第2章 原子力開発利用の進展状況
3 核燃料サイクルの確立

(天然ウランの確保)

 原子力発電の進展に伴い,我が国のウラン需要は,今後増大すると見込まれるが,国内ウラン資源に期待できない我が国としては,必要なウランを海外に依存せざるを得ない。我が国は,海外のウラン鉱山会社との購入契約及び開発輸入により,イエローケーキ(U3O8)にして合計19万3千ショートトンの天然ウランを確保しており,これによって昭和60年代後半までの必要量は賄われているが,それ以降に必要とされる天然ウランについては,新規手当が必要である。
 現在,世界的な原子力発電開発の停滞等もあって天然ウランの供給に余裕があると考えられるが,長期的には,ウラン資源について需給がひっ迫することが予想され,また,ウラン資源は,米国,カナダ,南アフリカ,オーストラリア等の小数国に偏在していることから,将来の天然ウランの価格の動向については楽観することはできない。更に,海外において我が国企業等によるウラン資源開発を進めるには,調査探鉱から生産までには十数年を要することを考慮する必要があり,需給バランスの均衡がくずれるとみられる昭和60年代後半以降に備えて長期的安定供給の方策を今から講じていく必要がある。
 このためウラン供給先の多様化に配慮しつつ,引きつづき海外ウランの購入契約を進めるとともに,我が国の企業等によるウラン資源の探鉱開発を進めていくことが必要である。
 このうち,ウラン資源の探鉱開発については動力炉・核燃料開発事業団において,カナダ,オーストラリア,アフリカ諸国等でウランの調査探鉱を実施しているが,昭和56年6月にはオーストラリア西部のイルガルン地区でこれまでの調査探鉱のなかで最も有望なウラン鉱床が発見されるなど,今後の調査探鉱の発展が大いに期待されるものもでてきている。

 また,民間企業においても,ウラン調査探鉱で7社,ウラン鉱山開発で2社が,それぞれ外国企業と共同で探鉱及び開発を行っている。このうち,ニジエールのアクータ鉱山では既に生産が行われ,昭和55年度において我が国の年間ウラン供給量の約1割強を供給している。
 なお,海水からウランを回収するシステムについては,金属工業事業団において,昭和58年度完成を目途に,現在,モデルプラントを建設中である。

(ウラン濃縮)

 我が国は,現在,ウラン濃縮役務の全量を海外に依存しており,米国及びフランスとの長期契約により昭和60年代中頃までに必要な量は確保している。大規模な原子力発電開発計画を持つ我が国としては,我が国の原子力開発利用を計画的に進める上で,ウラン濃縮役務を海外依存の現状から脱却するとともに,再処理回収ウランのリサイクル利用などの観点から,濃縮ウランの国産化を推進する必要がある。
 動力炉・核燃料開発事業団を中心に,開発が進められてきた遠心分離法ウラン濃縮技術によるパイロットプラントは,昭和55年10月には遠心分離機4,000台に増設され昭和56年末には更に3,000台の据付けが終り,パイロットプラントが完成する予定である。
 このような状況を踏まえ,原子力委員会は,実用濃縮工場の建設・運転に至るまでのウラン濃縮国産化の進め方について検討するため,昭和55年10月,ウラン濃縮国産化専門部会を設置した。同専門部会は,昭和56年8月,既に第1章で述べたようにウラン濃縮国産化の目標,推進方策等についてとりまとめ原子力委員会に報告したところであり,原子力委員会においては,この報告をもとに今後の進め方を検討中である。
 一方,民間企業において開発が進められ実験室規模の研究開発で技術的可能性の見通しが得られつつある化学法ウラン濃縮技術についても,遠心分離法などの他の濃縮技術に比して,経済的に採算がとれるプラントの最小規模が小さく,また原理的に高濃縮ウランを作ることが困難であるため,核不拡散上有利であるなどの利点を有することから,遠心分離法を補完する技術としてその開発について国により助成措置が講じられている。

(再処理)

 ウラン資源に乏しく,そのほとんど全量を海外に依存している我が国としては,資源の効率的利用等の観点から,原子力発電所から発生する使用済燃料を再処理し,燃え残りのウラン及び新たにウラン238から生じた核分裂性物質のプルトニウムを再利用することが不可欠である。現在,我が国において生ずる使用済燃料の再処理については,その一部が動力炉・核燃料開発事業団の東海再処理施設で再処理されているが,その能力が小さいので大半は海外の再処理施設に依存している状況にある。
 このような状態では,今後増大する使用済燃料の再処理需要に対しては極めて不安定であり,国内に十分な再処理能力を有する再処理工場を建設・運転することが必要である。
 このため昭和55年3月電気事業者を中心とする民間企業の共同出資により日本原燃サービス(株)が設立され,昭和65年度頃の運転開始を目途にサイト選定のための調査等諸準備作業が進められている。政府としても,この民間再処理工場に関し技術面,立地面等について必要な支援措置を講じていくとともに,同工場の建設,運転に際してぱ厳重な安全規制を行うこととしている。
 また,動力炉・核燃料開発事業団の東海再処理施設については,昭和55年12月に使用前検査の合格証を取得し,昭和56年1月本格運転を開始したが,その後,酸回収精留塔の故障等があったため同年10月末までの累積再処理量は約110トンにとどまっている。
 更に原子力発電所から発生する使用済燃料の海外再処理委託については,我が国の電力会社と英国核燃料公社(BNFL)及びフランス核燃料公社(COGEMA)との間で,約5,700トンの使用済燃料を再処理する契約が締結されており,昭和55年度には約150トンの使用済燃料が英国及びフランスへ移送された。

(放射性廃棄物処理処分)

