第Ⅱ部 原子力開発利用の動向
第7章 新型炉と核融合の研究開発

1 高速増殖炉

 高速増殖炉は,発電に消費する以上に核分裂性物質(プルトニウム)を生産するという点で,核燃料の有効利用における意義は極めて高く,フランスをはじめとする先進諸国がその開発を鋭意進めている。
 我が国における高速増殖炉の開発は,新型転換炉と同様に,動力炉・核燃料開発事業団が,内閣総理大臣の定めた「動力炉開発業務に関する基本方針」及び「同基本計画」に従つて実施しており,現在,実験炉は熱出力5万キロワットに達し,発電炉として基本的な機能を実証することを目的とする原型炉の建設準備を進める段階となつている。
 なお,M述の新型動力炉開発専門部会においては,高速増殖炉の開発に関し検討を行い,原型炉の建設計画は,実験炉の建設,運転,研究開発の成果,海外における技術開発の動向に照らし,妥当であるとしている。また,「高速増殖炉の実用化を円滑に進めるためには,昭和60年代半ばまでに,実用炉の経済的見通しの確立と技術的諸性能の実証を目的とする実証炉の建設が必要である。」としており,「動力炉・核燃料開発事業団は,関連研究開発を進める。」との方針が示されている。

(1)実験炉の建設,運転
 実験炉(常陽)は,我が国初のナトリウム冷却型高速増殖炉であり,この設計,建設,運転を通じて高速増殖炉に関する技術的経験を蓄積するとともに,完成後は,燃料,材料等の照射施設として利用することを目的としている。
 実験炉(常陽)については,昭和45年2月,原子炉等規制法に基づく設置が許可され,茨城県の大洗工学センクーにおいて建設を進めてきた。昭和49年末には機器据付けを完了し,昭和52年2月総合機能試験を終了し,昭和52年4月,初臨界を達成した。その後,低出力での炉物理特性を中心にした実験を終了した後出力を上昇し,昭和53年7月,第1期目標熱出力5万キロワットに達した。なお昭和54年度には熱出力を7.5万キロワットに上昇させる予定としている。

(2)原型炉の設計
 原型炉(もんじゅ)は,その設計,建設,運転の経験を通じて,高速増殖炉の性能,信頼性等を確認し,更に将来の実用炉の段階における発電炉として経済性の目安を得ることを目的としている。
 原型炉(もんじゅ)の設計については,昭和43年度に予備設計を行い,更に昭和44~47年度に第1次~第3次設計を行つた。昭和48年度以降は,その後の研究開発の成果等を反映させるための調整設計を,その後昭和52年度から開始した製作準備設計を昭和53年度も継続して実施するとともに,建設準備を進めている。

(3)研究開発
 高速増殖炉の研究開発は,大洗工学センダーのナトリウム流動伝熱試験装置,50MW蒸気発生器試験施設等の各施設を中核として実施されているほか,日米,日英,日独仏の協力が動力炉・核燃料開発事業団を当事者として行われている。

①炉物理
 日本原子力研究所に設置されている高速臨界実験装置(FCA)を用いた原型炉炉心の部分モックアップ実験を前年度に引き続き実施しているほか,高速炉炉心核設計法の確立のためのバーンアップ計算法の開発,炉定数の作成と評価,核データの評価等を実施している。

②ナトリウム技術
 ナトリウム中での構造材料の特性を調査するため,材料試験ループ等を用いて,質量移行試験,各種クリープ試験等を行つている。
 また,ナトリウム流動伝熱試験装置を用いて,燃料集合体を中心とした各種機器の耐久試験,確性試験を行つたほか,ナトリウム分析の開発を実施するとともに,高温ナトリウム中材料試験施設の建設を行つている。

③主要機器,部品
 実験炉用構造機器については,ナトリウム冷却系機器の耐久試験等を行つた。原型炉用構造機器については,燃料交換機,制御棒駆動機構等のモックアップ試験,炉体構造について水流動試験,1次収納構造,構造物について健全性試験,原子炉容器についてナトリウム熱衝撃試験,NaKについて流動試験を行つた。また,供用期間中検査装置回転プラグシール構造ナトリウム用大型弁類熱膨張吸収装置等の開発等を行つた。

④計測制御
 原型炉において使用する検出器,回路系の開発を中心として,炉内及び炉外中性子検出器,破損燃料検出装置の試作,試験等を行つた。

⑤燃料・材料
 フランスの実験炉ラプソディー等による燃料照射を引き続き行うとともに,燃料ピンの製造技術の開発,照射燃料試験施設(AGF)等における照射後試験等を実施した。

⑥安全性
 大洗工学センターの高速炉安全性試験室におけるナトリウム過渡沸とう試験等の炉内安全研究を行つたほか,1次系配管の破断及び信頼性に関する研究,放射性希ガス除去回収技術の開発等を実施している。また国際共同研究である冷却材喪失事故及び反応度事故模擬炉内試験の準備等を実施した。

⑦蒸気発生器
 熱出力50MW蒸気発生器2号機による試験運転を実施した。
 またナトリウムー水反応試験では,大リーク及び小リークのナトリウム水反応試験を継続して実施したほか,蒸気発生器安全性総合試験装置での大規模ナトリウムー水反応試験を実施した。

⑧再処理
 高速増殖炉燃料に対して,世界の主流を占める湿式再処理法を適用することとし,再処理試験施設の予備設計,主要工程の研究を行うとともに,高レベル放射性廃棄物処理処分技術開発施設の建設を進めた。

⑨国際協力
 高速増殖炉に関する日英,日米,日独協力は順調に進展した他,ソ連との協力が昭和53年1月に両国により合意され,昭和54年度から開始されることになり,また,昭和53年6月,日独協カプロジェクトに仏国が加わることになつた。


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