第1章 原子力開発利用の新展開を迎えて
2 原子力発電の推進とその基盤整備

(2)原子力発電推進のための基盤整備

 当面,原子力発電所の建設を推進する上での最大の課題は,立地を確保することである。これを打開するためには,第一に原子力施設の安全確保の徹底を図り,安全運転の実績を積み上げて原子力に対する信頼を確立することが重要である。第二に,原子力に対する正確な知識・情報を提供することに努めつつ,地域住民の意見をくみとり原子力施設の立地が地域と共存できるよう配慮していかなければならない。また,原子力発電を拡大していく上での中長期的課題としては,軽水炉自体をより一層信頼性の高いものに改良していくとともに,核燃料の確保及び再処理体制の確立を図ることはもとより放射性廃棄物対策の促進,運用期間を終了した原子力施設のデコミッショニング(以下,「運転廃止後の措置」という。)対策の推進等原子力発電推進のための基盤の整備を図っていくことが必要である。

i 信頼の確立と安全確保の徹底
 前節で述べたように昭和50年代に入り原子力安全委員会が設置され,その新体制のもとで安全規制の強化,安全研究の推進,安全審査基準の整備等が着実に進められてきた。また,軽水炉の改良標準化及び品質管理の徹底等も進み,機器及び施設全体の安全性及び信頼性の向上が図られてきた。
 昭和54年の米国スリー・マイル・アイランド原子力発電所事故により増大した国民の不安に対しては,同事故の教訓を踏まえ,原子力発電所の安全対策の強化,防災対策の確立などによりその解消に努めてきたところであるが,昭和56年4月には敦賀発電所における放射性廃液の一般排水路への流出等が判明し,国民の原子力発電に対する不安を増大させる結果となり,誠に遺憾であった。国民の安全を図ることは国の責務であるが,原子力発電の安全確保については,まず当事者である電気事業者がその責任を全うしなければならないのは言うまでもない。このため電気事業者において安全管理体制が改善され一層安全確保が徹底されるとともに,国においても入念な審査,検査を行う等所要の対策を強化していく必要がある。
 また,敦賀発電所の事例は,電気事業者の安全管理が不適切であったこと,国における安全規制面の徹底を欠いた点があったことに加え,事故が国に報告されなかったこと等が重なり,これが社会に対する影響を大きくする結果となった。原子力関係者は,原子力施設のトラブルは事の大小にかかわらず原子力に対する信頼を損うことにつながることに十分配慮し,その取り扱いについては適切に措置し,かつ正確な情報の発表に努めていかなければならない。

ii 立地の推進と地域社会との共存
 原子力発電所,再処理工場,廃棄物処分場等の原子力施設の立地を推進するに当たっては,地元住民を始め国民の理解と協力を得ることが肝要である。このため,特に原子力施設に対する地元住民の理解を得るべく適切な広報を実施することはもとより,あらゆる機会を通じ地元の意見をくみあげることに努め,原子力施設が地域社会と共存できる形で地域に受け入れられるようにすることが重要である。
 昭和49年にいわゆる電源三法(発電用施設周辺地域整備法,電源開発促進税法及び電源開発促進対策特別会計法)を制定して以来,原子力施設立地地域の自治体等の要望を踏まえて,立地市町村及びその周辺市町村の道路,港湾,公園,水道,教育文化施設等公共用施設を整備し,地域の福祉向上に努めてきた。また,昭和56年度から電源三法に基づく交付金制度の拡充強化により,電源地域における地元雇用の促進,産業の振興等のための施策が講ぜられることとなった。
 立地の推進には,地域の事情に応じたきめ細かい対応が必要であり,今後とも関係者の一層の努力が求められる。
 原子力施設の立地及び建設に関する諸手続の促進等に関しては,関係各省庁間の密接にして迅速な連絡調整が必要であるが,一方地元自治体の果たす役割も極めて重要であり,原子力開発の重要性に鑑み,原子力施設と地域社会との共存の方策を探究し原子力施設の立地の促進等が図られるよう,積極的な関係者の努力を期待するものである。

