2.原子力委員会の計画及び方針等

〔参考2〕
 原子力施設等安全研究及び環境放射能安全研究について(抄録)

(昭和55年6月16日)
原子力安全委員会決定

 昭和55年6月16日原子力施設等安全研究専門部会及び環境放射能安全研究専門部会より報告のあった「原子力施設等安全研究年次計画(昭和56年度―昭和60年度)」(昭和55年5月28日付け)及び「環境放射能安全研究年次計画(昭和56年度―昭和60年度)」(昭和55年6月6日付け)について検討した結果,原子力施設等安全研究及び環境放射能安全研究は,今後それらの報告にそって積極的に進められることが適当であると考える。

 資料1. 原子力施設等安全研究年次計画(原子力安全委員会,原子力施設等安全研究専門部会)
 軽水炉施設,核燃料施設及び核燃料輸送容器についての工学的安全性に係る研究(以下「原子力施設等安全研究」という。)は,原子力委員会原子炉施設等安全研究専門部会が昭和51年4月に策定した「原子炉施設等安全研究年次計画(昭和51年度―昭和55年度)」を当専門部会が,昨年7月に全面的に見直し,その結果をとりまとめた「原子力施設等安全研究年次計画(昭和54年度・昭和55年度)」に基づき推進されてきているところである。
 今後とも長期的視点に立って計画的かつ総合的に原子力施設等安全研究を推進する必要があると考え,当専門部会において昭和56年度以降5カ年間に国として実施すべき安全研究課題について,その必要性,研究内容,実施機関等について審議し,その結果を安全研究年次計画としてとりまとめたので報告する。
 なお,安全研究年次計画をとりまとめるに当っての考え方等は,次のとおりである。
(1) 安全研究の必要性
 原子力の安全確保の基本は,放射性物質を安全に管理することであり,このため原子炉施設の設計,建設及び運転にあたっては,次の深層防御(De-fenceinDepth)の考え方をとっている。
① 第1のレベルでは安全上余裕のある設計を行うこと。製作において厳重な品質管理を行うこと,設計どおり建設又は製作されているか検査すること,運転に入ってから,厳重に監視し,点検,保守を行うことにより施設や関連機器に故障が起こらないよう配慮する。
② 第2のレベルでは,このような配慮にもかかわらず,運転中に何らかの故障の発生を仮定し,そのような場合に対応して,設備の損壊の防止や事故の影響を少なくするための多重的かつ独立的な工学的安全施設を設けることにより,大きな事故に発展することがないよう対策を講じる。
③ 第3のレベルでは,多重性を有する上記工学的安全施設のうち,その一部が作動しないことなどさらに厳しい状況を想定し,このような場合でも周辺の公衆の安全を確保するため,所要の対策を講じる。
 また,核燃料施設等の設計,建設及び運転にあたっても上記の考え方を原則として準用している。
 さらに,周辺公衆に対する放射線防護の基本的考え方として,放射線による被曝を実行可能な限り低く押えるALAP(asLowasPracticable)という考え方をとっている。
 以上の深層防御の考え方及びAL APの考え方に従った安全基準,指針,解析モデル等に基づいて,総合的に原子力施設等の安全性が判断されたのち,原子力施設等の建設,運転が行われており,これまでも高い安全確保の実績を有している。
 しかしながら,今後の原子力施設等の改良,単基容量大型化等に対し,また安全研究の進展及び原子力施設等の建設,運転経験の蓄積等による知見の増大に対応して,特に昭和54年3月の米国原子力発電所の事故を踏まえて,上記安全基準,指針,解析モデル等の判断資料の整備に資するために安全研究を一層推進する必要がある。
 さらに,原子力施設等の設計,建設及び運転にあたっては,科学技術の進歩を踏まえ,最新の技術水準をとり入れて安全性の向上を図ることが必要であるため,このための安全研究を推進する必要がある。
(2) 研究テーマ選定に当っての考え方
 安全確保を目的に行う研究,即ち,安全研究は次の2つに大別される。
① 安全基準等の策定及び安審査全に当っての判断資料の整備に必要な研究
② 安全性の向上のための研究前者については,規制上の必要性,緊急性,国際協力による分担を含めた実施の可能性,その成果の得られるべき時期などを勘案して,当面昭和56年度から5カ年間に国が行うべき重要な研究テーマを選定した。
 後者については,原則として民間で実施されるべきものであるが,研究が長期にわたる等の理由により民間で実施することが困難なものについては,課題の重要性等を勘案して国が行うべき研究テーマを選定した。
(3) その他
① FBR,ATR等の安全研究については,当面開発研究の一環として行われているため,当専門部会の検討範囲には含めていない。
② 電源開発促進対策特別会計による実証試験は,原子力施設を実規模又は実物に近い形で模擬した装置で試験し,その安全性及び信頼性を実証するために行われているものであり,安全研究を直接の目的として行うものではないが,この種の大型試験で得られる成果は,安全研究を補う点で非常に貴重なデータであるため年次計画では参考として扱うこととした。
(4) 主な研究テーマ

