第Ⅱ部 原子力開発利用の動向
第9章 放射線利用

2 放射性同位元素等の取扱いに係る安全管理

(1)放射性同位元素等の許可及び届出
 放射性同位元素等の取扱いに伴う安全性の確保については「放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律」(放射線障害防止法),労働安全衛生法,医療法,薬事法等に基づき,所要の規制が行われている。このうち放射線障害防止法による規制の概要は以下のとおりである。
 ① ○放射性同位元素又は放射線発生装置を使用しようとする者
○放射性同位元素を業として販売しようとする者
○放射性同位元素又は放射性同位元素によつて汚染されたものを業として廃棄しようとする者

 は,科学技術庁長官の許可を受けなければならない。
(密封された放射性同位元素の1工場又は1事業所当たりの使用総量が100ミリキュリー以下の場合には届出)
② 取扱いを開始する前に,放射線障害予防規定の作成,届出,放射線取扱主任者の選任,届出をしなければならない。
③ 取扱いに当たつては,総理府令で定める使用,詰替保管,運搬(手運びの場合に限る。但し,その他の運搬手段による運搬については,運輸省令で定める。)及び廃棄の技術上の基準に従つて行うとともに,使用,保管等の記帳,従業員の被ばく線量測定等を行わなければならない。
 これら使用の許可や販売,廃棄の事業の許可に当たつては,事業所等から申請された使用,詰替,貯蔵,廃棄施設等の内容について,同法に規定する許可基準に適合しているか否かを厳正に審査したのち,適合しているものについて許可(届出の受理)をしている。
 このような規制により,作業従業者の安全を図るばかりでなく,線量率の測定の義務付けや排気,排水中の放射性同位元素の濃度を規制することにより,事業所外の一般公衆の安全の確保を図つている。
 これら事業所は,教育機関をはじめ研究機関,医療機関,民間企業等多岐にわたり,その数も年々増加している。使用事業所については,昭和52年度には新たに121事業所が使用の許可を受け,218事業所から使用の届出があつた。また,使用の廃止等の届出が許可事業者から69件,届出事業所から56件行われた結果,昭和52年度末の使用事業所数は3,715事業所となつた。
 販売事業所は,昭和52年度には17事業所が許可され,4事業所から廃止の届出が行われた結果,合計161事業所となり,廃棄事業所は昭和51年度と同じ6事業所であつた。
 なお,昭和52年度末の使用,販売,廃棄事業所の総計は3,882事業所となつている。

(2)放射性同位元素等取扱事業所に対する立入検査
 放射線障害防止法では,科学技術庁長官は,同法又は同法に基づく命令の実施のため必要があると認めるときは,使用事業所等の放射線取扱施設に放射線検査官を立ち入らせ,必要物件の検査等を行わせることができることになつている。この規定に基づき,使用事業所等への立入検査が毎年行われているが,昭和52年度には472事業所について立人検査が行われた。

(3)放射性同位元素等取扱事業所における紛失等の事件
 放射性同位元素に係る紛失,被ばく等の事件は,昭和52年度には,大学における紛失1件,被ばく事件が1件であり,発生した事件の概要は,次表のとおりである。

(4)放射性同位元素等の安全管理対策の実施
 近年放射性同位元素や放射線発生装置の利用が著しく普及拡大しているが,その取扱いに係る安全の確保については,昭和52年度は,「放射線障害防止対策要綱」(昭和49年8月策定)に基づき,科学技術庁において関係予算の増額,放射線障害防止法の許認可等の厳正な審査,立入検査の効果的な実施等行政運営の改善強化に努めるとともに,関係各省庁の協力を得て次のような施策を実施した。
① 立入検査等監督指導の強化と「放射性同位元素の盗難防止対策要綱」(昭和50年3月策定)の徹底並びに関係9省庁からなる「放射線障害防止関係省庁連絡会議」(昭和49年5月設置)による関係行政の円滑かつ効果的な実施
② 自主的安全活動を進めるため,関係業界27団体により構成されている「放射線障害防止中央協議会」(昭和49年10月設立)と共同して放射線安全管理講習会を開催(大阪,東京,非破壊業界対象)した。
③ 東海地区震災対策や非破壊検査専業事業所の安全対策を重点とする検査を含む全国400余の事業所に対する立入検査の実施
④ 29核種について核種が明らかである場合の空気中又は水中の許容濃度の新たな規制の実施,中性子の粒子プルエンスから線量当量への換算値の改定等のため,昭和35年科学技術庁告示第22号を一部改正
⑤ 運搬(国際原子力機関関係),廃棄(海洋汚染防止条約関係),健康診断に関する放射線障害防止関係法令の規定の見直し作業

(5)関係省庁における施策
 関係各省庁の実施した主な施策は次のとおりである。
① 人事院 国家公務員に係る放射線障害防止を目的とした健康,安全管理担当者研修会の開催,健康・安全管理状況監査の実施並びに放射線施設・設備等の設置及び使用等の状況調査結果の人事院月報等による公表
② 警察庁 警察職員に対する放射性同位元素関係の情報提供と例年11月中に行つている放射性物質を含めた危険有害物運搬車両の取締りの実施
③ 厚生省 医療監視員等に対する放射線障害防止関係研修・講習会等の実施と放射性医薬品に関連する問題点の摘出と検討,29核種についての核種が明らかである場合の空気中又は水中の許容濃度の新たな規制の実施,中性子の粒子フルエンスから線量当量への換算値の改定等のための規則の改正
④ 運輸省 放射線障害防止法に基づく「放射性物質車両運搬規則」,船舶安全法に基づく「危険物船舶運送及び貯蔵規則」及び航空法に基づく「航空法施行規則」に規定する放射性同位元素の運搬基準の徹底と同規則の改正の検討並びに「船員電離放射線障害防止規則」の改正による29核種についての核種が明らかである場合の空気中の許容濃度の新たな規制の実施,中性子の粒子フルエンスから線量当量への換算値の改定のための規則の改定
⑤ 労働省 電離放射線障害防壮規則の改正による48核種についての核種が明らかである場合の空気中の許容濃度の新たな規則の実施,中性子の粒子フルエンスから線量当量への換算値等の制定及び非破壊検査の安全確保に関し,ガンマ線透過写真撮影作業主任者試験の実施と原子力発電所など関係事業場への監督指導の実施並びに労働基準監督機関職員に対する放射線障害防止関係研修の実施
⑥ 消防庁 市町村の消防機関に対する放射性同位元素係る情報の提供とこれに基づく立入り検査等の指導


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