第3章 安全の確保,安全の実証及び環境保全のための調査研究等
1.原子力の安全研究

(1)工学的安全研究

 工学的安全研究は,原子力施設の規制等に必要な安全研究,放射性廃棄物の放出低減化に関する研究及び新型動力炉の開発に伴う安全研究に分類される。
 原子力施設の安全研究は,日本原子力研究所を中心として,国立試験研究機関及び民間機関によって実施された。
 また,原子力施設等の安全研究については,原子力安全委員会の専門部会のひとつである原子力施設等安全研究専門部会において,国及び民間の安全研究実施分担,研究推進体制を含めた計画的総合的推進方策を検討し,昭和54年7月,昭和54年度及び昭和55年度の安全研究年次計画をまとめた。
 同計画では,今後実施すべき安全研究課題について,軽水炉燃料の安全性,冷却材喪失事故,軽水炉施設の構造安全性,原子力施設からの放射性物質放出低減化,原子力施設の確率論的安全評価等,原子力施設の耐震,核燃料施設及び核燃料輸送容器の8分野に分けて,その内容,進め方を述べている。現在この計画に基づいて,各研究機関で研究が実施され,研究成果はこの部会において評価活用が図られている。
 日本原子力研究所では,主として冷却材喪失事故(LOCA)及び反応度事故(RIA)時における現象の解明とこれらの事故時の安全評価のための安全解析コードの開発,並びに原子炉燃料と材料の安全性に関する研究が行われた。
 冷却材喪失事故に関する研究については,昭和48年度から,ROSA-II計画として,冷却材喪失事故時の緊急炉心冷却装置(ECCS)の効果について,加圧水型軽水炉を模擬した研究を実施し,蓄圧注入系の効果が十分認められること,RELAP―3コードが現象をよく表現していること等の成果を収めた。引き続き昭和53年度からはROSA-III計画として,沸とう水型軽水炉の冷却材喪失事故時のECCSの効果等の研究を進めた。
 また,反応度事故に関する研究としては,原子炉安全性研究炉(NSRR:Nuclear Safety Research Reactor)が昭和50年6月に臨界に達し,反応度の異常上昇時の炉内燃料の挙動,燃料破損に伴う破壊エネルギーの発生機構等について炉内実験を行った結果,現行安全審査上採用されている燃料の破損しきい値及び燃料の破壊しきい値は,安全上十分余裕を持つ値であることが立証された。今後は被覆管照射燃料について実験を行うことになっている。
 関係国立試験研究機関においては,次のように炉外実験及び基礎的研究を実施した。
 科学技術庁金属材料技術研究所においては,原子炉用金属材料の腐食と安全性に関する研究,運輸省船舶技術研究所においては,原子炉圧力容器の内圧破壊に対する安全性及び原子炉構造用鋼の動的破壊靭性評価に関する研究等,自治省消防研究所においては,放射性物質輸送容器の耐火性に関する研究,また建設省建築研究所においては,動力炉用コンクリートの安全基準に関する研究等を実施し,引き続き基礎的なデータの集積を行った。
 動力炉・核燃料開発事業団においては,新型転換炉及び高速増殖炉に関する安全研究を,その開発プロジェクトの一環として実施している。新型転換炉については, 一次冷却系の破断試験による冷却材喪失現象の解明等を行うとともに,冷却系配管の破断検出及び破断予知法の開発を行った。高速増殖炉については,再臨界事故時に炉心で発生する機械的エネルギーに対する耐衝撃構造試験,ナトリウム過渡沸とう試験,燃料破損伝播試験,バックアップ炉停止機試験,冷却材喪失事故模擬炉内試験及び反応度事故模擬炉内試験等を実施した。
 このほか,原子力施設から排出されるトリチウム,クリプトン―85等の放射性廃棄物の放出低減化の研究を動力炉・核燃料開発事業団において進めた。