iii 軽水炉技術の自主的改良
 軽水炉は米国からの技術導入により建設されてきたが,我が国産業界は既に20余基の軽水炉の建設・運転の経験を得,軽水炉技術を消化吸収し,国産化率を高めるとともに,その間,技術開発能力を強化してきた。
 我が国においては,こうして高まった技術力を背景に,我が国に適したいわば日本型軽水炉の確立を目ざし軽水炉の改良標準化計画が進められてきている。昭和56年度から信頼性の向上,運転性の向上,放射線作業環境の改善等を図る第3次計画に入ることになった。今後ともこれらの成果を逐次具体化し,技術水準の向上を図っていくことが必要である。
 なお,国内原子炉製造業者は,海外の製造業者と協力して改良型軽水炉の開発調査を進めているが,その成果は上記軽水炉の改良標準化計画に反映されていくことが望ましい。

iv 核燃料サイクルの体制整備
 原子力発電を将来にわたって円滑に推進するためには,今後ともますます需要が増大するウラン燃料が安定に供給されるとともに使用済燃料が円滑に処理されるよう自主的核燃料サイクルの体制が整備されることが重要である。
 このためには,第一にウラン資源について単に輸入に依存するだけでなく,準国産とも言えるように我が国企業等の参加のもとで探鉱・開発が行われたウラン資源を輸入する,いわゆる開発輸入の増大が図られなければならない。現在,海外の調査探鉱については動力炉・核燃料開発事業団が中心となって進めており,昭和56年に入って豪州のイルガルン地区等有望な地点も見い出されつつある。動力炉・核燃料開発事業団の海外ウラン調査探鉱については,昭和56年度約60億円を投じ開発を進めているところであるが,今後更に一層効果的な推進を図っていく必要がある。また,民間企業による海外ウラン探鉱開発も積極的に推進されることが期待される。
 第二にウランの濃縮役務について,国内で相当部分を処理しうる体制を確立する必要がある。遠心分離法によるウラン濃縮技術の開発が進められ,現在,商業用プラントへの橋わたしの役割を果たす原型プラントの建設準備が急がれており,民間の積極的な協力のもとにその推進が図られなければならない。
 第三に核燃料サイクルの要である再処理事業については,昭和65年度頃に大規模な民間再処理工場を運転開始することを目途に,日本原燃サービス(株)が建設の準備を進めている。国においては動力炉・核燃料開発事業団による技術的支援はもとより,立地の促進,建設についての財政措置等について支援の措置を講ずることとしているところであるが,関係者の一層の努力により早期に建設が進められることを期待するものである。

v 放射性廃棄物の処理処分等
 放射性廃棄物の処理処分を適切に行うことは今後の原子力発電推進の上で重要な課題である。
 原子力発電所を始めとする原子力施設で発生する低レベル放射性廃棄物については,現在,原子力施設で安全に保管されているが,最終的には海洋処分及び陸地処分をあわせて行う必要がある。海洋処分については安全性は十分確保されているとの評価が得られ,また,必要な法制面の整備,国際条約への加盟,経済協力開発機構原子力機関(OECD-NEA)の放射性廃棄物の海洋投棄に関する多数国間協議監視制度への参加等も完了している。しかしながら,その実施についてはいまだ内外の関係者の理解が得られておらず,今後ともあらゆる機会をとらえ関係者の理解を得るよう努めていく必要がある。また,陸地処分については,安全性の調査研究等を十分踏まえて試験的陸地処分を行うべく準備を進めているところである。
 再処理施設から発生する高レベル廃液については固化処理及び貯蔵に関する技術開発が進められており,昭和60年代初め頃にそのパイロットプラントの実証運転を開始することを目標としている。その処分については,処分に適する状態になるまで冷却するため一定期間(数十年程度)貯蔵する必要があることから処分時期はなお相当期間先のこととなるので,今後計画的にその技術の確立を図っていくこととし,現在地層処分に関する基礎的研究を進めているところである。
 また,運用期間を終了した原子力施設の運転廃止後の措置についても長期的に重要な課題であるばかりでなく,当面の原子力施設の立地対策上も地域住民の関心事項であることからその長期的な展望を明らかにする必要が生じている。このため,原子力委員会では昭和55年11月廃炉対策専門部会を設置し我が国の国情に適した措置方法について審議を進めているところである。


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