 原子力発電所等において発生した低レベル放射性廃棄物はドラム缶等に詰められ安全に施設内に保管されているが,その量は毎年5万本程度増加しており,昭和55年度末における累積量は約33万本に達している。この量は,今後の原子力開発利用の拡大に伴い更に増大していくことが見込まれ,これらの放射性廃棄物の適切な処理処分を行うことは,原子力利用の推進に当たって重要な課題の1つとなっている。
 低レベル放射性廃棄物の処分については,海洋処分及び陸地処分を併せて行うとの方針のもとに所要の施策を進めている。
 このうち,海洋処分の進め方としては,事前に安全性を評価した上で試験的海洋処分を行い,その結果を踏まえて本格的海洋処分を行うという慎重な方法を採ることとしている。また,海洋処分の実施に際しては,国際条約に加盟する等国際的協調のもとに,内外の関係者の理解を得て実施することとしている。

 海洋処分の安全性についてはこの方針に従い,既に昭和51年8月科学技術庁が環境安全評価をとりまとめ,昭和54年11月原子力安全委員会がその内容を再評価し,安全であることを確認している。なお,これらは処分固化体に関する安全性実証試験,投棄予定海域の海洋調査等多くの試験研究の成果に基づき,かつ現実に起こるとは考えられない厳しい条件の下で行われた評価である。
 また,海洋処分の国際的協調に関しては,我が国について昭和55年11月に廃棄物その他の物の投棄による海洋汚染の防止に関する条約(いわゆるロンドン条約)が発効され,また,昭和56年7月には経済協力開発機構原子力機関(OECD-NEA)の放射性廃棄物の海洋投棄に関する多数国間協議監視制度に参加した。同制度に参加することにより,我が国は,①処分実施前にNEAへ投棄計画の内容,海洋処分に係る環境安全評価等を通知し,NEAの審査等を受ける,②処分実施の際には,NEAより派遣された代理人より投棄作業について監視を受ける,等の国際的制度のもとで実施することになった。

 海洋処分の実施について内外関係者の理解を得ることについては,昭和51年以来,国内水産関係者への説明を続けているが,昭和56年に入ってからも全国漁業協同組合連合会を始めとする水産関係団体等に説明を行うなど国内関係者の理解を得るべく話し合いを進めている。また,太平洋関係諸国等については,第2回太平洋地域首脳会議で試験的海洋処分計画の概要,試験的海洋処分の環境安全評価の内容等について説明を行ったのを始め,昭和55年度中に4回にわたり,我が国から関係諸国に専門家を派遣し同様の説明を行った。更に政府は昭和56年度に入ってからも9月にグアム島で開催された第3回太平洋地域首脳会議へ説明団を派遣し,海洋処分の実施に当たっては安全性を十分確認の上,IAEA,OECD-NEA等の国際的な基準に基づき行う等我が国の基本的な考え方について説明を行った。その際,太平洋諸国から提示されていた我が国の海洋処分の安全評価に関する批判に対しても批判の内容が我が国の安全評価を十分理解して行われたものでないこと,批判の根拠となるデータの使い方が学術的に適切でないこと等を指摘し,我が国の安全評価が十分な正当性を有するものであることについて説明が行われた。しかしながら,いまだ海洋処分の実施についてこれら諸国の十分な理解を得るに至っておらず,今後ともあらゆる機会をとらえ関係者の理解を得るよう努めていく必要がある。
 一方,陸地処分については,海洋処分に適さないもの,あるいは,回収可能な状態にしておく必要があるもの等を対象とし,施設での貯蔵,地中への処分が検討されている。この一環として,(財)原子力環境整備センターによる秋田県尾去沢における浅層処分を模擬した状態での安定同位元素による各種試験,日本原子力研究所による放射性同位元素を用いた放射性核種の地中挙動に関する試験等が行われている。
 一方,再処理施設で発生する高レベル放射性廃液は,量的には少ないが,半減期が長く,高い放射能を有しているので,環境汚染と公衆の放射線被ばくを防止する観点から,人間の生活圏から隔離し,安全に管理することが必要である。このため高レベル放射性廃液は安定な形態に固化し,一定期間貯蔵した後,処分することとしている。
 従来,再処理施設から生ずる高レベル放射性廃液の処理処分については,「放射性廃棄物対策に関する研究開発計画」(昭和51年6月放射性廃棄物対策技術専門部会中間報告)に沿って,動力炉・核燃料開発事業団及び日本原子力研究所を中心に研究開発が進められてきたが,その後の技術開発の進展を踏まえ,原子力委員会の放射性廃棄物対策専門部会において上記の研究開発計画の見直しが行われ,その結果,昭和55年12月検討結果がとりまとめられ原子力委員会に報告された。その概要は次のとおりである。
 使用済燃料の再処理施設から発生する高レベル放射性廃液はガラス固化して安定な形態にし,放射能による発熱が減少する間,一定期間(数十年程度)貯蔵した後,最終的には地層に埋設して処分し,人間環境から隔離する必要がある。
 固化処理については,近い将来実用化が見込まれるものとして世界的に主流となっているホウケイ酸ガラスによる固化処理技術に重点を置いて研究開発を進めるべきである。また,地層処分については,地層という天然バリア(障壁)に工学的バリアを組みあわせることによって,高レベル,放射性廃棄物を人間環境から隔離することを基本的考え方とし,今後40年程度にわたる長期的な計画のもとに,(i)可能性ある地層の調査,(ii)有効な地層の調査,(iii)模擬固化体現地試験,(iv)実固化体現地試験,(v)試験的処分,の5段階で研究開発を進めるべきとしている。
 現在,更に同専門部会においては,低レベル放射性廃棄物の処理の今後の進め方,陸地処分の進め方,極低レベル放射性廃棄物の合理的な取扱い等について,今後の具体的方策を検討しているところである。


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