第2章 安全の確保
2.原子炉施設の安全確保

(1)原子炉の安全審査の充実強化

①原子力安全委員会の審議
 昭和54年1月4日から原子力行政の一貫化が行われた。これに伴い原子炉に関する規制は,実用発電用原子炉は通商産業大臣,実用船用原子炉は運輸大臣,試験研究用原子炉及び研究開発段階にある原子炉は内閣総理大臣が,各々設置許可から設計及び工事の方法の認可,使用前検査,定期検査等に至るまで一貫して規制を行うこととなった。
 昭和53年10月4日新しく設置された原子力安全委員会は,行政庁の行う設置許可等に関する安全審査について,最新の科学技術的知見に基づいて客観的立場から再審査(ダブルチェック)する。その際行政庁から提出される安全審査書案等について総合的に審査するが,特に,(I)既に設置の許可等の行われた施設と異なる基本設計の採用,(II)新しい基準又は実験研究データの適用,(III)施設の設置される場所に係る固有の立地条件と施設との関連等に関する安全上の重要事項を中心に審議することになっている。
 実用発電用原子炉等主要施設の設置に関する審査に当たっては現地調査,公開ヒアリング等により地元の状況,地元住民の意見を把握し,これを参酌することになっている。設置許可等の後の各段階における重要事項についてもそれぞれ行政庁より報告を受け,審査することになっている。
 ダブルチェックのための体制については,原子炉安全専門審査会及び核燃料安全専門審査会に学識経験者を配し万全を期すこととしているが,更に日本原子力研究所,放射線医学総合研究所等の研究機関の機能を活用する方策を考えている。

 なお,原子力安全委員会発足後,昭和53年度末までは,原子炉施設の新増設が特になかつたが,原子力安全委員会は,新体制における安全審査体制,考え方等を調査審議し,昭和54年1月26日,「原子力安全委員会の行う原子力施設に係る安全審査等について」を決定した。
②基準名び指針の整備等
 原子炉施設の安全審査に係る基準や指針については,原子炉等規制法,それを受けた原子炉の設置,運転等に関する規則に基づく許容被ばく線量を定める告示,更に「原子炉立地審査指針及びその適用に関する判断のめやすについて」,「発電用軽水型原子炉施設周辺の線量目標値に関する指針について」,「発電用軽水型原子炉施設周辺の線量目標に対する評価指針」等の指針があり,原子力安全委員会は,これらの基準や指針に基づいて原子炉の安全審査を行いつつある。
 これらの基準や指針の整備については,原子力安全委員会に「原子炉安全技術専門部会」を設置し,内外の研究成果実証試験結果を集め,その整備が図られてきている。
 また,これらの基準や指針は,常に最新の知見に基づき見直されるべきものであり,この考え方に基づき日本原子力研究所を中心に反応度安全,熱工学的安全,燃料安全,構造安全等各分野にわたつて安全研究を積極的に進めてきており,このような安全研究の成果や原子力発電所の建設・運転の経験の評価及び安全研究,規制に関する国際的情報交換等を踏まえて,より精微な安全基準や指針の整備を進めている。

(2)発電用原子炉の検査

 発電用原子炉の検査については,電気事業法により通商産業省が使用前検査,燃料体検査,溶接検査,定期検査を行うほか,必要に応じ,立入検査を行うことになっている。
 昭和53年度には,使用前検査については合計9基に対し行うとともに,定期検査については合計14基について行われた。
 また,昭和54年度上期の定期検査は,前年度からの継続が計11基で,新しく4基が定期検査に入り,合計15基について行われた。
 また,通商産業省は,米国の原子力発電所事故後の安全再点検結果の確認のため,合計19基について特別保安監査を行った。

(3)原子力発電所の故障等

 昭和53年度中に原子炉等規制法に基づき報告のあった原子力発電所設備における故障,人身障害は22件であった。また,昭和54年度上期中に原子炉等規制法に基づき報告のあった故障,人身障害は6件であった。いずれの場合も原子炉に重大な影響を及ぼすものではなく,また,従業員の被ばく及び周辺公衆への影響はなかつた。


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