第2章 原子力研究開発利用の進展状況

5 原子力船の研究開発

 出力上昇試験の際に発生した,遮蔽の不備による放射線漏れのため開発が停滞している日本原子力船開発事業団(昭和55年11月29日からは,日本原子力船研究開発事業団)の原子力第1船「むつ」については,所要の修理,点検を行ったうえで,出力上昇試験等を実施することとして,昭和55年8月から,長崎県佐世保港において遮蔽改修工事が開始された。

 我が国における原子力船研究開発の今後の進め方については,第82回国会における同事業団法の一部改正法案の審議に際して,同事業団を研究開発機関に移行させるべき旨指摘された経緯を踏まえ,昭和54年2月に設置された原子力船研究開発専門部会において審議が進められてきた。原子力委員会は,昭和54年12月20日に提出された同専門部会報告に基づき,特殊法人の統廃合に関する政府の行政改革への要請を踏まえ,慎重に審議を重ねた結果,昭和54年12月27日に「日本原子力船開発事業団の統廃合問題について」,さらに昭和55年4月11日に「原子力船研究開発の進め方について」を決定した。
 原子力委員会はこの中で,21世紀に入る頃には欧米先進諸国において原子力商船の導入が相当進んでいる可能性があると予想されており,石油需給のひっ迫化が予想される将来において,海運に対するエネルギー供給面の制約を緩和する見地から,原子力船については我が国こそ,その実用化を図るべく研究開発を積極的に推進する必要があるとし,原子力船研究開発の必要性についての見解を明らかにするとともに,原子力船の研究開発を進めるに当たっては,実際の運航状態における舶用炉の挙動等原子力船を運航することによって得られるデータ,経験が不可欠であることを考えれば,早急に「むつ」の修理を終え,運航試験を実施することが今後の我が国の原子力船研究開発の第一歩であると指摘した。また今後の我が国の原子力船研究開発体制については,我が国としては「むつ」の開発に加えて,小型,軽量で,かつ,経済性,信頼性の優れた舶用炉の開発を中心とする研究開発についても,国が中心となって相当長期間をかけて取り組む必要があるとの見地から,同事業団にこのような研究開発の機能を付与するとともに,将来は同事業団を他の恒久的な原子力関係機関と統合し長期にわたって一貫した体制で原子力船の研究開発に取り組んでいくこととした。
 政府においては,このような考え方を踏まえて,昭和55年2月15日,同事業団が「むつ」の開発に加えて,原子力船の開発に必要な研究を行うことができるよう,日本原子力船開発事業団を日本原子力船研究開発事業団に改組するとともに,昭和59年度末までに同事業団を他の原子力関係機関と統合するものとする旨定めることを主な内容とする日本原子力船開発事業団法の一部改正法案を第91回国会に提出したが,本法案は衆議院の解散に伴い審議未了となったため,同趣旨の法案が再度第93回国会に提出され,昭和55年11月26日に成立し,同月29日施行された。
 なお,「むつ」に関して,現在最大の課題は定係港問題であり,昭和55年8月,科学技術庁から青森県の大湊港を「むつ」の定係港として使用することの可能性について,青森県の関係者に検討を依頼するなど,政府及び日本原子力船研究開発事業団において地元の理解と協力を得るための努力が続けられているが,すみやかにこの問題を解決することが望まれる。


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