第5章 国際関係活動
4.研究開発に関する国際協力等

我が国による原子力の平和利用を推進するための国際的な研究開発協力は,最近,飛躍的に発展している。これは我が国の研究開発水準が著しく向上していることと,近年,研究開発プロジェクトが巨大な規模になったために, 一国で行うには負担が過大となるために国際協力による各国分担をめざす動きが顕著だからである。
 我が国としては,自主的研究開発の推進の基盤の上に,効率的な研究開発を進めるために,積極的に国際協力を行うこととしている。
 以下に,現在までの主要な動きを示す。

(1)二国間協力

①日米原子力安全研究協力
 昭和48年に,軽水炉に関して,科学技術庁原子力局と当時の米国原子力委員会〔現在は,原子力規制委員会(NRC)で始められた本協力は,順調に進展し,この成果を受けて,昭和52年7月に協力分野が高温ガス炉に拡大され,更に昭和52年7月には,高速増殖炉をも対象範囲に含めることとなった。
 この協力の特色は,従来の単なる情報交換にとどまらず日米双方が互いの研究開発計画を密接に調整し合い,効率的な研究開発の推進を目指しているところにある。
 また,本協力の一環として,日本原子力研究所と米国原子力規制委員会との間で,昭和51年2月にLOFT計画協力協定,同年3月にNSRR計画/PBF計画協力協定が締結され,これに基づき,米国LOFT計画(冷却材喪失事故条件での核熱水力学的及び構造的現象に関する総合試験),PBF計画(出力・冷却材流量不整合,冷却材喪失事故,反応度事故その他の条件の下での燃料破損に関する実験)には我が国から常駐研究員が派遣されており,我が国NSRR計画(反応度事故条件の下での燃料破損に関する実験)には,米国研究員が東海村に長期派遣され,研究に参加した。更にこれらの協力計画に関しては,その実施計画の検討に互いに代表を参加させており,その場で実質的な調整が行われている。
 一方,昭和54年4月 TMI事故の教訓を踏まえて園田外務大臣がシュレシンジャー米国エネルギー長官に対し原子炉の安全性に関する日米共同研究の実施を提唱したが,昭和54年5月の大平総理大臣とカーター大統領との会談において同提案に対する両者の意見が一致し,原子炉の安全性に関する日米共同研究を拡大することで合意が成立した。更に,昭和54年6月,東京サミット期間中に行われた大平・カーター会談において,安全性に関する共同研究の可能性について検討する事務レベル専門家会合を開催することとなり,その後の日米間の協議の結果,専門家会合が,昭和54年11月にワシントンで開催された。

②日米高速炉協力
 高速増殖炉に関する日米協力は昭和44年3月に,動力炉・核燃料開発事業団と当時の米国原子力委員会(現在,エネルギー省)との間で協力協定が締結されて以来,順調に進められてきた。さらに,昭和54年3月の協定期限が近づくとともに日米両国の高速増殖炉開発が進展したことから,協力分野の拡大,協力方法の緊密化等が日米間で合意され,昭和54年1月これらの内容を盛り込んだ新しい協力協定が締結された。

③日米規制情報交換協力
 両国における規制の体系,その考え方及び経験について,詳細かつ迅速な情報交換を行うために,昭和49年度に始められた本協力は,科学技術庁原子力安全局,資源エネルギー庁と米国原子力規制委員会との間で進められている。特に,昭和54年3月末に発生した米国スリー・マイル・アイランド原子力発電所事故に関しては,重要な情報が本協力に基づき米側より迅速に送付されてきている。

④日米核融合協力
 日米核融合協力は,昭和52年9月,当時の宇野科学技術庁長官とシュレシンジャーエネルギー長官との会談で合意され,事務レベルにおいて協力方策に関し協議された。
 その後,昭和53年5月の日米首脳会談における福田前総理の再提唱を経て,同構想を具体化するための作業部会が昭和53年9月及び11月に東京及びワシントンでそれぞれ開催された。同作業部会で,核融合をはじめ,各プロジェクト毎に,分科会が設けられ,協力テーマ,協力方法等について意見交換が行われた。
 これらの協議の結果を踏まえ,昭和54年5月2日「エネルギー及びこれに関連する分野における研究開発のための協力に関する日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の協定」が締結された。この協定と昭和54年8月24日の日米政府間の交換公文による合意に基づき,昭和54年8月28日,日本原子力研究所と米国エネルギー省との間でダブレットIIIプロジェクト研究協力協定が締結され,米国カリフォルニア州にあるトカマク型装置であるダブレットIII試験装置を用いたD型断面を有するトカマク・プラズマの試験に関する協力が開始された。
 更に,昭和54年8月24日の日米政府間の交換公文により上記政府間協定に基づいて行われる核融合分野全体の協力内容について検討を行う日米核融合調整委員会の設置が合意された。

