8.原子力損害賠償制度について

(1) 制度の概要
 原子力の研究開発利用を推進するに当っては,安全の確保を図ることが大前提であるが,これと同時に,万一原子力災害が発生した場合にも被害者の保護に万全を期すため,あらかじめ損害賠償制度を確立しておくことは,国民の不安感をとり除くとともに,原子力事業の健全な発展という観点からも重要である。このため,先進諸国においては,原子力の分野について一般の民事賠償制度とは異なる特別の損害賠償制度を設けており,我が国においても,昭和36年に「原子力損害の賠償に関する法律」及び「原子力損害賠償補償契約に関する法律」が制定され,原子力損害賠償制度が確立された。この制度により,原子力事業者は,原子力損害を与えた場合には無過失で損害賠償責任を負い,かつ,この責任は当該原子力事業者に集中され,機器メーカー等の関連企業には及ばない。また,原子力事業者は賠償の確実な履行のため,原子炉の運転等に際し一定額までの損害賠償措置(通常民間の責任保険及び政府補償契約の締結)を講じ,科学技術庁長官の承認を受けることを義務付けられる。更に政府は,損害額が上記措置額を超え,かつ,必要がある場合には,原子力事業者に対し援助を行うこととなっている。
 現在までに本制度に基づく賠償例はない。また損害賠償措置の承認件数は次表のとおりである。

(2) 原子力損害賠償制度の充実
 第87国会において原子力損害の賠償に関する法律の一部改正法が成立公布されたことを受けて,昭和55年11月に関係政令の改正が行れた。その主な内容は次のとおりである。
 ① 賠償措置の引上げ等
 法律改正により賠償措置額の最高額が60億円から100億円に引き上げられたことに伴い,各行為を行う際に必要とされる賠償措置額が次のとおり変更された。
  ○ 原子炉の運転(熱出力1万kWを超えるもの)及び再処理60億円→100億円
  ○ 原子炉の運転(熱出力が百kWを超え1万kW以下のもの)及び使用済燃料の運搬 10億円→20億円
  ○ 原子炉の運転(熱出力百kW以下のもの)使用,加工及び核燃料物質等の運搬 1億円→2億円
  ○ 核燃料物質等の廃棄 2億円(新たに設定)
 ② 原子力損害賠償紛争審査会関係の規定の整備
 万一原子力損害の賠償に関して紛争が生じた場合には,原子力損害賠償紛争審査会が設置され和解の仲介を行うことが出来ることとなっているが,同審査会の組織等に関する規定があらかじめ整備された。


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