第4章 国際関係活動
3 核拡散防止に関する国際秩序形成のための国際的協議と我が国の立場

(4)NPT再検討会議

 核兵器の不拡散に関する条約(NPT:昭和45年3月発効,我が国は昭和51年6月批准)は,効力発生の5年後に条約前文の目的の実現及び条約の規定の遵守を確保するように条約の運用を検討するため,締約国による会議を開催することを規定しており,これに基づいて昭和50年5月,第1回NPT再検討会議が開催され,NPTの運用について検討された。その結果原子力平和利用については,IAEAの保障措置体制の充実,核物質・原子力資材等の供給確保,フィジカル・プロテクションのための国際取極の勧奨,地域核燃料サイクルセンター構想の検討開始及び5年後に第2回NPT再検討会議を開催すること等を盛り込んだ最終宣言が採択された。
 第2回NPT再検討会議は,NPTの実施状況を検討するため昭和55年8月11日から9月7日までジュネーブにおいて開催された。同会議には,114の締約国のうち我が国を含む75ヵ国が参加した。会議では,閉会予定日を2日間延長し最終文書案の調整が試みられたが,主として核軍縮(第6条)関係について核兵器国と非同盟諸国との間で意見の一致をみるに至らなかった。その結果,かなりの歩み寄りを見せていた原子力平和利用分野を含めた実質的文書について合意が得られず,第3回NPT再検討会議の1985年開催を含む手続的内容の最終文書のみが採択されるにとどまった。しかしながら,同会議においては,同条約の改正,脱退等NPT体制自体に対する挑戦はみられず,NPTの維持強化の必要性と重要性が再確認されたことは有意義であったと思われる。
 同会議における主要論点は以下の通りである。
① 供給国による原子力資材,技術等の輸出規制開発途上国(全て非核兵器国)たる加盟国はNPT加盟により同条約第2条の下で核兵器保有のoptionを放棄し,そのみかえりとして第4条の下で原子力資材,技術等への自由なaccessが得られることを期待していたが,かかる期待は実現されず,むしろ原子力資材,技術等が供給国により規制されているとし,第4条の実施振りに不満を表明した。
 具体的には途上国側は供給国が途上国に相談することなく秘密裡に集まり一方的に原子力資材等の輸出条件(ロンドンガイドライン)を定めたこと,更に供給国は二国間協定でNPT第3条を上廻る規制を定めたことは第4条違反であるとし,供給国にこのことを認めるよう強くせまった。
 供給国側(米,加,豪等)はこれに対し,ロンドンガイドライン及び二国間協定中のNPT第3条を上まわる規制は核拡散防止確保のためどうしても必要なものであり,第4条に反するものではないと主張した。
② フルスコープ保障措置受諾をNPT非加盟非核兵器国への原子力資材輸出の条件とする問題NPT加盟の非核兵器国は条約第3条1項の義務として自国の全ての核物質(自国産核物質を含め)についてIAEAの保障措置(いわゆるフルスコープ保障措置《FSSG》)を受け入れなければならないが,非加盟国の場合,当該物質のみにIAEAの保障措置がかかることを受諾すれば,加盟国より核物質を輸入することができることになっている。この点において,NPTに加盟していることがかえって不利に作用していることになる。この不合理を是正する観点から,米,英,加,豪,スウェーデン等より,非加盟非核兵器国への輸出に当たって,当該国がフルスコープ保障措置(FSSG)を受諾していることを同輸出の条件とすべきであるとの提案がなされた。
 本件問題は供給国たる西側先進国間,特に,米,加,豪等とNPT非加盟国への原子力輸出に積極的な西独,スイス,イタリア等との間で意見の対立が見られた。
③ なお,核軍縮については,NPT加盟非核兵器国の核不拡散努力に比べ,核兵器国の核軍縮努力が足りないとする非同盟諸国と,核軍縮に進展がみられたとし,あるいは核軍縮と安全保障の関係を十分考慮すべきであるとする核兵器国との間で核軍縮に関する評価が分かれた。


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