第2章 原子力研究開発利用の進展状況

8 原子力産業

 原子力産業は,原子力施設という巨大かつ複雑なシステムを対象にし,極めて高度かつ広範な技術分野によって成り立つ典型的な知識集約型システム産業であり,その発展は,幅広く産業に影響を及ぼすものであり,我が国産業全体の高度化にとって重要な意義を有するものである。
 しかし,原子力産業はその需要の大半を原子力発電所の発注に依存しており,その消長は原子力発電規模の拡大に直接左右されるものである。現在,我が国の原子力産業の原子力発電所の受注能力は,発電設備容量にして年間800〜900万kW程度といわれているが,過去において最も受注が多かった昭和44年でも約400万kWであり,昭和54年の新規受注は,わずかに110万kWに止まっている。このため受注が安定しないということもあって,事業収支は依然として不安定であり,原子力産業の経営基盤は脆弱な状態にある。
 一方,我が国の原子炉メーカーが主契約者となって建設した原子炉は,すでに11基744.9万kWにのぼっており,これまでに製造,建設等について相当の経験を蓄積してきた。このため,技術面においては,個々の機器の製造では今や欧米先進国の水準に比らべうるところまできている。
 また第一章3節で述べたとおり,近年進めてきた軽水炉の国産化,改良・標準化等の成果もあって,今後着工が予定されるものについては,原子炉プラント全体としてのシステム設計についても相当の能力を持つに至っているが,海外への技術依存から完全には脱しきれていないのが現状である。
 このような観点から,原子力産業界においては,自主技術により,更に原子炉技術の向上が図られるとともに,エンジニアリング技術の向上について一層取り組みが強化されつつあり,同時に核燃料サイクル技術についても取り組みが進められつつある。また,原子力産業界は,脆弱な経営基盤を乗り越え,将来のエネルギー供給産業の一翼を担うべく経営面での努力も進められている。これらの技術面及び経営面での不十分な点は,輸出という観点から見ると,我が国の原子力産業が現段階において必ずしも原子炉のプラント輸出を可能にするだけの核燃料サイクル全般にわたる総合的技術水準及び経営基盤の確立にまで至っていないことを示すものである。このため,今後,より積極的に技術開発を進めるとともに多くの経験を蓄積し,これまでのコンポーネントや部品等の輸出から,長期的には,我が国独自の力により原子炉のプラント輸出を行いうる技術基盤及び経営基盤の確立を目指し,一層の企業努力を続けることにより,将来の輸出産業として発展することが期待される。
 原子力産業界の動きにおいて注目すべき点としては,昭和53年2月に,ウラン濃縮遠心分離機の生産技術,量産化のための体制等を民間側において検討するためUCエンジニアリング事務所が設立され,また昭和55年3月には商業再処理工場の建設を担当するため,電気事業者を中心に関連100社の共同出資により日本原燃サービス(株)が,さらに同年4月には高速増殖炉に関し,原型炉の設計とエンジニアリングのとりまとめを民間側で共同で行うため,メーカー四社の共同出資により高速炉エンジニアリング(株)が設立されたことが指摘される。我が国の原子力産業は,これまで5つの原子力グループの競争関係の中で進められてきたが,最近のこのような動きは,一層巨大化し,長期的な取り組みが必要とされる原子力分野の新たな展開に対し,産業界が内部的な協調を促進することによって対処していこうとすることを表わすものであり,原子力産業界における体制整備の一つの動きとして注目される。


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