるがん治療技術の研究開発を積極的に推進する必要がある。


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