第7章 核融合及び原子力船の研究開発
2 原子力船

(2)原子力船研究開発の進捗状況

 日本原子力船開発事業団は,昭和53年10月,「むつ」を青森県むつ市の大湊港から長崎県佐世保港に回航し,昭和54年1月から原子炉プラント機器の点検を開始するとともに,昭和54年7月には,「むつ」を入渠させて船底等の点検を行った。さらに,昭和55年8月には「むつ」の遮蔽改修工事に着手した。
 また,「むつ」の定係港については,青森県むつ市の大湊港をもう一度「むつ」の定係港として使用することについて,昭和55年8月14日,科学技術庁から青森県知事に検討を依頼し,さらに同月28日にはむつ市長に,同月29日には青森県漁連会長に同趣旨の依頼をするなど,政府及び日本原子力船研究開発事業団(旧:日本原子力船開発事業団)において地元の理解と協力を得るための努力が続けられており,すみやかにこの問題を解決することが望まれる。
 このほか,原子力船に関する研究は,我が国では運輸省船舶技術研究所等において積極的に行われている。本年度は,運輸省船舶技術研究所において,前年度に引き続き,一体型舶用炉機器の性能の研究,一体型舶用炉の一次遮蔽に関する研究,原子力船の事故解析に関する研究等が実施されており,また,原子力平和利用研究委託費により,(社)日本造船研究協会において原子力船の耐衝突構造の防護能力に関する試験研究が実施されている。

(参考)諸外国の動向

1 核融合
 核融合の研究開発における世界のすう勢は,昭和40年頃から新しい局面を迎え,特にトカマク型を中心とする低又は中間ベータ値トーラス系装置は,今後プラズマ加熱法の技術開発やベータ値を高めるなどの改良・発展により,臨界プラズマ達成の見通しを立て得る段階に達している。
 米国,ソ連,フランス等における数多くの中規模トカマク型装置によって得られたこれまでの研究成果に基づき,トカマク型装置によって臨界プラズマを実現し得るとの見通しが一般的となった。
 このような判断にたち,米国,ソ連及びユーラトムにおいて次の段階の大型のトカマク型装置の計画又は建設が進められている。
 これらのうち,臨界プラズマ条件をやや下回る条件を目標とした規模のものとしてソ連のT-10が昭和50年7月に,米国のPLTが昭和50年11月に,また,ダブレットーIIIが昭和53年2月に稼動した。これらの装置により臨界プラズマ条件達成のための有力な資料が得られるものと期待されている。
 臨界プラズマ条件の達成を目途とする計画としては,米国のTFTR,ユーラトムのJET,ソ連のT-15などがあり,現在製作が行われている。これらは臨界プラズマ条件の実証を目的とするばかりでなく,更に進んで実際にD-T反応による燃焼のための大型トカマク装置であり,装置完成時期はTFTRが昭和56年,JETが昭和58年を予定している。T-15は,超電導コイルを用いる大型の装置であり,完成は昭和59年頃と予想される。
 世界のすう勢から判断すると,当面の目標である臨界プラズマ条件を最も早く達成する可能性のあるものはトカマク型装置であって,世界の核融合研究開発の主流となっており,これらに次いで非軸対称型高ベータ・プラズマ装置の研究開発が並行して進められている。これらの磁場閉込め核融合とは別に,慣性閉込め(レーザー)核融合がようやく物理学的諸問題を検討できる実験段階に到達してきたとみられる。

2 原子力船
(1) ソ連は,昭和34年に世界最初の平和目的の原子力船である原子力砕氷船レーニン号を完成し,その運航によって原子力砕氷船の有用性を実証した。その後,昭和49年にアルクチカ号,昭和52年シベリア号を完成し,それぞれ就航させており,これら3隻の原子力砕氷船は,現在も北極海において活躍中である。
(2) 米国及び西ドイツは,それぞれ実験的な目的で原子力貨客船サバンナ号(昭和37年完成,昭和45年まで運航)及び原子力鉱石運搬船オット・ハーン号(昭和43年完成,昭和54年まで運航)を建造し,それぞれ約10年間にわたって運航することにより原子力商船の技術的可能性を確認した。
 さらに,米国及び西ドイツは,これらの実験船の運航経験を踏まえて,さらに改良された舶用炉の開発を進め,現在は,設計をほぼ固めた段階にまで達している。
(3) フランスにおいても,原子力軍艦の運航経験を踏まえて商船用舶用炉の開発が進められており,現在は,米国及び西ドイツと同様,設計をほぼ固めた段階にある。
(4) カナダでは,沿岸警備隊が原子力砕氷船の建造について検討を進めている。


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