1. 軽水炉燃料の安全性に関する研究
(1) 通常運転時の燃料ふるまいに関する研究(原研)
(2) 非通常時の燃料ふるまいに関する研究(原研)
(3) 通常運転時の破損燃料からのFPのふるまいに関する研究(原研)

2. 冷却材喪失事故に関する研究
(1) 冷却材及び冷却水の挙動に関する研究(原研)
(2) 計算コードの開発整備とECCS性能評価に関する研究(原研)

3. 軽水炉施設の構造安全性に関する研究
(1) 構造材料に関する研究(原研,金材研,船舶技研)
(2) 構造設計に関する研究(船舶技研,原研)
(3) 検査技術に関する研究(金材研,船舶技研)
(4) 異常荷重対策に関する研究(原研)

4. 原子力施設からの放射性物質放出低減化に関する研究
(1) 軽水炉事故時における放射性物質放出低減化に関する研究(原研)
(2) 再処理施設における気体廃棄物中の放射性物質放出低減化に関する研究(動燃,原研)
(3) 再処理施設における液体廃棄物中の放射性物質放出低減化に関する研究(動燃)

5. 原子力施設等の確率論的安全評価等に関する研究
(1) 原子力施設等の信頼性に関する研究(原研,電中研)
(2) 原子力施設等の確率論的安全評価に関する研究(原研)
(3) 原子力施設等の状態把握に関する研究(原研)

6. 原子力施設の耐震に関する研究
(1) 設計用地震動の策定に関する研究(建築研,土研,地質調)
(2) 耐震解析に関する研究(建築研,原子力工試)
(3) 施設及び安全裕度の評価・確認に関する研究(防災セ)
(4) 地震時におけるプラント状態の推定及び地震後の検査手法の確立に関する研究(原研)

7. 核燃料施設の安全性に関する研究
(1) 核燃料施設の臨界安全性に関する研究(原研)
(2) 核燃料施設のしゃへい安全性に関する研究(原研)
(3) 再処理施設の安全性に関する研究(原研)
(4) プルトニウム取扱施設の安全性に関する研究(動燃)
(5) 高レベル・アルファ放射性廃棄物取扱施設の安全性に関する研究(原研)
(6) 六ふつ化ウラン取扱施設の安全性に関する研究(動燃)

8. 核燃料輸送容器の安全性に関する研究
(1) 輸送容器安全解析コードの開発(原研)
(2) 核燃料輸送容器の安全性評価に関する研究(機械技研,消防研,船舶技研)
 注) ( )内は研究実施機関

 資料2 環境放射能安全研究年次計画(原子力安全委員会,環境放射能安全研究専門部会)
 環境放射能安全研究専門部会は,昨年7月,「環境放射能安全研究年次計画(昭和54年度―昭和55年度)」を策定したところであるが,今後とも長期的視点に立つて環境放射能安全研究を計画的かつ総合的に推進する必要があると考え,「環境放射能安全研究年次計画(昭和56年度-昭和60年度)」を策定すべく検討を進め,ここにその結果をとりまとめたので報告する。
 原子力開発利用は,施設の工学的安全性を高め,その信頼性を確保することはもちろんであるが,あわせて,施設に由来する放射能及び放射線を安全に管理することによって,はじめてその発展が期待されるものである。このような観点から,従来より,原子力利用に際しての安全の確保には特段の配慮がなされてきたところである。原子力発電をはじめとする原子力開発利用は,今後さらに進展し,かつ,多面化するものと予想されるので,国民の健康の確保,環境の保全等安全の確保に関する技術及び知見のより一層の充実が要請されるところである。
 このため,環境における放射能の挙動と放射線レベルの解明及びそれらによる被ばくの線量評価法の開発,並びに低レベル放射線の人体に及ぼす身体的・遺伝的影響の機序の解明及びそのリスクの評価,さらに緊急時における周辺住民の安全確保に関する研究を一層強力に推進する必要がある。
 当専門部会においては,このような観点から,今後5年間に実施すべき研究内容を次の6つに分類して検討した。
 まず,環境における放射能の挙動と放射線レベルの解明及びそれらによる被ばくの線量評価法の開発については,「放射性物質及び放射線の分布と挙動並びに被ばく線量評価」及び「環境放射線(能)のモニタリング技術」の2つに分けて検討した。
 次いで,低レベル放射線の人体に及ぼす身体的・遺伝的影響の機序の解明及びそのリスクの評価については,「低線量放射線の生物影響」,「内部被ばくの生物影響」及び「放射線の人体に対する影響」の3つに分けて検討した。前二者はそれぞれ,外部被ばく及び内部被ばくについての実験動物等を用いた研究を内容とするものであり,後者は,疫学的研究及び前二者の成果をヒトに外挿するための研究を内容とするものである。
 最後に,緊急時における周辺住民の安全確保に関する研究を,「放射性物質異常放出時の安全確保」として検討した。
 それらの分類ごとに,できる限り具体的かつ重点的に研究内容を述べるよう努めるとともに,環境放射能安全研究には1つのテーマを長期間かけて段階的に解明していくという研究が多いことに鑑み,研究の最終目標を明らかにするだけでなく,当面5年間の段階目標を明らかにするよう努めた。
 今後,本年次計画に沿って,関係機関の有機的な連携の下に,環境放射能安全研究のより一層の推進が図られることを期待する。なお,関連する国際的な活動にも積極的に協力することが望まれる。
 また,本分野の関係研究者が極めて少ない現状に鑑み,人材の養成及び確保には特に意を払う必要がある。
 今後実施すべき研究課題

