第2章 安全の確保,安全の実証及び環境保全のための調査研究等
1 原子力の安全研究

(2)環境放射能等の安全研究

① 放射能測定法に関する研究
 現在,都道府県衛生研究所等における放射能調査は,科学技術庁が放射線審議会の審議を経て制定した「全ベータ放射能測定法」や「放射性ストロンチウム分析法」等の分析測定マニュアルに従って実施されているが,分析対象核種の増加,分析測定法の進歩及び測定装置の改良等に伴い,分析測定マニュアルの改訂等が必要となる。
 このため,科学技術庁は,これら放射能分析測定法の作成を(財)日本分析センター及び(財)原子力安全研究協会に委託し,次表のように放射能分析測定法を逐次改訂し,あるいは新しく定めてきた。
② 環境放射能に関する安全研究
 原子力利用の本格化に伴い,国民の健康と安全を図るとの見地から,低線量放射線の人体への影響に関する研究及び原子力施設に起因する放射能による人体への被ばく線量の推定評価に関する研究は,ますます重要になってきている。

 低線量放射線の人体への影響に関する研究及び被ばく線量の推定評価に関する研究を含んだ環境放射能の安全研究について,各研究機関の間に有機的連携を保ちつつ,総合的体系的な観点に立ってこれを推進するため,昭和54年1月,原子力安全委員会に環境放射能安全研究専門部会が設置された。
 同専門部会は,環境及び影響のふたつの分科会を設け,環境放射能安全研究の計画的総合的推進方策等について検討を行ってきたが,昭和54年7月には昭和54年度及び昭和55年度の環境放射能安全研究年次計画を,昭和55年6月には昭和56年度から昭和60年度までの環境放射能安全研究年次計画を取りまとめた。
 環境放射能の安全に関する研究は,上記年次計画に沿って科学技術庁放射線医学総合研究所,日本原子力研究所を中心に,文部省国立遺伝学研究所等において実施されている。
 放射線医学総合研究所では,低線量及び低線量率被ばくの人体に対する放射線障害の危険度を推定する上で重要な晩発性の身体的影響及び遺伝的影響,並びに被ばく形式の特異性からみて特に内部被ばくの障害評価の3つの研究に着目し,特別研究に指定して研究を実施している。このための施設の整備として,内部被ばく実験棟の建設を昭和54年度から5年計画で着手した。更に,原子力施設等に起因する環境放射線被ばくに関する調査研究として,放射性物質の環境中における挙動,放射性物質の体内代謝,低レベル環境放射線モニタリング等に関する研究を実施している。
 国立遺伝学研究所では,遺伝子の損傷と再生,体内にとりこまれた放射性同位元素による誘発突然変異及び変異体の検出の効率化を図る研究及び低線量域における高等植物の突然変異と染色体の感受性に関する研究等を実施した。
 農業技術研究所放射線育種場においては,高等植物における突然変異及び染色体の感受性に関する研究を実施した。
 (財)原子力安全研究協会では,原子力平和利用委託研究により放射線発ガン誘発機構の解明及び放射線障害の検出技術の確立に関する研究等を実施した。
 日本原子力研究所では,放射性ヨウ素の環境における挙動,線量目標値に対する自然放射能の弁別測定法の開発,放射性廃棄物の大気中・海洋中への拡散に関する研究,被ばく線量評価コードの開発等を実施したほか,昭和55年度より緊急時の環境放射能予測システムに関する研究を開始した。
 また,これら安全研究の成果は,昭和54年12月原子力安全委員会環境放射能安全研究専門部会が主催して開いた環境放射能安全研究成果発表会で報告されており,被ばく線量評価研究の分野で16編,低線量影響研究の分野で18編の研究成果が発表された。


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