2.原子力委員会の計画及び方針等

(5)CANDU炉導入問題について

(「原子炉開発の基本路線における中間炉について」(昭和54年8月10日原子力委員会決定)の補足説明)

(昭和54年10月12日)
 原子力委員会

 当委員会は,「原子炉開発の基本路線における中間炉について」の決定を昭和54年8月10日に行ったが,CANDU炉導入問題について更に詳細な見解を求める向きもあるので,当委員会の考え方についてより一層の理解を得るため,下記のとおり補足説明をとりまとめた。


1.エネルギー・セキュリティとの関係について
(1)原子力の開発利用は,広範多岐にわたる分野で膨大な技術開発を要し,しかも長いリードタイムを必要とすることから長期的観点に立ち,計画的に一貫した考え方に基づき,その推進が図られなければならないという特質を有している。
 したがって,エネルギー政策の策定にあたっては,このような原子力の開発利用の特質が十分考慮される必要がある。
(2)エネルギー資源に乏しい我が国への供給源の多角化,多様化を図り,エネルギー・セキュリティを確立する必要があることは論を俟たないところであり,原子力の分野においてもかねてからウラン資源についてはその多角的確保に努めてきている。
 しかしながら,このような多角化,多様化の考え方を原子炉の炉型の選択まで及ぼすことについては慎重でなければならない。軽水炉の経験が示すようにひとつの炉型でもその定着化までに多くの人材と資金を要し,長年月かかることに加え,ウラン濃縮,使用済燃料の再処理,放射性廃棄物の処理処分を含む核燃料サイクルの整備も必要となるなどの問題があり,炉型の多様化即エネルギー ・セキュリティの向上と安易に考えるべきではない。
(3)なお,CANDU炉の導入は米国への依存を緩和するとはいえ,海外依存の点では変わりないことに留意すべきであろう。
(3)今田我が国のエネルギー・セキュリティの向上のため,原子力分野において推進されなければならない重要方策は,高速増殖炉及び新型転換炉の自主開発などを進め,軽水炉などの使用済燃料から得られるプルトニウムを有効利用し,ウラン資源の節約を図ることであり,また,今後,相当の期間にわたり原子力発電の主流を占める軽水炉の一層の技術向上を図るとともに,現在海外に依存しているウラン濃縮や再処理について我が国自らも処理できる体制を築き上げることである。
 現在,ウラン濃縮や再処理の国内処理体制の確立について,我が国としてはINFCE(国際核燃料サイクル評価)などの場において関係国の理解を求めているところであり,国内における関連の技術開発の進展などと相まって,その体制の確立のための条件は整いつつあると認識しており,今後,国の総力を挙げてその実現を図っていかなければならないと考える。
(4)CANDU炉についていえば,軽水炉の発電規模がすでに我が国の全発電規模の10%を越え,仮に今からCANDU炉の導入を図ったとしても,今後相当の期間にわたり原子力発電の主流は軽水炉であること,ウラン濃縮,再処理及び新型転換炉の技術開発も着実に進められていることなどに鑑み,CANDU炉の利点を積極的に活用しなければならない事態は,現時点においては予測されないと判断している。

2.日加関係について
(1)当委員会としても,重要資源の供給国たるカナダとの緊密な関係の維持増進の重要性については十分に認識しており,国の各般にわたる政策を通じ友好関係の増進が図られるべきであると考える。
(2)しかしながら,カナダとの資源外交等の配慮からCANDU炉の導入を考えるべきであるとする意見については,原子炉の炉型戦略は,原子力開発利用政策の根幹として,長期的かつ計画的観点から決定されるべきであり,資源外交等の考慮により大きく左右されるようなことがあってはならないと考える。
(3)なお,CANDU炉に関し,現在以上に詳細な評価を進めるためには,カナダの格別の協力が必要となるが,これに見合った将来展望をもつことなしに,これ以上の協力を求めることは,日加関係にとりかえって好ましくないと判断した。

