第2章 原子力開発利用の進展状況
1 原子力発電

(原子力発電開発の状況)

 昭和56年3月九州電力(株)の玄海原子力発電所2号炉が新たに運転を開始したことにより,現在,我が国の運転中の商業用原子力発電設備は,合計22基,総電気出力1,551万1千キロワットとなっている。
 これは,昭和55年度末において国内の総発電設備容量の約12%,また総発電電力量の約16%を占め,全1次エネルギーに対してはその約5%を占めるものであり,国際的には米国,フランスに次いで第3位の原子力発電国となっている。
 建設中の商業用原子力発電設備は,昭和56年3月に新たに九州電力(株)川内原子力発電所2号炉の工事計画が認可されたことにより,計11基,総電気出力1,011万キロワットとなった。建設準備中の商業用原子力発電設備は,昭和56年3月,東京電力(株)の柏崎・刈羽原子力発電所2号炉・5号炉及び中国電力(株)の島根原子力発電所2号炉,並びに昭和56年11月,東北電力(株)の巻原子力発電所1号炉の4基が新たに加わったことにより,計6基,総電気出力610万5千キロワットとなった。
 この結果,現在,我が国の運転中,建設中及び建設準備中の原子力発電設備は,総計39基,総電気出力3,172万6千キロワットとなっている。
 昭和55年11月28日の閣議において,「石油代替エネルギーの供給目標」として決定された原子力発電の規模は,昭和65年度において,原油換算7,590万キロリットル,2,920億キロワット時(全必要エネルギーの10.9%に相当)であり,この目標を達成するための必要発電設備容量は,5,100〜5,300万キロワットと見込まれている。
 商業用原子力発電所の設備利用率についてみれば,昭和55年度には60.8%と順調な運転を示し,昭和48年度以降8年ぶりに60%を越えた。これは,初期故障に伴う点検改修作業がほぼ終了したこと,定期検査の効率的実施が図られたこと等のためである。
 なお,昭和56年度に入ってからも,4月から9月までの6ヵ月間の平均で65.9%となっており,前年同期間平均61.6%を上回っている。

(安全確保の状況)

 原子力発電の安全性の向上については,原子力安全委員会及び行政庁において様々な施策が進められてきている。米国スリー・マイル・アイランド原子力発電所事故の教訓を我が国の安全確保に反映させるため,審議を行っていた原子力安全委員会は昭和56年6月米国原子力発電所事故調査報告書(第3次)をとりまとめ,これによりスリー・マイル・アイランド原子力発電所事故に係る調査は一段落することとなった。
 また,昭和56年4月敦賀発電所について,同発電所の第4給水加熱器からドレン水漏れが昭和56年1月に発生し監督官庁へ報告されていなかったことが判明した。更に同発電所放水口対岸付近のホンダワラから異常値が検出され,通商産業省が調査した結果,昭和56年3月に発生したフィルタースラッジ貯蔵タンクからのオーバーフロー水が一般排水路に漏洩し浦底湾へ流出したことが解明された。
 これら一連の事故の重要性に鑑み通商産業省は電気事業者に対し,原子炉等規制法に基づき6ヵ月間敦賀発電所原子炉の運転停止を命ずるなどの処分を行うとともに,技術基準の整備充実,安全審査の改善,保安規定の整備充実等6項目の安全規制強化対策を講じた。
 なお,敦賀発電所の事故の他,昭和55年度電気事業法及び原子炉等規制法の規定に基づき報告された原子力発電所の事故・故障は25件,昭和56年度に入っては,4月から5月末まで4件であった。いずれの場合も放射線及び放射性物質による従業員及び周辺公衆への影響はなかった。

(原子力発電所の立地)

 原子力発電所の立地については,困難さが増大しており,特に新規立地点において地元関係者の取り組みが極めて慎重になってきており,最近においては,立地可能性の調査段階においてすら地元の協力が得られにくい場合が多く,きめ細かな対応が必要となってきている。
 このため,原子力発電の必要性,安全性等について地元住民の理解と協力を得るため,広報活動等が積極的に推進されるとともに,電源立地の円滑化に資するとの観点から立地地域の振興を図るための施策が充実,強化されてきている。
 広報活動等については,従来から広報資料の作成配布,各種研修,の実施等が行われてきているが昭和56年度からは立地初期の調査段階における対策の重要性が増していることに鑑み,立地の初期段階において,国自らが広報を行う他,地方自治体の行う広報への助成等,積極的な広報活動を行うこととしている。
 一方,立地地域の振興については,従来から電源三法に基づく交付金制度等の充実が図られてきたが,昭和55年度においては立地交付金の交付限度額の増額及び交付期間の延長,都道府県,市町村の行う広報・安全及び防災対策への支援等の新しい施策が実施され,更に昭和56年度においては次のような施策が行われることとなった。
 即ち,発電所施設の周辺の地域の住民の雇用確保等を図るため,原子力発電施設等周辺地域交付金及び電力移出県等交付金から成る電源立地特別交付金を創設し,原子力を始めとする石油代替電源の立地を促進することとした。原子力発電施設等周辺地域交付金は,原子力発電所等の所在市町村,隣接市町村を有する都道府県に対し,原子力発電所等の設備能力に応じて,一定額の交付金を交付し,この財源をもとに,第3者機関を通じて電灯需要家については一戸当り定額,企業等の電力需要家については,その契約電力に応じた額の給付金を交付するか,又は地域住民の雇用の機会を確保するための事業を促進しようとするものである。また,電力移出県等交付金は,県内における発生電力量が県内における消費電力量を1.5倍以上の比率で上回る等の状況にある都道府県を対象に当該地域からの移出電力量に応じて一定額の交付金を交付し,地域住民の雇用の機会を確保するための事業を促進しようとするものである。