⑤日独原子力安全研究協力
 昭和49年10月に締結された日独科学技術協力協定に基づいて,軽水炉安全研究について,両国の協力が進められている。昭和50年4月以来,両国コーディネーター (科学技術庁原子力局技術振興課長及び西ドイツ研究技術省軽水炉技術課長)間で,協力の具体的態様の検討のために,第1回(50年4月,ボン),第2回(51年3月,東京)のコーディネーター会合を開催する等により協議が続けられた結果,合意が得られ,第2回日独科学技術協力合同委員会(51年6月,ボン)での了承を受けて,同年7月から協力が開始された。現在,情報交換を主体とした協力が日本原子力研究所と西ドイツカールスルーエ研究協会との間において行われている。
 また,昭和52年6月に東京で開催された第3回コーディネーター会合において,西ドイツ側からPNS計画(カールスルーエ原子力センター:出力・冷却材流量不整合及び冷却材喪失事故条件の下での燃料挙動に関する研究)とNSRR計画(日本原子力研究所)との間の研究協力が提案され,現在協力協定の締結について協議中である。

⑥日独高温ガス炉協力
 前述第2回合同委員会において,日独科学技術協力の新分野として高温ガス炉を加えることを我が国から提案し,これに応えて西ドイツ側から現状調査のための調査団が日本に派遣された。
 この結果,協力の具体的内容について,日本原子力研究所とユーリッヒ研究所との間で詳細につめることとした。両機関による協議の結果,両国での協力が有意義であるとの結論に達し,昭和52年4月に開催された第3回合同委員会において,「高温ガス炉パネル」の設置が合意され,双方の連絡者として,科学技術庁原子力局技術振興課長及び西ドイツ研究技術省新型炉開発課長が指名されて,協力の具体化が進められることとなった。
 第1回「高温ガス炉パネル」は,昭和52年6月に西ドイツユーリッヒ研究所で開催され,そこでの合意を受け,昭和52年10月に日本原子力研究所と西ドイツユーリッヒ研究所との間において,「研究協力覚書」が締結され,情報交換を主体とした協力が開始された。
 更に,より密接な協力を行うために昭和54年2月「研究開発協力協定」が両者間で締結された。

⑦日仏規制情報交換協力及び安全研究協力
 昭和51年4月に来日したドルナノフランス産業研究大臣と佐々木科学技術庁長官との間の大臣会議で,原子炉規制,軽水炉安全研究での両国協力について積極的に検討することが合意された。これを受けて,規制に係る協力に関しては,昭和54年3月,科学技術庁原子力安全局及び通商産業省資源エネルギー庁とフランス産業省原子力施設安全本部との間で,情報交換を内容とする協力の実施が合意された。また,安全研究に係る協力についても同月,科学技術庁原子力局とフランス原子力庁との間で協力の形態,分野等が合意され,現在,日本原子力研究所とフランス原子力安全研究所との間で協力の実施細目について協議を行っている。

⑧日仏放射線化学協力
 昭和44年以来,日本原子力研究所と,フランス原子力庁との間で,放射線化学の分野での協力が順調に続けられており,昭和51年4月には,協力対象の拡大が合意された。

⑨日英高速炉協力
 高速増殖炉分野での協力は,昭和46年以来,日本原子力研究所と動力炉・核燃料開発事業団及び英国原子力公社との間で続けられており,昭和50年には原型炉又は大型高速炉を新たに協力対象として,5年間の延長がなされたが,その後更に,我が国における高速増殖炉開発の進展を反映して昭和51年7月,本協定の技術範囲に原子力プラントを入れる等の拡大が行われた。

⑩日ソ原子力協力
 我が国とソビエト連邦との原子力分野の協力は,政府間のものは,昭和48年に締結された日ソ科学技術協力協定の枠内で行うこととしており,第1回協力委員会が昭和53年1月東京において開催され,本協力が合意された。
 本合意を受け,昭和53年7月及び昭和54年3月,それぞれモスクワ及び東京において暫定専門家会議が開催され,核融合,高速増殖炉に関する昭和54~55年度の協力計画案が作成された。
 さらに昭和54年9月,モスクワにおいて第2回協力委員会が開催され,本協力計画が確定された。(ただし,昭和55年度協力計画の確定は,日本側により,同年度予算の国会承認後に正式に確認される。)なお,この第2回協力委員会の開催に先立つて,高速増殖炉に関するセミナーが,前記協力計画案に基づいて昭和54年7月モスクワにおいて開催された。
 他方,民間による交流の一環として,昭和52年11月18日に日本原子力産業会議とソ連原子力利用国家委員会との間で相互交流を中心とした民間協定が締結されている。

⑪日加重水炉協力
 重水炉に関する協力については,動力炉・核燃料開発事業団とカナダ原子力公社との間において情報交換を主体とした協力が,昭和46年9月から順調に進められている。

⑫日豪ウラン濃縮共同研究
 オーストラリアにおけるウラン資源の開発と濃縮についての基礎的な分析に関して,オーストラリアとの間で共同研究が行われた。

(2)多国間協力

①安全研究に関する協力
 日米原子力安全研究協力協定及び日独科学技術協力協定の下における協力として各々基本的に合意されていた大型再冠水試験計画は,日本,米国及び西ドイツの3国間プロジェクトとして行われることになった。このため,昭和53年5月には,東京において専門家会合が開催され,協力内容,協力方法等について協議が行われた。この3国間プロジェクトの協力協定については,昭和54年6月,仮署名を行い,近く正式に署名が行われる見込みである。
 また,日本原子力研究所は,スウェーデンのストウドビク研究所材料試験炉R2を使用して,軽水炉標準燃料の破損に関する研究を行う「インターランプ計画」(沸とう水型炉(BWR)標準燃料対象)及び「オーバーランプ計画」(加圧水型炉(PWR)標準燃料対象)を通じ,各種の試験を行った。なお,インターランプ計画は昭和53年12月をもって終了した。

