第3章 1980年代への展望と今後の課題
1.原子力発電の見通し

〔原子力発電規模〕
 第1章で述べたように,今日,我が国におけるエネルギー消費の大部分を占める石油に関しては,その使用量の節減並びに輸入量の上限に関する国際約束の実施といった課題を抱えており,石油に代替するエネルギー源の採用,とりわけ原子力発電の推進を中心としたエネルギー政策の強力な推進が1980年代の最重要課題となっている。
1980年代を迎えるに当たって発電規模をその10年前と比較してみると国内の総発電設備容量は約2倍となり,また,電気エネルギーが,エネルギー供給全体に占める比率も約3ポイント増加した。このように国民経済を支えていく上で,近年における電気エネルギーの役割はますます重要となってきている。
 これを原子力発電についてみると,約10年前の設備容量の約10倍余に当たる約1,500万キロワットが運転中であり,当時2パーセントであった原子力発電の比率も10パーセントをゆうに上回る程に成長している。このため1980年代に向けての原子力政策においては,特に原子力発電を通じてエネルギー問題への貢献を図っていくことが緊要の課題となっている。
 将来の原子力発電規模に関しては,昭和54年8月に総合エネルギー調査会において立地の難航という現状を考慮した結果,昭和60年度3,000万キロワット,昭和65年度5,300万キロワット,昭和70年度7,800万キロワットとの見通しを立てており,長期計画における昭和60年度3,300万キロワット,昭和65年度6,000万キロワットという目標からは,約1年余の遅れが見込まれるものの,1970年代を原子力発電の導入及び実用化時代であったと称するならば,1980年代という今後の10年間は定着化及び拡大時代であるといえよう。しかしながら,長期計画にも示したように,この規模を達成するに当たっての当面の最も大きな課題は立地問題であり,今後ともその打開のために政府及び民間による最大限の努力を必要としている。
 一方,エネルギー政策あるいは原子力政策という観点からは,10年間という期間は比較的短いものであり,当面の1980年代への展望は同時に21世紀につながる総合的な政策の一環となるものでなければならない。
 原子力委員会としては,先の長期計画の決定に際してもこのような点に十分留意してきたところであるが,近年においては,かかる観点から,原子力政策あるいはエネルギー政策策定のために,更に長期にわたるエネルギー需給予測の評価をしようとする試みが国際機関をはじめ内外で進められるようになっている。このような試みによれば,今後の石油供給の制約下において我が国がある程度の経済成長を続けて行くことを前提とすると,原子力発電は2,000年には規模にして1億キロワット以上,21世紀前半には2億キロワット以上になり,我が国の一次エネルギー供給全体の4分の1ないし3分の1を賄うことが予想され,また,21世紀以後の原子力発電所は高速増殖炉が主体となっていくとの予測調査結果が示されている。
 今後は,これらの調査結果をも参考とし,将来の高速増殖炉,新型転換炉等の技術開発の進展をも踏まえながら我が国の原子力発電規模の見通しをより具体化していく必要がある。
 なお,原子力発電の経済性については,原子力委員会からの最近の委託調査の結果及び他の諸外国等で行われた調査等をみると,原子力発電の経済性が他のエネルギー源に比較して問題があると考えねばならない徴候は認められていない。したがって経済性の問題が前述の原子力発電規模に影響を与えることはないと考えるが,稼働率の向上,放射性廃棄物の処理処分,寿命のきた原子力施設等の廃止(いわゆるデコミッショニング)等の諸課題への取り組みに当たっては,経済的な見通しの一層の明確化等の観点からも,今後とも努力を重ねていくこととしている。

 〔軽水炉の定着化〕
 軽水炉は,今日世界で最も一般的に広く利用され,またその設計,運転に至る諸技術データも蓄積完備し,かつ,安全研究の進んだ信頼度の高い炉型であるとされている。我が国においても,高速増殖炉及び新型転換炉の実用化までの間は,この軽水炉が前述のような規模の原子力発電の大宗を担っていくこととなる。
 我が国における軽水炉技術については,米国からの技術導入を基礎として,逐次国内での安全研究や安全性試験,改良・標準化等,その定着化のための努力が進められてきた。この結果,近年では必要な自主技術の確立が達成されつつあるが,これが真に自己のものとして消化されているか否かについては,なお改善の余地があると思われる。上述のように,当面は軽水炉の拡大を図らねばならないことを考えれば,今後とも軽水炉技術定着化のための努力を払うことが必要である。
 安全研究の実施や改良標準化の指導等を推進することにより,政府においては引き続きこの面で貢献していくことが可能と思われるが,民間においても関連企業を中心として一層の自主的な技術開発努力を蓄積するとともに,電気事業者においてもこれらの技術開発の成果を積極的に取り入れる努力が必要である。
 このような自主的な技術の蓄積と電気事業者の協力を通じて,はじめて軽水炉技術を自家薬籠中のものとし,安易に海外技術を依存することなく,独力で所要の性能の保証を行いうる力を身につけていくことが可能になると考える。このことが,ひいては安全性の一層の確保,信頼性の一層の向上を図ることにも貢献することとなり,我が国に適した軽水炉としての定着化を促進することとなろう。


目次へ          第3章 第2節へ