 更に,電源立地促進対策交付金の使途が拡充され,同交付金で整備された公共用施設の維持費等の経費に,交付金の交付限度額の10%を限度として基金を積み立て,その運用益金等を使用することができることとなった。

(公開ヒアリングの実施)

 原子力発電所の新増設に際し,当該計画に地元住民の意見を反映するための制度として設けられた公開ヒアリングは,これまで第1次公開ヒアリングが3回,第2次公開ヒアリングが5回それぞれ行われてきている。
 第1次公開ヒアリングは,電源開発基本計画案が電源開発調整審議会に付議される前に,発電所の設置に係る諸問題について地元住民から意見を聴くとともに,地元住民の理解と協力を得るため通商産業省の主催により開催されるものであるが,昭和55年12月に初めて東京電力(株)柏崎・刈羽原子力発電所2号炉及び5号炉について開催され,その後中国電力(株)島根原子力発電所2号炉(昭和56年1月),東北電力(株)巻原子力発電所(昭和56年8月)について実施された。
 また第2次公開ヒアリングは,通商産業省の行った原子力発電所の安全審査について原子力安全委員会が調査審議を行う際に,当該原子炉施設の固有の安全性について地元住民の意見等を聴取し,これを参酌するため原子力安全委員会により,開催されてきているが,昭和55年1月,関西電力(株)高浜発電所3号炉及び4号炉につき行われた後,東京電力(株)福島第二原子力発電所3号炉及び4号炉 (昭和55年2月),九州電力(株)川内原子力発電所2号炉(昭和55年7月),日本原子力発電(株)敦賀発電所2号炉(昭和55年11月)及び中部電力(株)浜岡原子力発電所3号炉(昭和56年3月)について実施された。
 今後,上記の公開ヒアリングの開催に当たっては,制度創設の意義が一層高められるよう,原子力開発の賛成論者,反対論者を問わず,積極的に参加することが望まれる。

(軽水炉技術についての技術開発等)

 軽水炉技術の信頼性の向上,被ばく低減,検査の効率化等を目的として産業界の積極的参加のもとに通商産業省により進められていた軽水炉の第2次改良標準化計画は所期の成果を収め,昭和55年度終了した。この成果をもとに昭和56年度から5ヵ年計画で,信頼性の向上,運転性の向上等を目指し炉心に至るまで,自主技術を基本とし,日本型軽水炉を確立することを目的として第3次改良標準化計画が開始されることとなった。
 また,この第3次改良標準化計画と並行して昭和56年度からインターナルポンプ設備及び高性能燃料の実用化が,国の委託により(財)原子力工学試験センターにおいて進められることとなった。
 更に,原子力発電所の品質保証向上については従来から官民一体となって進められ着実に成果をあげてきているが,昭和56年9月通商産業省において今後の品質保証向上対策の基本的方向がとりまとめられ,これに沿って諸外国の現状も参考としつつ,より一層,統一的な基準・指針類の策定など基盤整備,機器・材料の標準化等が進められることとなった。
 運用期間を終了した原子力施設の運転廃止後の措置については,技術面,安全面,経済面等について従来から調査検討が進められてきているが,その方策を計画的に進めていく必要性が高まってきていることに鑑み,原子力委員会は昭和55年11月廃炉対策専門部会を設置した。同専門部会では,今後の課題とその対応策を検討整理し,運転廃止後の措置の対策確立への長期的展望を明らかにするとともに,我が国により適した運転廃止後の措置の技術を確立するための技術上の課題を検討し,総合的な技術開発計画を策定することとしている。また,運転廃止後の措置に関し,科学技術庁では昭和56年度から総合的な技術開発を進めることとしており,一方,通商産業省ではその対策に関する調査を実施してきており,昭和56年度からは技術の確証試験を進めることとしている。


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