②高速増殖炉に関する協力
 動力炉・核燃料開発事業団は,西ドイツカールスルーエ研究協会(KfK)/インタアトムとの間において,昭和46年以来高速増殖炉に関する基礎的研究開発分野での協力を実施してきたが,一方,KfK/インタアトムは,昭和52年7月仏国原子力庁(CEA)と高速増殖炉協力協定を締結した。前述の関係により,日独協力に,フランスが参加することになり,昭和53年6月21日,東京において日独仏高速増殖炉協力協定の調印が行われた。

③開発途上国に対する協力
 我が国は,昭和53年8月25日,  「原子力科学技術に関する研究,開発及び訓練のための地域協力協定(RCA)」に加盟した。
 同協定は,昭和46年に発効し,アジア,太平洋,極東地域の国際原子力機関加盟国間の原子力科学技術,特に放射線,アイソトープの利用に関する研究,開発及び訓練の推進,協力を目的とするものであり,既に12カ国が加盟している。昭和54年10月15日から19日まで,RCA加盟10カ国及び国際原子力機関の参加を得て我が国において開催された第1回RCA加盟国政府専門家会合では,従来のRCA活動全般の再検討,今後の協力関係のあり方及び「研究・訓練のためのアジア地域センター」設立構想等について討議が行われた。
 一方,政府専門家会合とは別に,本協定に基づく協力の一環として,我が国は,国際協力事業団(JICA)を活用して,昭和54年10月に日本原子力研究所及び国内の食品照射関連機関を中心にして,約1か月にわたるワークショップ(国際研修会)を開催した。

(3)国際機関との研究開発協力

 我が国は国際原子力機関,経済協力開発機構等の主要メンバー国として国際協力を活発に進めている。

①国際原子力機関(IAEA)
 独自な憲章をもち,国際連合と密接な関係にある国際原子力機関(110カ国加盟)は,全世界を通じ,原子力の平和利用を育て,奨励し,指針・助言を与えるとともに,保障措置を実施している。
 我が国は,同機関の主催する原子力利用に関する各種シンポジウム,専門家会合等に多数の専門家が参加し,情報の収集と交換を行う一方,特に「原子力発電の安全性に関する国際的基準作成の為の諮問委員会(SAG)」には,その下部機関である技術検討委員会(TRC)も含め専門家を派遣し同機関の行う基準策定作業に積極的に貢献している。
 なお,昭和54年3月の米国における原子力発電所の事故の教訓を踏まえて,6月の東京サミットにおいては安全性に関する国際協力をIAEAを中心として強化すべきことが合意され,IAEAとしてもこの分野の事業の強化を図るべく,種々の努力を行っている。

②経済協力開発機構原子力機関(OECD-NEA)
 同原子力機関においては,従来のとおり「原子力安全」,「放射性廃棄物管理」,「原子力の開発と核燃料サイクルの経済的,技術的検討」,「公衆の放射線防護」の四大重点分野を中心に諸活動が進められた。
 また,昭和54年は特に,米国の原子力発電所事故を踏まえた安全面での協力関係の強化,INFCE後への対応,放射性廃棄物管理の現状と評価等について検討が進められた。
 更に,我が国は「NEAデータバンク」,「OECDハルデン計画」,「新国際食品照射計画」及び「国際ウラン資源評価計画」等の各プロジェクトに参加し資金分担及び専門家を派遣する等同機関の事業に対し貢献を行った。
 なお,昭和54年4月,同機関の最高議決機関である運営委員会の議長に,日本原子力研究所の村田理事長が選出された。同委員会議長に欧州域外国の代表が選出されたのは,今回が初めてのことである。

③経済協力開発機構国際エネルギー機関(OECD-IEA)
 経済協力開発機構国際エネルギー機関は,石油供給不足への対応をはじめ,長期的には代替エネルギーの開発等による輸入石油への依存度の低減を目的として昭和49年11月に設立された。
 我が国の原子力分野での協力としては,日本原子力研究所が,  「原子炉安全研究開発技術情報交換」及び核融合に関する「強力中性子源(INS)の建設を目標とする共同研究開発計画」の両実施協定に昭和51年から加盟しているが,更に,昭和53年4月には「核融合炉のための超電導磁石に関する研究開発計画」実施協定に加盟し,同時に日本国政府が「TEXTORによるプラズマ壁面相互作用による研究開発計画」実施協定に加盟した。
 このほか,同機関では代替エネルギー技術研究開発戦略の検討のために原子力を含む各種代替エネルギー技術の評価等のシステム分析作業が行われており,我が国も積極的に参加している。


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