3.技術的問題について

(1)CANDU炉の改造・定着化問題
CANDU炉の改造に関して事故評価,耐震設計などについて設置者及び国の両者にとって相当程度の研究課題が生ずるものと考えられ,さらに将来,国内にその技術を定着させていく過程においては,CANDU炉よりはるかに運転実績の多い軽水炉の状況からみても新たな研究課題が生ずるものと予想され,CANDU炉の改造・定着化に伴う負担は過少評価されるべきではないと考える。
(2)CANDU炉の経済性
CANDU炉の経済性については,カナダにおいては,軽水炉と競合できるとの評価もあるが,我が国においては,日本向けの改造に伴う建設費の増加及び環境,風土の違いによる影響のほかに使用済燃料を再処理する場合の核燃料サイクル費への影響をも考慮する必要があり,今のところ,軽水炉と競合できる見通しは得られていないと考える。
なお,CANDU炉の使用済燃料の再処理の経済的負担は,プルトニウム生成量が軽水炉の約2倍であるなどのメリットを考慮しても軽水炉より大きいと考える。
(3)資金及び人材問題
先に述べたとおり,炉の改造及びその定着化のために相当程度の研究課題が生ずるものと予想され,これに加えて再処理から放射性廃棄物の処理処分までの体系をも考慮すれば,相当の規模の資金量と人材を必要とすることは軽水炉の経験に徴しても十分に予測されるところであり,軽水炉の定着化,新型動力炉の開発,ウラン濃縮,再処理をはじめとする核燃料サイクルの確立など今後早急に解決すべき優先度の高い課題に対して国として重点的に取り組むべきであると判断した。
(4)CANDU炉の試験的導入
当面1,2基試験的に導入するという考え方もあるが,当委員会としては,長期的展望からみてその炉型の選択が意義づけられることがまず必要であると考えており,また,1,2基の導入といえども軽水炉と異なる新しい技術的問題を伴うものであり,安全規制上の負担をはじめ,一企業のみの責任で片づけられない問題が少なくなく,こうした点を過少評価することは適切でないと判断した。
 〔参考〕原子力委員会における新型転換炉及びCANDU炉に関する審議の経緯

(従来の経緯)
 動力炉開発は,従来から我が国の原子力開発の中で最も重要な課題である。
(1)原子力委員会は,昭和39年動力炉開発懇談会を設置し,CANDU炉を含め在来型導入炉から高速増殖炉に至る各種動力炉の開発の進め方について検討した。この検討の結果,当時,既に米国において実用化されていた軽水炉は技術導入によって産業界で開発することとするが,適切な動力炉を自主的に開発することは,エネルギー政策における重要課題であるとともに産業基盤の強化と科学技術水準の向上に大きく寄与するものとされ,高速増殖炉,新型転換炉の2つの炉型を選択し,国会,政府,産業界の総意により,これを国のプロジェクトとして開発することが決定され,動力炉・核燃料開発事業団を発足させ,官民協力してことを一元的に推進することとされた。
(2)昭和50年から昭和51年にかけてプロジェクトが進行したこと等に伴い,その評価のため原子力委員会に専門部会が設置され,新型動力炉開発の進め方が検討された。この検討においては,軽水炉から高速増殖炉への移行を我が国原子力発電開発の基本路線とすることを確認するとともに,次の点が指摘された。
  i)新型転換炉については,高速増殖炉の実用化の進展状況によっては,特に重要な意義を有すると考えられるので,原型炉の運転及び技術の蓄積を図るとともに,実証炉の概念設計及びこれに必要な研究開発を進める。
 ii)CANDU炉については,我が国としても関心があるが,安全性等導入に当たつてなお我が国として研究開発を要する面も多く,その進展を考慮しつつ新型転換炉の開発との関連性をも含め検討する必要がある。
(3)その後ほぼ2年を経過し,核燃料サイクルをめぐる国際環境の変化,新型転換炉に関する研究開発及びCANDU炉に関する調査の進展等が見られたので,原子力委員会は,新型動力炉開発懇談会を昭和53年4月に設置し,高速増殖炉の本格的実用化時期までの過程における新型動力炉として,現在我が国が自主開発中の新型転換炉と昭和51年の専門部会で論ぜられたCANDU炉を取り上げ原子力委員会の審議に資するため,両炉の核燃料サイクル上の評価,技術的問題及び経済性の見通しなどについて検討することとした。
 なお,懇談会は,電源開発(株),動力炉・核燃料開発事業団を含め,通商産業省,科学技術庁,電力業界,関連メーカー等広く関係各界の専門家をもって構成している。

(新型動力炉開発懇談会における審議)
 懇談会においては,両炉の核燃料サイクル上の評価,両炉の技術的,経済的評価,炉型多様化に伴う問題点等を検討することとした。詳細な検討は,総括,技術検討の二つのワーキンググループを設けて行い,その検討結果を基に,懇談会において審議を重ね本年3月に懇談会報告書をとりまとめた。

(原子力委員会における審議)
 原子力委員会においては,懇談会座長から詳細に報告を受けた後,原子力委員会としても,独自に関係行政機関(質源エネルギー庁,外務省及び科学技術庁),電気事業連合会,ならびに電源開発(株)及び動力炉・核燃料開発事業団の代表者から意見を聞くとともに,経済団体連合会会長及び歴代原子力委員長代理からも意見を聴取した。
 このように,原子力委員会の審議においては賛否両論をカバーする幅広い意見を基に慎重に審議し,本年8月10日,原子力委員会決定を行った。


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