第2章 原子力開発利用の進展状況
2 新型炉の開発

 我が国の原子力発電には,現在,主に軽水炉が採用されているが長期にわたり原子力発電を我が国のエネルギー供給源の中核として拡大していくためには,ウラン資源を効率的に利用し得る適切な新型炉の開発が重要な課題である。
 このため我が国は昭和42年以来,技術導入依存型から脱却し自主技術として確立することを目ざし,高速増殖炉及び新型転換炉の開発を国のプロジェクトとして進めてきている。このプロジェクト達成は単に我が国のエネルギーの安全保障を確立するばかりでなく,技術水準の向上,国際競争力の強化等我が国の産業の発展を図る上でも大きな意義を有するものである。
 また長期的には,原子力を電力という形で利用するだけでなく製鉄,水素製造等各種の分野で,核熱エネルギーを積極的に活用していくことが必要であり,多目的高温ガス炉の開発が進められている。

(新型転換炉)

 軽水炉から高速増殖炉へという新型炉開発の基本路線を補完する中間炉として位置づけられている新型転換炉については,昭和60年代の実用化を目途に動力炉・核燃料開発事業団において研究開発が進められている。原型炉「ふげん」は昭和54年3月に本格運転を開始して以来,順調な運転を行っていたが,昭和55年11月に冷却系配管の一部に応力腐食割れによる傷が発見された。このため当該箇所の補修と予防対策を兼ねて所要の配管取り替え工事が行われるとともに,同工事と併行して行われた第2回定期検査において各施設設備の健全性が確認され,昭和56年11月に運転が再開された。また,この機会に取り替えられた新燃料中の44体には動力炉・核燃料開発事業団東海再処理施設において回収されたプルトニウムが初めて使われ,これにより,我が国の核燃料サイクルの輪がつながったことになった。
 原子力委員会は,次の開発段階である実証炉の検討を行うため,昭和55年1月新型転換炉実証炉評価検討専門部会を設置した。同専門部会は,昭和56年8月,検討結果を取りまとめ既に第1章で述べたように新型転換炉の意義,実証炉の建設の妥当性等について原子力委員会に報告を行った。現在,原子力委員会としてその報告を踏まえ今後の進め方を検討中である。

(高速増殖炉)

 高速増殖炉は,昭和70年代の実用化を目途に,動力炉・核燃料開発事業団において研究開発が進められている。
 高速増殖炉の実験炉「常陽」については,昭和52年4月の初臨界以来順調な運転を続け,原型炉の開発に必要な技術データや運転経験を着実に蓄積してきており,昭和55年8月から昭和56年8月まで第3サイクル運転,第2回定期検査,第4サイクル運転及び第5サイクル運転を行い,この間,昭和56年4月には原子炉運転通算10,000時間を達成した。また実験炉は,昭和57年度に高速増殖炉の燃料・材料の照射試験を行えるよう炉心(最大熱出力10万キロワット)が改造されることになっており,その準備として,照射用炉心に使用する炉心燃料,制御棒,反射体等の炉心構成要素の製作等が行われてきている。
 実験炉「常陽」に続く原型炉「もんじゅ」は,その設計・建設・運転の経験を通じて発電プラントとしての高速増殖炉の性能及び信頼性を技術的に確認することを目的としているものであり,高速増殖炉の開発に欠くことのできない重要なステップである。現在,原型炉は福井県敦賀市を立地予定地点として建設準備が進められているが,地元の理解を得やすくするため,国による原子炉の安全審査を先行させることとし,地元の了解を得て科学技術庁において安全審査が行われている。高速増殖炉の重要性に鑑み早期に地元の了解が得られ建設に着手することが望まれる。
 更に,実証炉以降の高速増殖炉の開発計画を円滑に進めるため原型炉「もんじゅ」の建設と併行して次の段階としての実証炉の調査検討を進めることも重要である。このため動力炉・核燃料開発事業団は,昭和54年度から大型炉設計研究を開始するとともに,炉物理研究,日米共同による大型炉心モックアップ実験等の研究開発を進めている。また,電気事業者においても,電気事業連合会が中心となり,実証炉の概念設計を進めている。一方,通商産業省においても実用化推進のため,その技術面,経済面からの調査・検討に着手している。

 原子力委員会は,これらの検討状況等も踏まえ,現在,新しい原子力開発利用長期計画の検討の一環として,実用化の展望を踏まえた実証炉以降の開発体制,スケジュール,実証炉に関する研究開発計画,高速増殖炉核燃料サイクル等について検討を進めている。

(多目的高温ガス炉)

 我が国は,海外依存度の高い脆弱なエネルギー供給構造からの脱却を目指して,原子力発電を推進しているが,一次エネルギー需要の2/3を占める電力以外の分野についても,原子力エネルギーの利用を図ることがエネルギー安全保障のうえから肝要なことである。
 このような電力以外の分野における核熱エネルギー利用の重要性に鑑み,原子力委員会は,昭和53年9月,原子力研究開発利用長期計画において,発電以外に核熱エネルギーを活用するための原子炉として,従来研究を進めてきていた多目的高温ガス炉の開発を進めることとし,その第一段階として発生高温ガスの温度,1,000°C程度を目標とする実験炉を昭和60年代前半の運転を目途に建設することとした。
 この多目的高温ガス炉は日本原子力研究所において研究開発が進められてきたが,昭和54年度からは,実験炉用機器の実証試験を目的とした大型構造機器実証試験ループ(HENDEL)の建設を進めており,昭和55年度からは,実験炉の詳細設計を進めている。昭和56年度においては,引き続き詳細設計及び大型構造機器実証試験ループの建設を進めるとともに,大型構造機器実証試験ループ本体部についての性能試験を行うこととしている。
 一方,核熱の利用システムについては,通商産業省において「高温還元ガス利用による直接製鉄技術の研究開発」を進めた結果,昭和55年度までに実験炉規模における直接製鉄に関する基礎技術を確立することができたので,一旦中断し,今後は多目的高温ガス炉開発の進展状況等を勘案しつつその推進について適宜検討していくこととなった。
 核熱の利用分野については,製鉄のほか水素製造,石炭のガス化・液化,化学工業等が考えられるが,今後,これらの実施の可能性につき積極的に検討を進めていく必要がある。
 なお,最近では地域暖房,紙パルプ製造等への低温領域での核熱利用として軽水炉の核熱利用の可能性が検討されている。


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