7.国際核燃料サイクル評価(INFCE)最終総会コミュニケ

1. 国際核燃料サイクル評価(INFCE)の最終総会は,予定通り,ウィーンのホフブルグ宮において1980年2月25日から27日まで開催された。59カ国と6つの国際機関が参加した。

2. 総会は,中間総会議長であったエジプトのカマル・エファト博士により開会された。英国のハーマン・ボンディ卿の発議により,チュニジアのゲザル大使及びドイツ民主共和国のレーンシュ博士の支持により),日本主席代表の矢田部厚彦氏が,満場一致で総会議長に選出された。

3. INFCEは,1977年10月ワシントンで開催された設立総会により開始された。
 設立総会のコミュニケは,「参加国及び参加国際機関は,世界のエネルギー需要を早急に満たす必要があること及び平和的目的のための原子力がこのために広く利用されるべきであることを認識する。」「参加国及び参加機関は,また,エネルギー供給または平和的目的のための原子力開発を阻害することなく,核兵器拡散の危険を最小限にするための効果的な措置が,国家レベルにおいて且つ国際的合意を通じて,とられ得るものであり,且つ,とられるべきであることを確信する。」「参加国及び参加国際機関は,開発途上国の個別のニーズと事情に対して特別な配慮が払われる必要があることを認識する。」旨謳っている。
 以上の三点がINFCEでの検討の中心となった。

4. INFCEへの参加は,すべての関心を有する国及び関連国際機関について認められた。66カ国と5つの国際機関が検討に参加した。参加国には工業先進国と開発途上国,大規模原子力発電国から小規模原子力発電国まで様々な発展段階にある国々,核物質,原子力技術,設備の消費国と供給国,市場経済の国と計画経済の国,核兵器国と非核兵器国,ユーラトム条約,核兵器不拡散条約,トラテロルコ条約の加盟国とこれら条約のいずれにも加盟していない国,世界のすべての地域の国々が含まれていた。

5. 検討は,8つの作業部会に分かれて行われ,各作業部会は,次のような核燃料サイクルの特定の側面を責任分野として担当した。
 (1) 核燃料及び重水の入手可能性
 (2) 濃縮役務の入手可能性
 (3) 核不拡散と両立する国家的ニーズのための技術,核燃料,重水及び役務の長期供給保証
 (4) 再処理,プルトニウムの取り扱い,リサイクル
 (5) 高速増殖炉
 (6) 使用済燃料の管理
 (7) 廃棄物管理及び処分
 (8) 新型核燃料サイクル及び新型原子炉の概念
 各作業部会は,3カ国の,場合によっては2カ国の,自発的に申し出た共同議長国により組織された。これらの作業部会には,総計で46ヵ国から519名の専門家と5つの国際機関が参加した。彼らは,2年以上の検討期間中,61回の会合を開催し,2万頁を越える文書を作成した。

6. ワシントン・コミュニケにより,技術的観点から検討を調整するために,各作業部会の22名の共同議長からなる技術調整委員会(TCC)が設立された。
 TCCは,エイブラム・チェイズ議長の下で9回会合を開き,中間総会での指示に従い,工NFCEにおける検討の「要約と概説」を準備した。

7. 国際原子力機関(IAEA)は,各作業部会及びTCCに参加し,検討のため事務局機能と支援のサービスを提供した。

8. 作業の進展振りをレヴューするため,中間総会が,検討期間の中ばである1978年11月にウィーンで開催された。

9. 最終総会では,各作業部会が報告書を提出した。TCCの議長は,TCCの作業につき報告し,「要約と概説」を提出した。続いて一般討論が行われ,各国代表は報告書,INFCEでの作業及び将来の進展について発言した。

10. 参加国は,INFCEがその責務を成し遂げたものと考えた。INFCEは,核兵器の拡散の危険を最小限にしつつ,原子力資材の供給保証を強化するための手段を明らかにした。これらの手段には国際協力を必要とし,技術的,法的,制度的手段及び保障措置分野での改善が含まれる。INFCEは,この点に関し与えられた仕事のひとつとして開発途上国の特別のニーズを分析し,これらのニーズを満たすためIAEAを通じて各国によってとられるべき行動等の手段を指摘した。

