第7章 核融合及び原子力船の研究開発
2 原子力船

(1)原子力船研究開発の進め方についての見直し

 原子力船は,少量の核燃料で長期間にわたって運航でき,高速化・大型化が進む程経済性が良くなるなどの特長を有するため,その実用化が期待されており,我が国においても,昭和38年に日本原子力船開発事業団(昭和55年11月29日からは日本原子力船研究開発事業団)を設立し,原子力委員会が決定した「原子力第1船開発基本計画」(昭和38年7月決定,昭和42年3月,昭和46年5月及び昭和53年3月改訂)に従って,原子力第1船「むつ」の開発を進めてきた。
 「むつ」の開発は,昭和49年9月の出力上昇試験の際生じた遮蔽の不備による放射線漏れのため,一時停滞のやむなきに至った。政府は,このような事態に対処するため,「むつ」放射線漏れ問題調査委員会等を開催し,広く学識経験者の意見を求めて検討を進めた結果,「むつ」については,所要の修理・点検を行ったうえで出力上昇試験,実験航海等を実施することとした。このため,昭和53年10月,「むつ」は,長崎県佐世保港に回航され,同港において遮蔽改修工事及び安全性総点検が実施されることとなった。
 原子力委員会は,「むつ」開発の大幅な遅延,さらに,昭和52年の第82回国会における日本原子力船開発事業団法一部改正法案の審議に際して同事業団を原子力船についての研究開発機関に移行させるべき旨指摘された経緯等を踏まえ,今後の我が国の原子力船研究開発の進め方について審議するため,昭和54年2月,関係方面の専門家等からなる原子力船研究開発専門部会を設置した。同専門部会は,原子力船研究開発の課題,研究開発体制のあり方等につき検討を進め,昭和54年12月20日に検討の結果を原子力委員会に報告した。原子力委員会は,この報告を基に,また,特殊法人の統廃合に関する政府の行政改革への要請を踏まえ,慎重に審議を重ねた結果,昭和54年12月27日に「日本原子力船開発事業団の統廃合問題について」を,さらに,昭和55年4月11日には「原子力船研究開発の進め方について」を決定し,次のような見解を明らかにした。
i) 21世紀に入る頃には欧米先進諸国において原子力商船の導入が相当進んでいる可能性があると予想されており,石油需給のひっ迫が予想される将来において海運に対するエネルギー供給面の制約を緩和する見地から,原子力船については我が国こそ,その実用化を図るべく,研究開発を積極的に推進する必要がある。
ii) 「むつ」に加えて,小型・軽量で,かつ経済性,信頼性の優れた舶用炉の開発を中心とする研究開発についても,国が中心となり,相当長期間をかけて取り組む必要がある。
iii) 原子力船の研究開発を進めるにあたっては,実際の運航状態における舶用炉の挙動等原子力船を運航することによって得られるデータ,経験が不可欠であることを考えれば,早急に「むつ」の修理を終え,運航試験を実施することが今後の我が国の原子力船研究開発の第1歩である。
iv) 日本原子力船開発事業団については,当面は,同事業団を責任ある独立機関として,「むつ」に係る懸案事項の解決にあたらせるとともに,ii)の研究開発の機能を付与することが必要である。将来は「むつ」が実験船として活用できることとなった段階において同事業団を他の恒久的な原子力関係機関と統合し,長期にわたって一貫した体制で原子力船の研究開発に取り組んでいくものとする。
 政府においても,このような考え方に沿って,昭和54年12月28日,「昭和55年度以降の行政改革計画(その1)の実施について」の閣議決定において,日本原子力船開発事業団については,昭和55年度において研究開発機関に改組の上,昭和59年度末まで存続させることとし,当該時点において,科学技術庁主管の原子力関係機関と統合する旨決定するとともに,昭和55年2月15日には,日本原子力船開発事業団法の一部改正法案を第91回国会に提出した。この改正法案は,日本原子力船開発事業団を改組し,従来の「むつ」開発に加えて,原子力船の開発に必要な研究業務を行う日本原子力船研究開発事業団とするとともに,政府の行政改革計画にそって,昭和60年3月31日までに同事業団を他の原子力関係機関と統合するものとし,このために必要な措置を講ずるものとする旨定めようとするものであった。
 本法案は,昭和55年5月19日,衆議院が解散されたことに伴い,審議未了,廃案となったが,昭和55年10月6日,再度同趣旨の法案が第93国会に提出され,昭和55年11月26日成立し,同月29日施行された。


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