 また,軽水炉の工学的安全研究については,国際協力を積極的に進めており,我が国からはハルデン計画,PBF計画及びLOFT計画その他オーバーランプ計画等に参加している。

(2)環境放射能等の安全研究

①放射能測定法に関する研究
 現在,都道府県衛生研究所等における放射能調査は,科学技術庁が放射線審議会の審議を経て制定した「全ベータ放射能測定法」や「放射性ストロンチウム分析法」等の分析測定マニュアルに従って実施されているが,分析対象核種の増加,分析測定方法の進歩及び測定装置の改良等に伴い,分析測定マニュアルの改訂等が必要となる。

 このため,科学技術庁は次表のように放射能分析測定法を逐次改訂し,あるいは新しく定めてきた。
 また,原子力施設周辺の放射線測定の標準化に関する研究について,通商産業省が(財)原子力安全協会に委託し実施している。
②環境放射能に関する安全研究
 原子力利用の本格化に伴い,国民の健康と安全を図るとの見地から,低線量放射線の人体への影響に関する研究及び原子力施設に起因する放射能による人体への被ばく線量の推定評価に関する研究は,ますます重要となってきている。

 低線量放射線の人体への影響に関する研究及び被ばく線量の推定評価に関する研究を含んだ環境放射能の安全研究について,各研究機関の間に有機的連携を保ちつつ,総合的体系的な観点に立つてこれを推進するため,昭和54年1月,原子力安全委員会に環境放射能安全研究専門部会が設置された。
 同専門部会は,環境及び影響のふたつの分科会を設け,環境放射能安全研究の計画的総合的推進方策等について検討を行ってきたが,昭和54年7月昭和54年度及び昭和55年度の環境放射能安全研究年次計画を取りまとめた。
 同計画は,第1部低線量放射線の影響研究,第2部被ばく線量評価研究のふたつからなっており,それぞれ今後実施すべき研究課題についてその内容,進め方等が述べられている。
 環境放射能の安全に関する研究は,上記年次計画に沿って科学技術庁放射線医学総合研究所,日本原子力研究所を中心に,文部省国立遺伝学研究所等において実施されている。
 放射線医学総合研究所では,低線量及び低線量率被ばくの人体に対する放射線障害の危険度を推定する上で重要な晩発性の身体的影響及び遺伝的影響,並びに被ばく形式の特異性からみて特に内部被ばくの障害評価の3つの研究に着目し,特別研究に指定して研究を実施している。このための施設の整備として,内部被曝実験棟の建設を昭和54年度から4年計画で着手した。
 更に,原子力施設等に起因する環境放射線被曝に関する調査研究として,放射性物質の環境中における挙動,放射性物質の体内代謝,低レベル環境放射線モニタリング等に関する研究を実施している。
 国立遺伝学研究所等では,遺伝子の損傷と再生,体内にとりこまれた放射性同位元素による誘発突然変異及び変異体の検出の効率化を図る研究及び低線量域における高等植物の突然変異と染色体の感受性に関する研究等を実施した。また,(財)原子力安全研究協会では,原子力平和利用委託研究により放射線発ガン誘発機構の解明及び放射線障害の検出技術の確立に関する研究等を実施した。
 農業技術研究所放射線育種場においては,高等植物における突然変異及び染色体の感受性に関する研究を実施した。また,(財)原子力安全研究協会では,原子力平和利用委託研究により放射線発ガン誘発機構の解明及び放射線障害の検出技術の確立に関する研究等を実施した。
 日本原子力研究所では,放射性ヨウ素の環境における挙動,線量目標値に対する自然放射能の弁別測定法の開発,放射性廃棄物の大気中・海洋中への拡散に関する研究,被ばく線量評価コードの開発等を実施した。
 また,これら安全研究の成果は,昭和54年12月原子力安全委員会環境放射能安全研究専門部会が主催して開いた環境放射能安全研究成果発表会で報告されており,被ばく線量評価研究の分野で16編,低線量影響研究の分野で18編の研究成果が発表された。


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