11. 各国代表は,IAEAが現在まにで果してきた中心的役割を認識し,IAEAがINFCE作業の中心的課題であった問題の解決のために引き続き中心的役割を果していかなければならないことを認識した。

12. 参加国は,各作業部会報告書が個別意見ないし反対意見が付されることなく最終総会に提出されたことを満足の意をもつて留意した。如何なる合意文書でも同様であるが,このことは作業部会の各メンバーが,すべての文言について完全に合意したことも,特定の表現ぶりについての場合に同意したことも意味しない。更に,ワシントン・コミュニケにおいて,参加国はINFCEの結果に拘束されないこととなっていることが想起された。

13. 環境,健康及び安全性の問題については,特定の核燃料サイクルが受け入れられた基準に従って行われ得るかを決定するために,各作業部会が,その付託事項の範囲内で検討した。これらの問題の検討の結果,関係基準は守られ得るということが明らかになった。
 環境・健康及び安全性についてのより総合的な評価は,他の各国独自の機関ないし国際機関,特にIAEAにおいて行われている。

14. INFCEは交渉ではなく,非政治的な,技術的かつ分析的な検討を行うものとして行われたものであるので,報告書には政策の勧告は含まれていない。各国代表は,検討が行われた範囲の問題については,INFCEの報告書は諸問題の明確化に重要な貢献をしたこと,貴重な提言を行ったこと,及びINFCEは見解の相違の幅をせばめ,参加国間の共通の理解を増進したことについて意見の一致を見た。

15. 最終総会は,討論の終了にあたり以下の行為を行った。
 (1) 各作業部会の報告書及びTCCの「要約と概説」を受理し,参加国または参加国際機関は,INFCEの結果に拘束されないとのワシントン・コミュニケの文言を想起しつつ,参加国政府が原子力利用政策を展開する際に考慮に入れるために,並びに,原子力協力及びこれに関連のある規制措置,保障措置に関する国際協議のために,これらの報告書及び「要約と概説」を参加国政府に提示した。更に,これら報告書が,原子力の平和利用に関心のある政府,国際機関及び国際会議のために利用されるべきであることを決議した。
 (2) INFCEが終了したことを決定し,各作業部会及びTCCを解散した。
 これとの関係で,INFCEの検討へのすべての参加者の努力に謝意を表するとともに,これら参加者の作業の質の高さに賛辞を送った。
 特に,検討の主たる責任が課された各作業部会の22の共同議長,各総会の議長,それに最後ではあるが,TCCの議長であり,かつ設立総会の議長でもあったエイブラハム・チェイズ博士に特別の謝意を表明した。
 (3) IAEAに対し,検討のためにIA EAが提供した技術的及び事務的支援の質の高さに謝意を表明した。
 (4) INFCEが終了したこと並びに各作業部会の報告書及び「要約と概説」が一般に公開されるべきことを宣言した。

16. 最後に,総会は,INFCEにおいて明らかにされた事項が次の見解を強化したということを明らかにしたい。
 一原子力に対しては,世界のエネルギー需要を満たすための役割を高めることが予測されており,原子力はこの目的のために広く利用されることが可能であり,また広く利用されるべきである。
 一原子力の平和利用に関する開発途上国の特別のニーズを満たすため,効果的な措置がとられることが可能であり,また,とられるべきである。
 ーエネルギーの供給又は平和利用のための原子力の開発に障害を与えることなく核拡散の危険を最小限にとどめるため,効果的な措置がとられることが可能であり,またとられるべきである。

17. 総会は,上記目的が継続的国際協力を通してのみ達成可能であることを認識し,参加国は,INFCEにおいて得られた大きな成果の一つである,国際原子力分野における相互理解と協力の雰囲気を保持しようと決心した。


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