第6章 保障措置及び核物質防護
5.核物質防護

 「核物質防護」 (フィジカル・プロテクション)とは,核物質の盗難等による不法な移転に対する防護及び原子力施設又は核物質の輸送に対する妨害破壊行為に対する防護をいう。
 核物質防護については,原子力の開発利用の進展に伴う核物質取扱い量の急速な増大,組織的な暴力集団による不法行為に対する不安の増大,初歩的な核爆発装置の製造に関する知織の一般への流布等を背景に,最近,これをめぐる動きは急速に活発化してきている。
 特に,近時,原子力資材の輸出国が,輸入国に対し,当該原子力資材について一定の核物質防護上の措置を講ずることを輸出の条件として求めてきている点が注目される。
 このような情報に適切に対処し,我が国の国情に沿った核物質防護制度を確立するため昭和51年4月,原子力委員会の下に「核物質防護専門部会」を設置し,調査審議を進め,昭和52年9月,第1次報告書をとりまとめた。同部会は引き続き緊急時における対応体制の整備,関連研究開発の推進等につきワーキング・グループを設け更に詳細な検討を行っているところである。
 原子力委員会としては,我が国の主要な原子力施設の核物質防護状況は,国際的水準をみたしていると考えられるが,今後の国際的動向も踏まえ,法制面での所要の整備を進め,実施すべき核物質防護措置の内容を明確にするとともに,対応体制を確立する等今後一層の努力を払う必要があると考える。
 一方,昭和52年以来,国際原子力機関の主催により核物質防護に関する国際条約についての政府間会議が数次にわたって開催され,我が国もこれに積極的に参加してきたが,昭和54年10月の第4回会合においてその条約テキストが採択された。
 同条約は,その範囲・対象を軍事目的以外の全ての核物質施設及び輸送とし,
① 国際輸送中の核物質に一定の防護措置を講ずること。
② 核物質に関する犯罪の発生に対応するための国際協力,情報交換,司法共助。
③ 核物質に関する犯罪処罰の義務化及び犯罪人引渡しの促進。
 等を骨子としており,昭和55年3月3日から署名のため開放され,21カ国の批准等によって発効することになっている。
 また,核物質防護に関する研究開発は,世界的に急速に多くの努力が払われつつある状況にあり,我が国としても効果的な核物質防護体制を整備していくためには,関係研究開発を強力に推進していく必要がある。
 昭和53年度においては,原子力平和利用委託費により「核燃料の陸上輸送における警備用車両の性能についての試験研究」等を実施したほか,動力炉・核燃料開発事業団等において関係研究開発を実施した。


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