第8章 核融合,原子力船及び高温ガス炉の研究開発
2.原子力船

(1)原子力第1船「むつ」の開発

① 原子力第1船「むつ」の開発
原子力船は,少量の核燃料で長期間にわたって運航でき,高出力になる程経済性が良くなるなどの特長を有するため,その実用化が期待されており,我が国においても,昭和38年に日本原子力船開発事業団を設立し,原子力委員会が決定した「原子力第1船開発基本計画」(昭和38年7月決定,昭和42年3月,昭和46年5月及び昭和53年3月改訂)に従って,原子力第1船「むつ」の開発を進めてきたが,昭和49年9月,「むつ」の出力上昇試験の際生じた放射線漏れのため,その開発は一時停滞の止むなきに至った。
② 原子力第1船「むつ」開発の見直し
政府は,このような事態に対処するため,総理府において「むつ」放射線漏れ問題調査委員会(昭和49年10月29日閣議決定)を開催し,専門的な調査検討を求めたが,同調査委員会においては,「むつ」は全体としてはかなりの水準に達しており,適切な改善によって十分所期の技術開発の目的に適合し得るものであるとの結論がなされた。
原子力委員会においても,原子力船開発の今後のあり方,それを踏まえての原子力第1船の開発計画,日本原子力船開発事業団のあり方等について検討を行うため,昭和50年3月18日に「原子力船懇談会」を設置した。
同年9月11日,同懇談会は,「むつ」は適切な改修を施すことによつて所期の目的を達成させることが可能であり,したがって当面「むつ」を改修し,開発の軌道に乗せ,国産技術による原子力船建造の貴重な経験を積むことに関係者は最大の努力を傾注すべきであること,更に,将来の実用化に備えるために「むつ」の開発と並行して改良舶用炉,関連機器の開発等舶用炉プラントとしての広範囲な研究開発等を進める必要があること等の報告書を取りまとめた。
これを受けて原子力委員会は,昭和50年9月23日,我が国としては,エネルギー政策のみならず,造船・海運政策の観点からも原子力船開発を今後も積極的に推進し,世界の大勢に遅れることのないよう配慮すべきであるとの観点から「むつ」の開発を積極的に推進する旨決定した。
政府は,これらの委員会等の意見を踏まえ,昭和50年12月12日原子力船関係閣僚懇談会において「むつ」の開発を継続すべきことを決定した。
③ 「むつ」の遮へい改修及び安全性総点検
以上のような経緯を経て,政府は,「むつ」については,遮へい改修及び安全性総点検を行ったうえで引き続きその開発を進めることとし,そのため,昭和51年2月,佐世保港を修理港とすることについて長崎県及び佐世保市に対し協力方要請した。これに対し,昭和53年7月18日,県及び市から受入れの回答が得られ,同月21日,科学技術庁,日本原子力船開発事業団,長崎県,佐世保市及び長崎県漁連の間で「原子力船「むつ」の佐世保港における修理に関する合意協定書」が締結された。
これにより,「むつ」は同年10月,青森県むつ市の大湊港から佐世保港に回航され,同港において約3年間の予定で修理・点検が行われることとなった。日本原子力船開発事業団は,「むつ」の佐世保港入港後,昭和54年1月,原子炉機器の点検を開始し,同年7月には「むつ」を入渠させて船底の点検等を行った。現在,「むつ」は,同港について遮へい改修のための準備が進められているところであり,また昭和54年11月には,遮へい改修の実施に必要な原子炉の設置変更が許可された。
④ 新定係港の選定
「むつ」の定係港については,昭和49年の放射線漏れの際,政府が青森県,むつ市及び青森県漁連との間で締結した「原子力船「むつ」の定係港入港及び定係港の撤去に関する合意協定書」に基づき,現定係港(青森県むつ市の大湊港)を撤去することとなっており,新たに定係港を選定する必要がある。新定係港の選定については,現在,日本原子力船開発事業団において調査作業を進めているところである。
⑤ 日本原子力船開発事業団の研究開発機関への移行
前述のように政府は昭和50年12月,原子力船関係閣僚懇談会において「むつ」開発を継続すべきことを決定したが,従来の日本原子力船開発事業団法は,同法の附則により昭和51年3月31日までに廃止するものとされていたので,政府は,我が国の原子力船開発を推進するためには,同法の廃止するものとされる期限を10年間廷長する必要があるとして,そのための改正法案を昭和51年1月,国会に提出した。この法案は同年11月審議未了廃案となったため,昭和52年2月,政府は,あらためて同事業団法の廃止するものとされる期限を昭和62年3月31日まで11年間延長する改正法案を国会に提出した。この法案は,昭和52年11月に至って,廃止するものとされる期限を昭和55年11月30日までとするよう修正された上,可決,成立した。この修正の趣旨は,日本原子力船開発事業団が原子力船についての研究開発機関に移行するため必要な措置として,同法の廃止するものとされる期限を4年8ケ月間延長するというものである。
日本原子力船開発事業団の研究開発機関への移行については,国会における同法案の審議経緯及び修正の趣旨を体し,研究開発機関の研究業務の内容,組織体制,他の機関との関係等につき政府部内において鋭意検討が進められている。
また,原子力委員会においても,昭和54年2月,関係方面の専門家等からなる原子力船研究開発専門部会を設置し,目下,同専門部会において原子力船研究開発の課題,研究開発体制のあり方等につき検討を進めている。

(2)原子力船の研究開発

 原子力船に関する研究は,我が国では運輸省船舶技術研究所等において積極的に行われているが,昭和53年度は,運輸省船舶技術研究所において,昭和52年度に引き続き,一体型舶用炉機器の性能の研究,一体型舶用炉の一次遮蔽に関する研究等を実施し,また,原子力平和利用研究委託費により(社)日本造船研究協会に委託して原子力船の耐衝突構造の評価に関する試験研究を実施した。
 なお,原子力委員会は,昭和53年9月,原子力研究開発利用長期計画を改訂し,原子力第1船「むつ」の開発と並行して,基礎研究,設計研究等原子力船開発のための基盤を固めるために必要な研究を継続するとともに,安全性,信頼性のより一層の向上に配慮しつつ,改良舶用炉,関連機器等の舶用炉プランを中心とする広範囲な研究開発,原子力船についての経済性の解明等を進めることとし,このための十分な研究開発体制の整備を図ることとしている。
 更に,原子力委員会は,昭和54年2月,関係方面の専門家等からなる原子力船研究開発専門部会を設置し,目下,同専門部会において原子力船研究開発の課題,研究開発体制のあり方等につき検討を進めているところである。


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