第8章 核融合,原子力船及び高温ガス炉の研究開発
(参考)諸外国の動向

(1)核融合

 核融合の研究開発における世界のすう勢は,昭和40年頃から新しい局面を迎え,特にトカマク型を中心とする低又は中間ベータ値トーラス系装置は,今後プラズマ加熱法の技術開発やベータ値を高めるなどの改良・発展により,臨界プラズマ達成の見通しを立て得る段階に達している。
 米国,ソ連,フランス等における数多くの中規模トカマク型装置によって得られたこれまでの研究成果に基づき,トカマク型装置によって臨界プラズマを実現し得るとの見通しが一般的となった。
 このような判断にたち,米国,ソ連及びユーラトムにおいて次の段階の大型のトカマク型装置の計画又は建設が進められている。
 これらのうち,臨界プラズマ条件をやや下回る条件を目標とした規模のものとしてソ連のT-10が昭和50年7月に,米国のPLTが昭和50年11月に,また,ダブレット-IIIが昭和53年2月に稼働した。これらの装置により臨界プラズマ条件達成のための有力な資料が得られるものと期待されている。
 臨界プラズマ条件の達成を目途とする計画としては,米国のTFTR,ユーラトムのJET,ソ連のT-10Mなどがあり,現在製作が行われている。
 これらは,臨界プラズマ条件の実証を目的とするばかりでなく,更に進んで実際にD-T反応による燃焼のための大型トカマク装置であり,装置完成時期はTFTRが昭和56年,JETが昭和58年を予定している。T-10Mは,超電導コイルを用いる大型の装置であり,完成は昭和57年頃と予想される。
 世界のすう勢から判断すると,当面の目標である臨界プラズマ条件を最も早く達成する可能性のあるものはトカマク型装置であって,世界の核融合研究開発の主流となっており,これらに次いで非軸対称型高ベータ・プラズマ装置の研究開発が並行して進められている。これらの磁場閉込め核融合とは別に,慣性閉込め(レーザー)核融合がようやく物理学的諸問題を検討できる実験段階に到達してきたとみられる。

(2)原子力船

 現時点における諸外国の原子力商船の開発状況は,以下のとおりである。

①  ソ 連
ソ連は,原子力砕氷船レーニン号を昭和34年に完成した。レーニン号は北極海を航海し,多くの船舶を誘導してきたが,その後,原子炉の改造を行い,昭和45年から再び航海に入っている。これに次いで原子力砕氷船アルクチカ号が,昭和49年に完成し,昭和52年8月17日,北極点到達を成し遂げた。更に,原子力砕氷船シビリー号を昭和52年末完成し,昭和53年から北極海において就航している。
②米 国
米国は,原子力貨物船サバンナ号を昭和37年に完成した。サバンナ号は,8年間に約50万海里にわたる試験航海,商業航海に就航し,この間米国国内32港に入港したのみでなく,海外の26カ国45港を訪問した。
その後,サバンナ号はその目的を果たしたとして,昭和45年,核燃料を取り出した後係船されている。
③西ドイツ
西ドイツは,原子力鉱石運搬船オット・ハーン号を昭和43年に完成した。オット・ハーン号は,昭和45年から商業航海を開始し,また,昭和47年には第二次改良炉心を装荷している。オット・ハーン号は,昭和54年2月に運航が停止されるまでに約60万海里を航海し,22カ国33港を訪問した。
④その他
フランスは原子力艦船の建造を優先させていたが,最近原子力商船用の舶用炉についても積極的な開発を進めている。又,カナダでは,沿岸警備隊が原子力砕氷船の建造を計画しており,現在設計が進められている。

(3)多目的高温ガス炉

 現在,世界では高温ガス炉の開発に積極的に取り組んでいる国は西ドイツ及び米国で,この2国と密接な協力のもとにフランス,スイス,オーストリア等が研究開発を行っている。又,ソ連の開発状況も注目する必要がある。
 西ドイツは,実験炉AVRの経験を基に,高温ガス炉による核熱のプロセス利用と発電の二大目標を達成すべく着実に研究開発を進めている。核熱のプロセス利用については,西ドイツ内で大量に採掘される石炭と褐炭のガス化を計るべく原型炉RNP-500の建設を1980年代半ば着工を目途に総合的な研究開発を進めている。又,発電については,現在蒸気タービン発電用の原型炉THTR-300が1980年代前半の完成を目標に建設中である。更に,直接サイクルヘリウムガスタービン発電を目的としたHHT計画を進めており,1980年代半ばには電気出力60万キロワットの原型炉HTR-kW-600の着工が予定されている。
 これらの計画を推進するため,体制の整備も着実に進んでおり,原子炉系については炉設計,計画,建設のためのコンソーシアムが昭和53年に設立された。利用系については,ガスタービン発電と核熱利用のためコンソーシアムがそれぞれ設立されようとしている。これらに関する研究開発はユーリッヒ原子力研究所が中心となって進めてきたが,これにメーカーも加わった組織が設立されようとしている。西ドイツは国際協力も積極的に行い,研究技術省(BMFT)が米国エネルギー省(DOE)とガス冷却炉全般にわたる協力協定(通称Umbrella Agreement)を昭和52年2月に締結した。更に我が国との協力についても積極的な姿勢を示している。
 米国では,当初GE社が中心となり蒸気タービン発電用高温ガス炉の開発を進め実験炉ピーチボトム炉,さらにそれに続くフォートセントプレイン炉の建設を行ってきたが,最近の米国の高温ガス炉開発戦略では当面の目標を直接サイクル発電炉の実用化に絞り,そこで開発された技術を非電力利用に生かしていく方針をとっている。昭和54年3月USスチール等製鉄会社,ガス会社等が中心となって高温ガス炉の核熱利用系の開発に関するユーザースグループが結成され,大型炉の建設計画の検討に着手した。
 ソ連は,核熱プロセス利用とウラン-プルトニウムサイクルによるガス冷却高速増殖炉を開発の主目標とし実験炉WGR-50の設計を開始している。
 プロセス利用に関しては臨界実験装置による実験結果を基に,水を熱化学・電気並用で分解する水素の製造とアンモニアの生産が考えられている。


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