1. 放射性物質及び放射線の分布と挙動並びに被ばく線量評価
(1) 環境における放射性物質の分布と挙動
① 大気中における挙動に関する研究(放医研,原研,動燃)
② 陸上生態系における挙動に関する研究(放医研,原研,土木試等)
③ 海洋生態系における挙動に関する研究(放医研,原研,大学等)
(2) 環境における放射線の特性と挙動
① β線及び中性子線外部線量の評価に関する研究(原研,放医研)
② 地表近傍における宇宙線中性子の特性に関する研究(電総研,理研,大学)
③ 空間線量の短期的・地域的変動に関する研究(放医研)
④ 生活環境の変化に伴う環境放射線の変動に関する研究(建築研,放医研,理研)
(3) 被ばく線量評価
① 放射性物質の人体への取り込みに関する研究(放医研,大学)
② 主要臓器中の元素濃度に関する研究(放医研,大学)
③ 生物学的パラメータに関する研究(放医研,大学)
④ 国民線量に関する調査研究(放医研,原研)

2. 環境放射線(能)のモニタリング技術
① 環境放射線の測定法に関する研究(放医研,原研,大学等)
② 環境放射能の測定法に関する研究(放医研,原研,分析セ等)

3. 低線量放射線の生物影響
(1) 晩発障害のリスク推定
① 放射線発がんに関する研究(放医研,大放研,大学)
② 非腫瘍性晩発障害に関する研究(大学)
③ 子宮内被ばくに関する研究(放医研)
(2) 遺伝的障害のリスク推定
① 霊長類の染色体異常に関する実験的研究(放医研,予研,大学)
② 遺伝子突然変異に関する実験的研究(放医研)
③ 低線量域における基礎的研究(遺伝研,大学,放医研)

4. 内部被ばくの生物影響
(1) 超ウラン元素
① 体内における挙動・代謝に関する研究(放医研)
② 内部被ばく線量の評価に関する研究(放医研)
③ 内部被ばくによる生物学的影響に関する研究(放医研)
④ 体内汚染の除去に関する研究(放医研)
(2) トリチウム
① 体内における動態に関する研究(放医研,大学)
② 生物影響に関する研究(放医研,遺伝研等)
③ 生物効果比を求めるための基礎的研究(放医研,遺伝研,大学)
④ トリチウム研究施設の充実

5. 放射線の人体に対する影響
(1) 疫学的研究によるリスクのモニタリング
① 原爆被ばく者の疫学的調査(放影研)
② 診療放射線技師の疫学的調査(日放技師会,大学)
③ 疫学的研究に必要な技術開発(放医研,大学)
(2) 放射線のヒトへの影響のリスクの評価

6. 放射性物質異常放出時の安全確保
(1) 緊急時のモニタリング
① 放射性ヨウ素の迅速分析法及びγ線サーベイ法に関する研究(原研)
② 航空機及び自動車によるサーベイシステムに関する研究(大学,原研,理研)
③ 放出源モニタ及び環境モニタの緊急時における信頼性向上に関する研究(原研)
(2) 緊急時環境放射能予測システム
① 風速場予測モデルの開発(気象研,気象協会)
② 各種環境条件下における拡散モデルの開発(気象研,原研,気象協会)
③ 被ばく線量予測モデルの開発(原研)
④ データバンクを含む総合システムの検討(放医研,原研)
⑤ 家屋等の放射線(能)防護効果に関する研究(建築研,原研)
 注) ( )内は主な研究実施機関


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